第4話 絶望の中の一筋の光
【第九十九階層ボス部屋・エリカ視点】
わたしたちは一人の騎士と対峙していた。
「貴様ら、なぜ学ばないのだ」
そう一言、開戦前にその黒き騎士は言った。騎士と言うのはボスモンスターである彼が全身を鎧で覆っていて人間と大差ない体格をしていたからだ。
その人ことを鼻で笑った第一級冒険者の一人が第一線をきり、一瞬で首をはねられた。
「だから、なぜ学ばん」
その一瞬の出来事でこの場の冒険者全員が気づいた。むろんこのわたしも……。わたしは知らなかったのだ。
ダンジョンの最下層に値するボスモンスターがこんな化け物だったなんて。次に足の震えと恐怖を抑えながら第一級冒険者たちは黒騎士の周りを囲み一斉に斬りかかった。
わたしも魔法を構成し冒険者たちに補助魔法をかけていく。しかしそんなものは意味をなさなかった。
一人いれば大規模パーティーの戦力に匹敵すると言われる第一級冒険者たちがほとんどなすすべなく斬り刻まれていく。
「なんでこんな強いの?」
わたしは震える声で語りかけた。黒い騎士は全員を殺すことはなかった。黒い騎士の言葉を鼻で笑い馬鹿にした人間だけに絞り殺していることに気付いた。
黒騎士は自分の実力に気づき恐怖している冒険者には打撃だけで対処している。この騎士はすべてを殺す気はないようだ。
「わたしが強いのはわたしにもわからない。しかし分かっているのは貴様ら人類が弱いと言うことだ」
「弱い? でもわたしたちはこれでも第一級の冒険者と呼ばれていて──」
「ぬかせ。人類の尺度で我々の力を測るな」
わたしは最後に切り札である光の最上位魔法ホリーカノンを発動した。
「ふん、その一撃をわたしが凌いだら、貴様らは全員帰れ」
「……ッ」
わたしはこのホーリーカノンを最後まで発動しなかった。悔しいが気づいたのだ。何をしてもわたしたちの実力ではこの化け物には勝てないと。
他の冒険者たちを見渡しても皆絶望と後悔の顔でいっぱいになっていた。なかには黒騎士から放たれる覇気に圧倒されてその場から動けなくなっている者もいる。
「わたしはどうしてもこの先に行かなくちゃいけないの」
「──」
「だから黙ってわたしに倒されてちょうだい」
「──はあ……帰れ。わたしは寝る」
そう言い。騎士はボス部屋の一番奥にある玉座に腰かけ眠りだした。わたしはあまりにもの対応にプライドを傷つけられた。他の冒険者も同じだろう。
「エリカ、ここは大人しく帰ろう」
一人冷静なカエルが言う。
「でも! このままじゃみんながッ」
悔しい気持ちでいっぱいになりなにもできずにいたわたしたちの前にある声が届いた。
「なにこれ……どういう状況?」
それはあまりにも気の抜けた声だった。
【バラキアス視点】
「なにこれ……どういう状況?」
俺がこんな疑問になったのはこの目の前の状況。モンスターを倒しながら歩き続け、九十八階層へ続く階段を上り扉を開けば、殺気と血で溢れた空間が広がっていた。あたりを見渡せば玉座に眠った黒い騎士が一人。
血を流し倒れている……おそらく死んでいるであろう人間が数人。生きている人間が四十人ほどバラバラに立っている。
「ヘル、なんだと思うこれ」
「見ての通りの光景だと思いますよ」
「というと?」
「挑戦者がボスに敗れて絶望している光景です」
なるほど。一回もボス戦の機会にあったたことがないからこの空気が分からなかった。そうか、ボス戦ってこんな空気になるのか。俺は誰も挑戦者が居なくてよかったとほっとした。
「どうする、俺達完全に部外者だけど、あの黒い騎士も連れてく?」
「そうですね。ボス同士のよしみで声だけでも確認してみますか」
俺たちはこの光景を一旦無視することにした。寝ている黒い騎士に近づき話かける。
「俺はバスキアス、第百階層のボスだった者だったんだけど」
俺の言葉にぴくっと頭を震わせ反応する騎士。
「その言葉は本当か?」
何故か事実を確認してくる騎士。俺は隠しているわけでもないし嘘をつく理由もないので軽くうなずいた。
「そうか、なら貴様は我より強いのだな」
「えっと、それはわからないけど、ダンジョンに聞いてくれ」
「ふむ、なら一度手合わせ願ってもいいだろうか。ここにいる人間たちにも学んでもらわなければ」
なんでも黒騎士さんの実力をなめてかかって挑戦者が現れるようになって百五十年間。ずっとこんな状態が続いたのだそうだ。それで現状に飽き飽きして人類に失望した黒騎士さん。俺はなんとなく事情が読めた。
「えっと、軽く遊ぶ程度なら構わないけど」
「ふむ、感謝する」
俺は腰に掛けている愛剣を抜いた。黒騎士も自分の剣を抜く。俺と黒騎士は互いの呼吸を推しはかりながら出方を見て一瞬で肉薄した。
剣と剣の衝突。俺の大したことのない覇気と黒騎士さんのバカでかい覇気が衝突し、剣風が巻き荒れた。




