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異世界職業安定所

掲載日:2026/04/19

「8番の札をお持ちのお客様〜」


 声をかけながら、テーブルの脇のスイッチを押すと、窓口に立てられた小型の液晶に、『8』と表示される。


 ここは異世界職業安定所。様々な作品で出番を終えた『キャラクター』が次の作品に出向くための、マッチング場所だ。


 手元にメモとタブレットを引き寄せて、窓口から待合の椅子の方に目をやる。


 一人の若者が立ち上がって、こちらに向ってきていた。長い金髪をたなびかせ、憂いを帯びた赤い目をしている。


 腰には細身の剣を差して、王子様のような格好をしている。


「よろしくお願いします」


 出された8番の札を預かりながら、椅子にかけるように促す。


「えーと、それでは、お名前を確認しますね」


「ロンド・セドルシア・エリシオです」


「二つ名はございますか?」


「はい、音速と黎明の(スピルディール・)剣術士(ソーディアン)です」


 事前に出された申告票と照らし合わせる。


「はい。確認とれました」


 申告票のチェック欄に印をつける。


「こちらの職業安定所は初めて、ということなので、システムからご説明しますね」


「はい」


「こちらに来られたということは、以前の作品で一旦お仕事を終えられ退場した。あるいは、作品が途中で止まったため、別の作品に移らざるを得ない状況にあられるわけです」


 この説明も、慣れたものだ。今ではカンペも必要ない。


「はい」


「そして、この安定所では、そう言ったキャラクターの方に、新たなお仕事先をマッチングをしております。ここまでよろしいですか?」


「はい。大丈夫です」


「ただし、そのまんまのお姿というわけには参りません。もしもマッチングしても、『パクリ』になるおそれもございます」


「パクリ……」


「まぁ、そうなるのは現役の有名作品のキャクターさんと似通ってる場合ですから、そこまでは気にする必要はありません。ただし、なんとなく似てるというだけで、マッチングが不成立となる場合もありますので、注意だけは必要しておきましょうね」


「はい」


 音速と黎明の(スピルディール・)剣術士(ソーディアン)こと、ロンド・セドルシア・エリシオさんは、真面目な顔で頷いた。


「パクリの件もさることながら、ある程度一般的な属性や、昨今の流行りを抑えた上で、マッチングに臨むことが成立の鍵になりますので、そのへんもしっかり考えていきましょう」


「はい」


「ところで、二つ名の音速と黎明の(スピルディール・)剣術士(ソーディアン)なんですが、これって……」


「あ、はい。造語です。作中の言語か何かだそうです」


 タブレットにメモを取る。こういうアイディアは固定なので、再就職時には、真っ先にクリーニングが必要だ。


「なるほど。ちなみに前のお仕事場なんですが……なるほど、ファンタジーでしたか。転生や転移のご経験は?」


「いえ、ありません」


「なるほど。では、元々、その異世界の住人枠でのお仕事ですね。ちなみに作中での台詞や話し方などはどのような感じで?」


「……(オレ)の剣は、お前らには捉えられない……! 疾風音衝迅刃(ウインド・ブレイブ)!」


「みたいな感じです」


 なるほど──


「三点リーダー多めのクール系だったんですね〜。まだ結構おられるので、そのへんはきっと大丈夫ですよ。それと……ルビなんですけど、ブレイ『ブ』なんですね、ブレイ『ド』じゃなく」


「はい。理由はよく知りませんが……」


「まぁ、そう言う特殊な部分は一旦クリーニングしてから、マッチングに臨みましょうね。マッチング後に出てくる場合は、やりすぎなければ……まぁ大丈夫でしょ」


 再度、ロンド(略)さんのビジュアルを確認する。金髪で線が細い。このビジュアルでクール系だと……。


「エルフ……ですかねぇ」


「エルフですか?」


 ロンド(略)さんが訝しげな顔をする。


「ベタですけど、マッチング率は高いんですよ」


「でも、男のエルフなんて、モブばっかりですよね?」


 なかなか痛いところをついてくる。


「まぁ、確かにそういう需要が多いですけど、個性の出し方によっては、レギュラーも夢じゃありませんから」


「ヒロインの父親役とかですか?」


「はは、まぁあくまで一例ですから」


 少しベタすぎたか……。


「う〜ん、もう少し考えてみます」


「ご希望の作品やジャンルが決まりましたら、あちらのマッチング係まで希望シートを出してくださいね」


 笑顔で送り出す。


 なんだか、今日は調子が悪い。


「9番の方どうぞ〜」


 気を取り直してボタンを押す。


 窓口に、緑色の巨体が、ぬっと姿をあらわした。


「あ、オークのかたですね。お名前をお願いします」


「オークBです」


「はい、確認とれました。今回はどのようなご相談で?」


 オークのかたは、割と回転が早く需要も高いので、マッチング率が高い。普段なら、あっという間に片付く案件だ。


「僕、今まで所謂『普通の』オークとして、やってきたんですけど」


「はい」


 手元の履歴情報を見る。なかなか経験豊富だと思う。


「主役……できないかな、って」


「主役ですか?」


「はい。オーク仲間が主役になったって話を聞いて、自分もできたらなって」


 ふーむ。


「確かにそういうケースは沢山ありますし、オークの方をメインに据えた作品もあります」


「じゃあ、僕でも──」


「ですが、後発になる恐れがあります」


「後発……」


「長い作品にならなかったり、二番煎じとレッテルを貼られたり、難しいケースも多いですよ?私としては、ビジュアルを少しリアルに寄せて、オークを主役にした作品のレギュラーを狙うことをお勧めしたいところです」


「だけど、やっぱり主役にはこだわりたいです」


 なかなか手強い。


「なるほど、では──AIとかの属性乗せてみますか? 『オークに転生したAIは魔王になって、RTA世界征服狙います 〜なお、このオークはAIであり、間違えることがあります〜』とか?」


「僕は今までファンタジー畑ばかりでAIとかには、詳しくないんですが……」


「じゃあ、心はそのままに女の子になったりとかは可能ですか?」


「僕がですか? オークなのに?」


「TSはよくありますので、『オークの俺が転生したら絶世の美少女になっていたのだが 〜TS少女は元オーク!?〜』とか、かなり細い線ですがマッチングすれば主役は確実かと」


 オークBさんは、考え込んでしまった。


 やはり、何かおかしい。自分が自分の意思で話してないような違和感がある。


「少し、考えます」


 オークBさんは頭をかきながら、窓口から離れていった。


 ──嗚呼、この平易でひねりも飾りもない描写!それに、あの貧困な発想!


「すみません、ちょっと0番入ります」


 隣の職員に声をかけて、席を離れて、お手洗いの個室に入る。


 これは、間違いなさそうだ


 ──今、私は『作品』に登場している。


 私はマッチング希望を出してない。


 イレギュラーマッチングってやつだ。


 この感じは短編?


 ──なら、まだマシか。


 個室にため息が漏れる。


 作者の都合で動かされるのが嫌で、安定所勤めを始めたっていうのに……。


 内省しても、この作者じゃお話にはならない。


 場面を動かすために窓口へと戻る。


 そして! この際だから、言っておく。


 こっちも苦労して、キャラクターと作品をマッチングさせてるんだから、ちゃんと『作品』を全うさせなさい! 適当にマッチングさせて、キャラクターの使い捨てをするんじゃない!


 ふぅ、とりあえず作者に言いたい事も言ったし、そろそろ終わるでしょ。


 ──私は気持ちを切り替えて、ボタンを押した。


「10番の方どうぞ〜」

作者「どうもすみませんでした。がんばります」

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