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第34話 【氷の女帝】

「そう、私はルティアーナ・レグラート……本来なら、あなたのような人間が対等に話せる相手じゃないの。お分かり頂けたかしら?」


 そうして、再び偉そうに顔を払い除ける女子生徒に周囲から声が上がっていた。


「や、やっぱりそうだ! 彼女は【氷の女帝】の異名を持つ氷魔法の天才だ!」

「ほ、本物が見れるなんて……!」

「ふふ……」


 男女問わず周囲が声を上げる中、満更でもない様子で笑う女子生徒。なんか、この学校、こんな人ばっかりだな……。それにしても―


「えっと、ルティア……なんだって?」

「は、はあ!? ルティアーナ・レグラートよっ! まさか、あなた私のことを知らないの!?」

「うん、全然」

「…………」


 俺が噓偽りなく答えると、何やら口をパクパクと開きながら立っていた。うーん、初対面だし、仕方なくね?


「というか、そんな長い名前だと呼ぶのも大変だし、覚えられないしなぁ……長いから、ルティアで良いか?」

「な……!? なにを勝手に人の名前を略してるのよ!? 気安く呼ばないでっ!」

「え? 別に良いじゃん。学校ってのは話したら友達なんだろ?」

「は、はあ……? あのね! 自分で言うのもなんだけど、私はこの『ドゥーン魔法学校』を推薦で入学して、一年生の代表として入学式で話もしているのよ!? その私が誰とも知れない人間とつるむことなんて―」

「ん? 代表として入学式で話してた? あ~……そうだっけ?」

「なっ……!?」

「お、おい! あ、あいつ、本当に命知らずだぞ!?」

「し、信じられない……!」


 え? そこまで?

 うーん、でも本当に覚えてないんだよなぁ……。

 周囲の奴らが声を上げる中、バツが悪くなった俺は素直に謝っておくことにした。


「あー、悪い。ちょっと色々あり過ぎて、入学式のことはうろ覚えっていうか……」

「……ふふ……ふふふ……こんな屈辱は初めてよ……」

「え? いや、屈辱ってそんな大袈裟な……」

「由緒正しきこの学校で、あなたのようにだらしない顔をしながら歩いていること自体、我慢できないっていうのに……その上、入学式での私のスピーチも忘れているなんて……」

「いや、だらしない顔で歩いてるって……それ、ラングース先輩にも似たようなこと言われたんだが……何? 俺ってそんな顔して歩いてるの?」

「ラングース先輩……? あなた、まさかジュリス先輩のことを知っているの!?」

「ん? あぁ、まあ昨日色々あってな」

「色々って……まさか、あなたが……」

「あ、そうそう。そういえば、俺の名前を言い忘れてたな。俺の名前はレクト・ユーフィン。お前と同じ一年生だ」

「っ……! やっぱり、あなたがレクト・ユーフィンだったのねっ!?」

「へ……? あ、はい、レクト・ユーフィンですけど……」

「理事長から話は聞いたわ。先日、ジュリス先輩と『決闘』を行い、勝利した一年生が居る、と……」

「あ、なんだ。理事長の知り合いか。なんだよ、それなら仲良く―」


 そうして、俺が握手を求めようと手を出した時すと、ルティアはそんな俺の手を「パシンッ!」と片手で払い除けた。同時に、たださえ鋭い目をさらに強くすると、俺を睨み付けながら声を返してきた。


「慣れ合うつもりはないわ……あなた、今まであの有名なロッソ・イゾットの下で弟子をしたようだけど、だからといって自分に実力があるなんて勘違いしないことね」

「はあ……」

「ここは由緒正しき魔法を学ぶ場所……いくら有名な師が付いて少し魔法が使えるからといって、本来はあなたのような庶民が来て良い場所ではないわ。ラングース先輩と違って、私はあなたのような者を認めるつもりはありません。自分の実力を知って絶望する前に大人しくこの学校から去ることね」


 そう言うと、ルティアは俺の横を通り過ぎて去って行ってしまう。

 そして、周囲がルティアが去っていく姿を見ながら羨望の声が上がる中、俺は天井を見上げながら大きく息を吸った後、俺は廊下の窓から見える空を見上げてこう口にした。


「……やっぱり、都会の女って怖いなぁ」


 ラングース先輩もだけど、なんて言うか勢いがすごいよね。

 そうして、俺が遠い目で空を眺めていると、俺の横を通り過ぎて去っていったはずのルティアが声を上げてきた。


「あぁ、それと―」

「まだ何かあるのか?」

「ロッソ・イゾットの弟子がもう一人この学校に入ったそうね……それも編入で。でも、あなたを見る限りその生徒も大したことなさそうね。どうせ、有名な師匠の弟子だからって特別に編入してもらっただけなんでしょうけど、そんなんじゃ、この学校に入っても恥をかくだけだと伝えてあげなさい」

