異世界職業安定所
「8番の札をお持ちのお客様〜」
声をかけながら、テーブルの脇のスイッチを押すと、窓口に立てられた小型の液晶に、『8』と表示される。
ここは異世界職業安定所。様々な作品で出番を終えた『キャラクター』が次の作品に出向くための、マッチング場所だ。
手元にメモとタブレットを引き寄せて、窓口から待合の椅子の方に目をやる。
一人の若者が立ち上がって、こちらに向ってきていた。長い金髪をたなびかせ、憂いを帯びた赤い目をしている。
腰には細身の剣を差して、王子様のような格好をしている。
「よろしくお願いします」
出された8番の札を預かりながら、椅子にかけるように促す。
「えーと、それでは、お名前を確認しますね」
「ロンド・セドルシア・エリシオです」
「二つ名はございますか?」
「はい、音速と黎明の剣術士です」
事前に出された申告票と照らし合わせる。
「はい。確認とれました」
申告票のチェック欄に印をつける。
「こちらの職業安定所は初めて、ということなので、システムからご説明しますね」
「はい」
「こちらに来られたということは、以前の作品で一旦お仕事を終えられ退場した。あるいは、作品が途中で止まったため、別の作品に移らざるを得ない状況にあられるわけです」
この説明も、慣れたものだ。今ではカンペも必要ない。
「はい」
「そして、この安定所では、そう言ったキャラクターの方に、新たなお仕事先をマッチングをしております。ここまでよろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
「ただし、そのまんまのお姿というわけには参りません。もしもマッチングしても、『パクリ』になるおそれもございます」
「パクリ……」
「まぁ、そうなるのは現役の有名作品のキャクターさんと似通ってる場合ですから、そこまでは気にする必要はありません。ただし、なんとなく似てるというだけで、マッチングが不成立となる場合もありますので、注意だけは必要しておきましょうね」
「はい」
音速と黎明の剣術士こと、ロンド・セドルシア・エリシオさんは、真面目な顔で頷いた。
「パクリの件もさることながら、ある程度一般的な属性や、昨今の流行りを抑えた上で、マッチングに臨むことが成立の鍵になりますので、そのへんもしっかり考えていきましょう」
「はい」
「ところで、二つ名の音速と黎明の剣術士なんですが、これって……」
「あ、はい。造語です。作中の言語か何かだそうです」
タブレットにメモを取る。こういうアイディアは固定なので、再就職時には、真っ先にクリーニングが必要だ。
「なるほど。ちなみに前のお仕事場なんですが……なるほど、ファンタジーでしたか。転生や転移のご経験は?」
「いえ、ありません」
「なるほど。では、元々、その異世界の住人枠でのお仕事ですね。ちなみに作中での台詞や話し方などはどのような感じで?」
「……己の剣は、お前らには捉えられない……! 疾風音衝迅刃!」
「みたいな感じです」
なるほど──
「三点リーダー多めのクール系だったんですね〜。まだ結構おられるので、そのへんはきっと大丈夫ですよ。それと……ルビなんですけど、ブレイ『ブ』なんですね、ブレイ『ド』じゃなく」
「はい。理由はよく知りませんが……」
「まぁ、そう言う特殊な部分は一旦クリーニングしてから、マッチングに臨みましょうね。マッチング後に出てくる場合は、やりすぎなければ……まぁ大丈夫でしょ」
再度、ロンド(略)さんのビジュアルを確認する。金髪で線が細い。このビジュアルでクール系だと……。
「エルフ……ですかねぇ」
「エルフですか?」
ロンド(略)さんが訝しげな顔をする。
「ベタですけど、マッチング率は高いんですよ」
「でも、男のエルフなんて、モブばっかりですよね?」
なかなか痛いところをついてくる。
「まぁ、確かにそういう需要が多いですけど、個性の出し方によっては、レギュラーも夢じゃありませんから」
「ヒロインの父親役とかですか?」
「はは、まぁあくまで一例ですから」
少しベタすぎたか……。
「う〜ん、もう少し考えてみます」
「ご希望の作品やジャンルが決まりましたら、あちらのマッチング係まで希望シートを出してくださいね」
笑顔で送り出す。
なんだか、今日は調子が悪い。
「9番の方どうぞ〜」
気を取り直してボタンを押す。
窓口に、緑色の巨体が、ぬっと姿をあらわした。
「あ、オークのかたですね。お名前をお願いします」
「オークBです」
「はい、確認とれました。今回はどのようなご相談で?」
オークのかたは、割と回転が早く需要も高いので、マッチング率が高い。普段なら、あっという間に片付く案件だ。
「僕、今まで所謂『普通の』オークとして、やってきたんですけど」
「はい」
手元の履歴情報を見る。なかなか経験豊富だと思う。
「主役……できないかな、って」
「主役ですか?」
「はい。オーク仲間が主役になったって話を聞いて、自分もできたらなって」
ふーむ。
「確かにそういうケースは沢山ありますし、オークの方をメインに据えた作品もあります」
「じゃあ、僕でも──」
「ですが、後発になる恐れがあります」
「後発……」
「長い作品にならなかったり、二番煎じとレッテルを貼られたり、難しいケースも多いですよ?私としては、ビジュアルを少しリアルに寄せて、オークを主役にした作品のレギュラーを狙うことをお勧めしたいところです」
「だけど、やっぱり主役にはこだわりたいです」
なかなか手強い。
「なるほど、では──AIとかの属性乗せてみますか? 『オークに転生したAIは魔王になって、RTA世界征服狙います 〜なお、このオークはAIであり、間違えることがあります〜』とか?」
「僕は今までファンタジー畑ばかりでAIとかには、詳しくないんですが……」
「じゃあ、心はそのままに女の子になったりとかは可能ですか?」
「僕がですか? オークなのに?」
「TSはよくありますので、『オークの俺が転生したら絶世の美少女になっていたのだが 〜TS少女は元オーク!?〜』とか、かなり細い線ですがマッチングすれば主役は確実かと」
オークBさんは、考え込んでしまった。
やはり、何かおかしい。自分が自分の意思で話してないような違和感がある。
「少し、考えます」
オークBさんは頭をかきながら、窓口から離れていった。
──嗚呼、この平易でひねりも飾りもない描写!それに、あの貧困な発想!
「すみません、ちょっと0番入ります」
隣の職員に声をかけて、席を離れて、お手洗いの個室に入る。
これは、間違いなさそうだ
──今、私は『作品』に登場している。
私はマッチング希望を出してない。
イレギュラーマッチングってやつだ。
この感じは短編?
──なら、まだマシか。
個室にため息が漏れる。
作者の都合で動かされるのが嫌で、安定所勤めを始めたっていうのに……。
内省しても、この作者じゃお話にはならない。
場面を動かすために窓口へと戻る。
そして! この際だから、言っておく。
こっちも苦労して、キャラクターと作品をマッチングさせてるんだから、ちゃんと『作品』を全うさせなさい! 適当にマッチングさせて、キャラクターの使い捨てをするんじゃない!
ふぅ、とりあえず作者に言いたい事も言ったし、そろそろ終わるでしょ。
──私は気持ちを切り替えて、ボタンを押した。
「10番の方どうぞ〜」
作者「どうもすみませんでした。がんばります」




