第30話 理事長の娘姉妹
「―レアリアと申します。父と妹が……その、お世話になっていたようで……」
生徒会長こと、レアリア先輩が気を失ってしまい、とりあえず俺はイサリナに案内され、この生徒会室に彼女を運んできたわけだが……目を覚ましたレアリア先輩は俺の座っている席から離れた会長用の椅子に座って気まずそうにそうこぼしていた。まあ、そうなりますよね……。
そして、ここには俺達の他にイサリナに呼ばれてきた理事長もおり、理事長はそんな恥ずかしそうに顔を赤くするレアリア先輩に軽く視線を向けた後、相変わらずの無表情で俺に声を向けてくる。
「すまなかったな、レクトくん。娘がもう一人居るのを伝え忘れていた」
「いや、まあ、それは良いんですけど……それより、もっと重要な話がありますよね……」
「ん? 重要な話? あぁ、例の君の部屋に置くベッドの件か。すまなかった、ちょうどそのことを話そうと来たところでな」
「違いますよ!? いや、俺のベッドが無いのも確かに大事件ではあるんですけど!」
「む? では、他に何か……あぁ、私としたことが先に伝え忘れていたな」
「はぁ……頼みますよ、理事長。イサリナの時にも言いましたけど、勝手に決められたら本人達も困―」
「例の交換日記のために新調したノートだ。これで私とロッくんと君の三人で交換日記でやり取りができるな」
「そうじゃねええええ! 婚約ですよ、婚約! あんた、イサリナだけじゃなくてレアリア先輩にも婚約させようとしてますよね!?」
「あぁ、そのことか。なに、安心したまえ。イサリナもそうだが、私は娘達の意志を完全に無視するようなことはしないさ。本人達がレクトくんとの婚約が嫌だというなら無理強いをするつもりはない」
「それはそれで、拒否られたら俺のメンタルがぶち壊れるんですが……」
「なに、娘達には先に伝えているからな。そんな心配は要らないだろう。それで、レアリア、イサリナ。二人はレクトくんのことをどう思っている?」
「え!? あ、いや、その……まだ、さっき会ったばかりなので……ただ、危ないところを助けて頂きましたし、良い人だとは思いますが……で、でも、いつも言っていますが、こういうのはお互いを知っていってからの方が良いと……」
「は、はい……私もお姉様と同じで……まだ同じクラスになったばかりで、その、色々知っていけたらなとは思ってますけど……」
「ふむ。だそうだ。良かったな、レクトくん。娘達も君を嫌っているようではないようだし、引き続き君が誰と婚約するのか観察させてもらうとしよう」
「えっ!?」
「えぇっ!?」
「極端過ぎるわああああ! あんた今、本当に二人の話聞いてたの!? それじゃ、当人達の意志ガン無視じゃないですか!」
「そんなことはない。現に娘達は君を嫌っていないと言っているじゃないか」
「あんたには好きか嫌いか存在しないんですか!? 二人とも俺のことをよく知らないから知っていこうとしてくれてるだけですよ!」
「レクトくん。君はまだ若いから分からないだろうが……それはもう好きになっているんだよ」
「ええええ!?」
「お、お父様!?」
「そうはならないですよね!? 俺まだ本当に出会って一日も経過してないんですけど!?」
「出会った時間は関係ない。大事なのは本人達の意志だ……違うかね?」
「なに、それっぽいこと言ってるんですか!? さっそく今、その意志を完全に無視して婚約進めようとしてる人がそんなこと言っても説得力ないんですけど!?」
「おっと、ここに居たか! レクトの声が廊下にまで響いたから探すのが楽だったぜ! だーはっはっは!」
「ちきしょう! 面倒くさいのがもう一人追加されたああああ!」
もはや、頭を抱えたくなる理事長のずれっぷりに俺達が頭を抱えていると、今度は片手で頭を抱えたミューイと一緒に師匠が現れ、俺は思わず声を上げる。いやもう、ほんと、何なのこの人達……。
「んで? なんか面白そうな話してたみてぇじゃねぇか」
「いや、なんも面白い話なんてしてねぇから……」
「婚約の話だろ? 安心しろ、レクト。アンちゃんが本当に嫌がってることを娘にさせるわけねぇだろ」
「いや、そうかもしれないけどさ……でも、イサリナもレアリア先輩も今日会ったばかりの男と婚約だなんだなんて話されても困るだろ? 実際、本当に嫌でもなかなか言えないだろうし……だから今、理事長に相談してたんだよ」
「ほう? で? イサリナ嬢ちゃんとレアリア嬢ちゃんはお前のことが嫌いだって言ったのか?」
「え? いや、さすがに嫌われるようなことはしてないし、知ってくれようとはしてるとは言ったけど……」
「なんだよ。じゃあ、何も問題ねぇじゃねぇか」
「だから、あんたらどういう思考回路してんだああああ!」
あまりにもあんまりな二人に俺が突っ込みを入れる中、イサリナとレアリア先輩は真っ赤な顔で完全に顔を伏せてしまっていた。もう嫌だ、この人達……。
そんな中、同じように顔を真っ赤にしたミューイが肩を怒らせながら自分の父親に声を上げてくれる。
「あのね、お父さん……どう考えても、レクトの言うことが正しいでしょ。私もイサリナもレアリアさんもまだ学生なんだし、婚約とかそういうのはまだ早いってば……」
「あん? 何言ってんだ、ミューイ。どうせお前もレクトのこと好―ぐぼぼぼあっ!?」
そして、何やら言い掛けた師匠はあわやいつものように顔に水魔法を掛けられ溺れかけていた。懲りないな、この人も……。




