第32話 男泣き
「―ともかく、今後のことを改めて説明させてもらうとしよう」
そう言うと、理事長は机の上に肘を付きながら鋭い視線で話を続けていく。
「今後、レクトくんとミューイくんはこの学校の生徒として活動してもらい、その間、ロッくんには顧問として魔法の授業を指導してもらうことになった」
「おう、どんと任せな」
「ちなみに、その間、二人は他の生徒と同様に各々自由に過ごしてもらって構わない。ただし、言うまでもないことだが、私は理事長という立場で君達の入学を許可することはできたが、成績や学校内の評価などについては一切関与することはないから安心してくれたまえ。あくまでも、外野として君達がどう過ごすのかを見届けさせてもらうとするよ」
「もちろん、俺もお前らの評価について妥協はしないから覚悟しろよ?」
「当たり前でしょ? そんなことしたらタダじゃおかないから」
「はは……まあ、ミューイの言う通り、そんなえこひいきは俺も御免ですよ」
「ふむ。では、次の話だが……ミューイくんとイサリナはレアリアと同様に生徒会に入ると言っていたな」
「あ、はい。そのつもりです」
「私もレアリアお姉様のようになりたいので……」
「ふむ、良い心がけだ。しかし、レアリアはすでに知っているが……この学校で生徒会に入るのは容易ではない」
「どういうことですか?」
イサリナと目を合わせて首を傾げていたミューイがそう尋ねると、理事長はミューイの言葉に「ふむ……」と頷いて話を続けた。
「この学校ではあらゆるものを『決闘』で決める……それは、生徒会への加入も同様だ。そして、明日から始まる『生徒会選抜戦』では、それぞれの学年で候補者が戦い、勝利したものが生徒会として選ばれることになっているのだよ」
「うへぇ……入学翌日からそんなもんに参加しなきゃならないなんて、かなりヘビィな環境っすね。さすがは大陸一と名高い『ドゥーン魔法学校』、生徒会に入るのすらもサバイバルとは……ん? ってことは、レアリア先輩は最後に残られたってことですよね? すごいじゃないですか」
「え? えっと、そんなにすごいことでは……」
「いや、充分すごいですよ。しかも、生徒会長ってことは確か生徒会で一番偉い人ですよね? すごいじゃないですか」
「あ、ありがとうございます……ただ、私よりも前の生徒会長の方がすごかったんですよ。私は生徒会長になれたのはその方が卒業されたからで、私なんてまだまだですから……」
「あ、そういえば、前の三年生は卒業したのか。この学校にレアリア先輩よりも強い人が居たとは驚きですね」
「いえ、私はそんな……」
「それと、俺は後輩ですし、敬語とかそういうのは必要ないですよ。イサリナもな」
「わ、私はこのままでも大丈夫です。今さら直すのも違和感があるので……」
「そうか? まあ、本人がそういうなら良いけどな。レアリア先輩は……」
「で、では……私はレクトくんと呼んでも大丈夫でしょうか?」
「そっちの方が良いです。それじゃあ、レアリア先輩、今後ともよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
そうして、ようやく少し緊張がほぐれたのか笑顔を見せてくれるレアリア先輩。まあ、できれば、敬語もなくしてもらった方が気が楽なんだけど……初対面の人にそこまでお願いするのは図々しいもんな。
そんな中、師匠は理事長の方に視線を向けながら声を返した。
「ところで、『生徒会選抜戦』だったか? そいつを勝者で決めるたぁ、さすがはアンちゃん、よく分かっているじゃねぇか」
「ふっ……生徒達を納得させるには相応の実力が必要だと考えたまでだよ。この学校に来た者達は自分の魔法を高めるために来ている……ゆえに、その上に立つ者は自分より実力を持っている者で納得しないだろう?」
そう言って、笑みを浮かべる理事長だが……さすがは師匠の友人、完全に発想が脳まで筋肉で出来てるわ。すると、そんな理事長と同類である師匠は笑い声を上げながら声を返していた。
