第26話 どうしてこうなった
「―どうしてこうなった」
俺は見知らぬ店の一角で、頭を抱えながらそう呟いていた。
ここは師匠と理事長の行き付けの酒場らしく、何故か未成年だというのに俺はそこに連れて来られていた。
どうやら、例の結婚についての話を改めてするらしく、俺だけではなく二人の娘であるミューイとイサリナも連れて来られており、ミューイもイサリナも困惑した表情を浮かべ、ミューイはため息を吐き、イサリナは苦笑いを浮かべている。
そんな中、まだ入店したばかりだと言うのにすでに酒を片手に飲み始めていた師匠が首を傾げながら俺へと言葉を返してきた。
「ああん? んだよ、レクト。何ウジウジしてんだ? もうちょっとシャキッとしたらどうだ、シャキッとな!」
「師匠がとんでもないことを言うから頭を抱えてんだよ!」
「ん? なあ、アンちゃん。なんか俺、変なこと言ったっけか?」
「いや? あぁ、もしや我々が交換日記をしていたことが意外だったんじゃないか? もしかしたら、彼もやってみたかったのかもしれないな」
「おぉ! 何だよ、レクト! みずくせぇじゃねぇか! お前もやりたいならそう言えよな! それなら、ちょっくら新しいノートを買ってきてやるからよ!」
「違ぇよ!? いやまあ、確かに師匠達がやってたのは意外だったけどさ! 俺が言ってるのは二人との結婚についてのことだよ!」
「何だ、そっちか」
「……師匠に聞くだけ無駄だというのがよく分かった」
いや、そっちか、って……あっさりし過ぎだから。
話の通じない師匠と理事長に疲れてため息を吐くと、すぐ横で縮こまっていたイサリナへと話を向ける事にした。
「まあ、良いか……そういや、イサリナは知ってたんだよな?」
「あ、はい……すいません。でも、その……まさか隣の席になるなんて思ってなくて心の準備が出来ていなかったというか……そのせいでなかなか言い出せなかったんです」
「いや、別に謝る必要は無いから大丈夫だって。ミューイは―いやまあ、知らないよな、うん」
俺と同じように頭を抱えているミューイを見て察した……というか、そもそも隠し事出来る奴じゃないもんな。
「私もレクトと同じでさっき知ったからね……。っていうか、結婚するとかしないとか、私達まだ学生なんだけど?」
「ああん? だから婚約ってことだよ」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……私達の同意も無く勝手に話を進めないでって言ってるの」
「ンだよ、お前、レクトのこと好―ぐぼぼぼおおぼぼおぼぼ!?」
「お、おじさん!? だ、大丈夫ですか!?」
何やら師匠が口にしかけると、師匠はミューイの魔法で顔の周りに水の塊を作られ溺れていた。……相変わらず、師匠には容赦ねぇな。
突然の出来事にイサリナが驚いて声を上げる中、ミューイは深くため息を吐くと、再び俺の方に向き直って来る。
「それに、あの人……ラングースさん……だっけ? 彼女まで変なことを口にするし……」
「いや、名前くらい覚えてやれよ……ラングース先輩、お前と同じクラスでわざわざお前に話し掛けに行ったらしいじゃんか」
「そうなの? 人の顔を覚えるの苦手だから全然覚えてなかった」
そう言って、キョトンとした顔を向けてくるミューイ。……あの人、ミューイにかみついてたらしいけど、本当に他人に興味無いよな、こいつ。
「まあ、どうせ大した実力もねぇ奴だろ? ま、うちのミューイと対等に付き合える人間なんざ、お前とイサリナの嬢ちゃんくらいだがな」
「げ!? いつの間に抜け出したんだよ!?」
いつの間にかミューイの作り出していた水の魔法から抜け出して、そんなことを口にしながらケロッとした顔で再び片手で酒を仰ぐ我が師匠。……やっぱ化け物だわ、この人。




