人気作家は巡らない
ずっとずっと、目の前の男が羨ましかった。
「僕は君の書いた話けっこう好きだけど」
作家仲間で、仲が良かった男。
人に好かれて、何人もの女と付き合って、つい最近別れたって彼女も可愛くて羨ましくて。彼女と別れた後には「人気作家」なんて言われ始めた男。
目の前の何でも持ってる男が羨ましくて羨ましくて。
コイツの考える発想が羨ましい。その頭をくれよ。その頭の中身を、俺にくれ。ああ、妬ましい。
笑顔で俺の書いた話のどこが好きかを伝えてくる男を、俺は心から嫌いになっていた。
昔から何でも持っていたこの男が、何よりも、憎くて。
今すぐにこの口を閉じて欲しい。
ふと思い出したのは、とある迷信。
ある夜俺は2人で酒を飲んだ。
そしてソイツは目の前で胸から血を流して倒れている。
やったのは、もちろん俺だ。
俺はその後書いた作品が思った以上に売れた。
出版社ももう俺をコケにする事は無い。
やっぱり頭の中身に新しい物を取り入れると違うんだな。
俺の書いた作品は、舞台化もされて他国にまで広まった。俺みたいな特徴も無い顔まで広がって、多くの人に声を掛けられた。
弟子入りしたいなんて奴まで現れて、俺はソイツを身の回りの世話をする人間として雇い入れた。
「先生の書くお話は凄いですね、なかなか出てこない発想です」
雇い入れたのは、年若い青年。彼はなかなかに整った顔立ちをしていた。そんな整った顔立ちの青年が俺の世話をするのも、見ていて優越感に浸れてなかなか良いものだ。
彼の淹れたコーヒーはなかなか美味い。
「先生の発想があればもしかしたら分かるのかな…」
「ん?何がだ?」
「僕には姉が居たんですけど、行方不明になってしまって…」
青年は続けた。
「とてもとても優秀で、大好きな姉だったんです。両親が早くに亡くなったんですけど、そんな中姉は僕の世話をしてくれて…」
どうやらその姉とやらは、彼氏が居たらしいがある日行方不明になり、彼氏に何か知らないかと訪ねても「別れてしまっていて分からない」と返されたそうだ。
「普通に考えると、その彼氏とやらが何か知ってるんだろうが」
「そうなんです。でも実は、その彼氏も行方不明になってしまって…」
彼は俺を見て、微笑んだ。
「僕の姉は、作家志望だったんです」
彼の手に握られているのは
「姉さんが聞かせてくれた話に、その彼氏の話も、先生の話もそっくりだ」
因果応報。俺は察した。
恐らくアイツが、その姉の彼氏で……俺と同じ事をしたのだと。
逃げようにも、何か盛られていたのか体は言う事を聞かない。
きっと今俺は、アイツと同じ表情をしているんだろうな。
やっぱり姉さんを知らない男になんてやるんじゃなかった。姉さんは僕だけに話を聞かせてくれていれば良かったのに。姉さん、姉さん姉さん。今、これでひとつになれたかな。もうこれで、姉さんはどこにも行かないよね?ねえ、もう離れ離れにならないよね?誰にも渡さないよ。姉さんの頭の中身も、何もかも全部、これで僕だけのものだよ。大好きな姉さん。
去年は大変お世話になりました、今年投稿していない事に気付きましたので、せめてと思い投稿です。