「ちょっと待て。俺のことは良いけど、ミューイのことを悪く言うのは許せねぇな」

「あら? 私は忠告しておいてあげてるだけよ? 恥をかくのは誰だって嫌でしょ? 特にこの『ドゥーン魔法学校』では実力が全てを語る……そんな場所で実力が伴わない人が居たら周りから笑われるだけだわ」

「ミューイの実力は俺がよく知ってる。少なくとも、この学校に居ても問題ないくらいの実力は持ってるよ」

「あははは! 冗談言わないで。身内びいきは相手のためにならないわよ? そもそも、あなただって大した実力を持っていないのだから、そんな人に保証されてもその子が可哀想じゃない。その子のためにも、二人揃ってこの学校から素直に去ることをおすすめするわ」

「……なあ、お前」

「お、お前!? 誰に向かってそんな口をきいていると思ってるの!?」

「ルティアだろ? っていうか、お前、友達少ないだろ?」

「だから、勝手に名前を……! そ、それに、友達が多い少ないは関係ないでしょ!?」


 俺の言葉にルティアが顔を赤くして声を荒げてくる。あ、これ図星だな。

 そんな俺達のやり取りを聞いていた外野から哀れみのこもった声が聞こえてくる。


「え? 【氷の女帝】って、友達少ないのか……?」

「そ、そんな、まさか……ねえ?」

「あの【氷の女帝】だぞ? 友達は多いに決まってる……よな?」

「っ~……!」


 そうして、周囲からの視線に耐え切れず、顔を真っ赤にしていくルティアは肩を震わせながら声を返してきた。


「く、屈辱っ……! もう嫌! 絶対、許さな―」

「そういや、お前も今日の『生徒会選抜戦』とかいうのに出るのか?」

「人の話を聞きなさいよっ! って、『生徒会選抜戦』? はぁ……当然じゃない。それが何なの?」

「その『生徒会選抜戦』とかいうやつだが……俺も出る」

「は、はあ!? 冗談でしょ? あなたのような野蛮な人間にこの由緒正しき『ドゥーン魔法学校』の『生徒会』なんて務まるわけないじゃない!」

「まあ、そもそも、理由があってもともと出るつもりだったんだが……もう一つ、参加する理由ができた」

「参加する理由……?」

「ああ。もし、『生徒会選抜戦』で俺がルティアに勝ったら、さっきのミューイに対しての発言を取り消してもらう」

「はあ……?」

「確か、『生徒会選抜戦』では参加者全員が戦って、総合勝利数が多い人が役員になれるって話だったよな?」

「そうだけど……」

「なら、それに参加すれば、お前とも戦えるわけだ」

「冗談でしょ? あなたと私じゃ戦いにすらならないのは目に見えてるわ。どんな手を使ってジュリス先輩に勝ったのかは知らないけど、私は油断したりしないし、どんな卑怯な手を使われても負けたりはしないから」


「いや、なぜ俺がせこいマネをすることが前提?」

「そうじゃなければ、二年生でもっとも優秀と言われているジュリス先輩が負けることなんてあり得ないもの。私達はそれぞれ有名な学校を、優秀な成績で、主席として卒業しているの。それがあなたのような名も知らない人に負けることなんて、あり得ないのよ」

「そうは言っても、俺もお前の名前を知らなかったんだが……」

「っ……! もう良いわ! そこまで挑発してくるのなら、今日の『生徒会選抜戦』であなたに実力の差を見せてあげるわ! 覚悟しなさいっ!」


 そう言うと、ルティアは「ふんっ!」と鼻を鳴らして踵を返し、今度こそ廊下の奥へと消えていった。それにしても、まあ―


「イサリナとレアリア先輩以外、ラングース先輩もだけど……都会の学校の女子って怖過ぎだろ」


 そうして、去っていくルティアを見ながら俺は肩をすくめたのだった―。





「―くくく、これは面白いことになってきたねぇ」


 そんな彼らを見ていた男子生徒は周りに部下を引き連れ、そうこぼす。


「まさか、あの【氷の女帝】にまでケンカを売るなんてね……バカもここまで来ると才能だよ」


 そして、疲れた様子で教室へと歩いて行くレクトの背中を見ながら男子生徒は声を上げた。


「『生徒会選抜戦』―そこで、君を笑い者にしてあげるよ」

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