「がははははっ! 違ぇねえ! ま、俺の弟子が負けるわけねぇがな!」
「もちろん、私もそう思っているさ。それに、イサリナもな」
「お父様……はい! 頑張ります!」
「ふむ、頑張ってくれ。……時に、レクトくん」
「あ、はい。なんでしょう?」
「この生徒会選挙だが……ある意味、君の寝床を確保するのには丁度良いものだと考えているんだ」
「え? 俺の寝床を? えっと、どういうことですか?」
「先ほど、この学校には『決闘』というものがあると話したのは覚えているかね?」
「ええ、まあ……」
「そして、この生徒会で勝利すれば、生徒会役員となることができるわけだが……生徒会役員になれば、業者からすぐにベッドを手配することが可能になるのだ」
「へ? あの~、生徒会役員とベッドがイコールに繋がらないんですけど……」
「ふむ。私が言うのもなんだが、この学校は世間からの受けが非常に良い。大人達でもこの学校に憧れる者も多いようだ。そして、その学校の生徒会役員ともなれば、業者からの待遇が全く違うのだよ。理事長の私から言うよりもな。ゆえに、その生徒会の人間が私用でベッドが欲しいと言えばすぐに用意してくれる。そうすることで、自社のイメージアップをはかろうとしている……というわけさ」
「それって、将来その優遇した生徒が何かしら自社製品を宣伝してくれる可能性を期待してるってことですよね?」
「そういうことだ」
「なんか人間のエゴを聞かされているみたいで嫌ですけど……でも、うーん……生徒会か……俺、そういうお堅いのは苦手なんですよね……」
そんな風に俺がこぼすと、レアリア先輩が屈託のない満面の笑みを浮かべながら声を返してきた。
「確かに、生徒会は他の生徒の模範にならなければなりませんが……生徒達が楽しく学校生活を送ってもらうために必要な仕事ですし、とてもやり甲斐がありますよ」
「うっ……そ、そうですよね~」
レアリア先輩からそう言われてしまい、ぐうの音も出なくなってしまう。ここで「ぶっちゃけ、生徒会の仕事って面倒くさそうなんで……」なんて本音を言ったら悲しませるだけだし、絶対に言えねぇ……。
生徒会なんて、どう考えてもガラじゃないんだが……。
そんな風に俺が考えていると、何やら顎に手を当てていた理事長が声を上げていた。
「しかし、それまで我が校の生徒にベッドのない場所で寝なければならないというのはさすがに理事長としても看過できん。それに、将来、娘達と一緒に居てもらう彼に万が一でも何かあっても困るからな」
「あの~、すいません。さりげなく爆弾発言するのやめてもらえます? 娘さん達すげぇ困ってますから」
「ふむ……そうだ。良ければ、私かロッくんの部屋で一緒に寝るか?」
「…………………………………………はい?」
何を言っていらっしゃるんですか、この人は?
そうして、俺が呆気に取られている中、何を血迷ったのか理事長どころか師匠までそんなわけの分からない提案に乗り始めた。
「おお、そいつぁ良い! よぉし、レクト! 俺と寝るか! そうすりゃ、ギリギリまで俺達と酒場で飲んでても問題ねぇからな!」
「嫌だよ!? 俺、未成年なんだけど!? それに、誰が好き好んでおっさんと一緒に寝ないといけないんだあああ!」
入学初日からなんて災難なんだ……。
そうして、生徒会室に俺の叫びが虚しく響いた。
◇
「……布団だけが俺を癒してくれる」
そんなこんなで、入学初日の夜。
結局、俺はミューイから「今日はイサリナと一緒に寝るから」と掛け布団を貸してもらい、一人掛け布団をかけながら天井を見て声をこぼす。
もう嫌……こうなったら、生徒会役員にでもなんでもなってやる!
「まあ、あのおっさん達と寝ないで済んだったのは救いだったが……」
そうして、今も酒場で朝まで飲んでいるであろう二人を思い出し、俺は涙が止まらなかったのだった―。




