第四話 激闘
中島の圧倒的な力を前に、己の体を支配する恐怖を押しのけ、雲仙は能力を発動させる。
稲光を纏いながら蒼き発光体となった雲仙は稲妻の速度で中島の背後に回り、蹴りを直撃させる。
続く連撃、雲仙が吹き飛ぶ中島に追いつき、拳を打ち下ろすと、中島は弾け飛ぶように大地へと激突した。
更に雲仙が、再び稲妻の速度で中島の周囲を駆け抜けると、青い光が尾を引きながら、残影を置く。
「はああああっ!」
そして雲仙は凄まじい速度で、中島を翻弄し、真上から落雷と同等の速度で蹴りを放つ。しかし――
「なっ!」
その足は、中島の左腕に捕らえられていた。
「馬鹿な、このスピードを!」
すると、雲仙の足を掴みながら悠然と立ち上がる中島の額には、大きな眼。つまりは第三の眼が出現していたのだ。
「この眼で捉えられないものはねえ、例え稲妻だろうとな」
「くっ」
雲仙を逆さに持ち上げ、大剣を振り上げる中島。
刹那、火球が中島の顔面で炸裂し、その衝撃で中島は雲仙の足を離す。
一瞬の隙を付き、雷速で距離を取る雲仙は、火球を放った火神の元に着地する。
「大丈夫雲仙君?」
「ああ、何とかな」
短い攻防ではあるが、力の差はもはや歴然。
しかし雲仙は笑みを浮かべた。
「わかったぞ奴の力の正体が」
「えっ?」
そして言い放つ。
「大剣、黒い炎、第三の眼……これらの能力を持つ中島が抱くトラウマは――」
これだけの驚異的な力を持つ中島のトラウマの正体を明かそうとする雲仙に、火神は生唾を飲み込む。
「中二病だ!」
「は?」
「いやだから中二病だってあれ間違い無く」
「何言ってんのあんた」
あまりにも突拍子も無い雲仙の回答に、火神は溜め息を吐いた。
「その通りだ」
しかし中島は、その答を肯定した。
「俺の能力は中二病っぽいのなら大体使えるというAOUだ。中学二年生のあの日俺は――」
――聞いても無いのに語り出したよ、面倒くせえなこいつ。
「怪我もしていないのに腕に包帯を巻いていた。病気でもないのに眼帯をしていた。誰かがいる場所でわざと『おいおい学校に付いてきたら駄目だろ』とか見えない妖精に話しかけたり、屋上で居るはずの無い闇の刺客に狙われている素振りをしたりは日常茶飯事。俺の中では、俺は異世界ヴェルヴォヴの魔王ヴリトラの生まれ変わりで、魔王の転生者でありながら、この世界をヴェルヴォヴからの刺客から守るため秘密結社ヴァイスレーヴェと手を組んで戦っているという設定だった」
――随分ヴが多いなおい。
「皆俺には触れないようにしてたようだが、ふとした事からクラスのイジメっ子に設定ノートを晒され、俺は魔王ダビデ12世とかいう訳のわからんアダ名でからかわれるようなった。やがて『おい魔王真の姿を見せてみろ』と言いながら殴られ、蹴られるようになり。密かに思いを寄せていた女の子にも『不細工なのは仮の姿なの?』とか言われる始末」
「……うわあ」
あまりにも悲惨な過去に、火神は終始顔を引きつらせていた。
「俺の青春は完全に終わった。高校にも行かず、ニートを十年程続けながら、黒歴史を思い出しては毎日毎日涙で枕を濡らす日々。やがて俺をこんな状況に追い込んだ奴等に、社会に、この世界に復讐してやると心に誓った、毎日毎日毎日毎日! 気が付けば俺はこのAOUの力に目覚め、覚醒者となっていた。力を行使し、街を破壊すれば、ネメシスの連中が躍起になって俺を狩りに来るようになったが、それも返り討ちにし、今や俺に敵はいない! この力で俺はいずれこの国を、そして世界を制する!」
雲仙の背には隻翼が出現し、大剣には黒い炎が螺旋状に纏っている。その凄まじい圧力に大気が震えていた。
「あとてめえら、俺がせっかく親から受け継いだ喫茶店がぶっ壊れちまったじゃねえかあああああああ!!」
咆哮と共に、掲げた大剣を雲仙が振るうと、黒い炎の奔流が唸りを上げ、アスファルト切り裂き、溶解させながら雲仙に襲い掛かる。




