第28話 波乱万丈な学校生活の幕開け
「―はぁ、入学初日で本当に大変な目に遭った」
未だ酒場で飲んだくれている師匠と理事長を置いて、俺達は先に寮へと戻ったのだが……俺はというと、本日もう何度目か分からないため息を吐きながら寮の通路を歩いていた。しかも、ラングース先輩と戦ったおかげで、歩いているだけで周囲から視線を集めてしまい、ため息はさらに深くなる。
――まあ、どうあれ、ラングース先輩の件は悪い感じにはならなかったし、気にしても仕方ないか。なんか最後に変なことを言っていたのは気になるけど……それより、俺の部屋、部屋っと……あった。
俺は気を取り直して寮の受付で渡された鍵に記された部屋を探し当てると、その前に立って大きく深呼吸をする。
――まあ、なんやかんや言っても、初めての学校生活は楽しみではある。そして、この部屋は俺がこの学校にいる間ずっと使う場所だ。師匠達と離れて過ごす初めての部屋か……。
「さ~て、どんな部屋なんだ―ん?」
と、上機嫌に俺がそこまで開いた時だった。
色々ありつつも、俺はその先にはきっと寝る為のベッドがあったり、勉強するための机があったり、あまり贅沢でなくても学校生活を送るにはそこそこな空間が広がってい……そう思っていた。だが、そこには―
「―何もない、だと?」
俺は思わず誰ともなくそうこぼしていた。いや、比喩でもなんでもなく、本当に部屋には何一つ置かれていなかったのだ。机やベッドどころではない……そもそも、電球すら付いてないし、窓もガムテープが張られて明かりすら入らない始末。これはそう、例えて言うなら―
「―物置?」
「ミューイ……?」
あまりにも驚いた俺が言葉を失っていると、そんな俺の代わりにその惨状を後ろから現れたミューイが覗き込むようにして口にする。そして、訝しげな顔で俺の部屋(?)を入っていき部屋の目を細めて見渡した後、両腕を組みながら声を返してきた。
「本当に何もない……ベッドもないし、これじゃ住めないんじゃない?」
「そうなんだよな……ん? というか、ミューイ。ここ男子寮だけど、入って来て大丈夫なのか?」
「寮長さんに許可をもらってあるから大丈夫。それより、どうするの? これじゃ床で寝ることになるけど……」
「いやいや、まさか……そんなことは……ちなみに、お前のところはどうなってんの?」
「どうって……普通に二人一部屋でベッドは二段ベッドが一つあって、机が一人一つ、あとクローゼットも別々に一つあったよ」
「クローゼット……クローゼット……うん、それらしいものすらないな」
俺も部屋に入って壁を色々と確認してみるが、あるのはただの壁だけであり、物を入れられそうなところはなかった。なにこれ、入学初日からまたハプニングかよ……。
「―君達の言う通り、ここはついこの間まで物置として使用していた部屋だ」
「うわっ!? って、理事長……それに、イサリナまで……」
「こ、こんにちは……」
相変わらず、何を考えているか分からない理事長と、その隣に並び苦笑いを浮かべながらそう言うイサリナが現れ俺が驚く。
「というか、理事長……まだ酒場で飲んでたんじゃないんですか?」
「いや、君に寮のことを伝え忘れていたことを思い出してな。すまない、レクトくん。基本的に寮は二人一組で住むことになっているのだが、今年の男子寮はちょうど偶数で埋まっていてね……それで、君の入学を急遽決めたのは良いんだが、見ての通り、入学までに準備が終わらなかったのだ」
「えっと……ちなみに、ちゃんとベッドとかは届くんですよね?」
「もちろんだ……と言いたいところなのだが……」
「え? なんスか、その間……え? 届くんですよね? 俺のベッド? まさか、雑魚寝しろとか言わないですよね?」
「安心したまえ、手配はしてある」
「ふぅ……まぁ、さすがにそうですよねぇ……」
「ただ、残念ながら届くのに一週間は掛かってしまうのだ」
「全然安心できねえええ!? あんた、俺に一週間も雑魚寝で過ごせって言うんですか!? そんなの師匠だけで充分ですよ!」
「ふむ、確かにロッくんと修行していた時はよく野宿して過ごしていたものだ。懐かしいな」
「理事長も見た目からは想像できないくらい逞しいっスねぇ!? でも、俺はもうそんな生活したくないんですよ!」
「れ、レクトさん……」
俺の身を案じてくれるイサリナの視線がつらい……。
そんな中、理事長は「ふむ……」と顎の下に手をあてながら小さく声を上げると、こんなことを言ってきた。
「その件なのだが……方法がないわけではないんだ」
「え? 方法がないわけじゃないって……また、ずいぶんと思わせぶりな言い方しますね……何かあるんですか?」
「ああ。君には伝え忘れていたが、この『ドゥーン魔法学校』には他の学校にはない特殊なルールがあるんだよ」
「特殊なルール……ですか?」
「そうだ。先ほど君がラングースくんと戦った『決闘』……あれは学校内で生徒同士が争うことを許されている我が校のルールの一つなんだ」
「へぇ、学校で生徒同士が戦うのをルールにしてるんですか……」
「そうだ。そして、『決闘』では、互いに勝者に報酬を掛けて争うことになっているのだよ」
「報酬ですか? けど、俺とラングース先輩の時はそういうのは特になかったような……」
「いや、今回の場合も報酬は決められていた。ラングースくんは彼女が勝者となった場合、君への制裁……つまり、謝罪と反省を求めていた。同時に、君が勝者となった場合はその比を認めなくて良い、とそういう理由で争っていたのだからな」
「え? そうだったんですか? ラングース先輩に言われるがままに付いてったから全然知らなかったですけど……」
「仕方がない。本来、入学初日から『決闘』を経験する者などほとんど居ないからな。今回は異例中の異例だ。しかし、今後『決闘』を行う場合はそういったルールなのだというのを覚えておくと良い」
「いや、そもそも二度とやりたくないんですが……」
「そうもいかないだろう。なにせ、君は今からその『決闘』によって寝床を確保することになるだろうからな」
「……はい?」
『決闘』で俺の寝床を確保するって……どういうこと?
そうして、俺が理事長の言葉に疑問を抱いていた時だった。
「―お? なんだ、面白そうな話してんじゃねぇか」
俺がこの爺さんの言葉を聞き間違えるはずがない。
もはや視線を向ける必要もなく相手が誰だか分かっているものの、俺はそちらへ視線を向けると、ミューイに呆れた視線を向けられながらも堂々と立つ師匠がおり、俺は思わず声を返した。
「師匠? なんでここに……」
「言っていなかったか? 彼は顧問として我が校にしばらく滞在することになっているんだよ」
「は……? いや、聞いてないんですけど!?」
「ふむ、それはすまなかった。知っての通り、彼は伝説の魔法使いとも言われるほどだ。教師として、これほど相応しい者も居ないだろう。よって、君達がこの学校に通うついでにと承諾してくれたんだ」
「そ、そんな……」
せっかく師匠から離れられると思ったのに……。
地獄のような師匠の修行が走馬灯によぎり俺が愕然とする中、師匠はニィッと俺をあざ笑う顔をすると、力強く俺の肩に手を置いてこう言ってきた。
「って、わけだ、レクト。こっちでも、しっかりしごいてやるから……覚悟しろよ?」
「嫌だああああああああ!」
こうして、俺の波乱万丈な学校生活が幕を開けたのだった―。




