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第25話 あの男にはそれほどの価値があると言うのですか……?

 あまりにも非現実的な話を告げられ、完全にオーバーヒートしていた脳を無理矢理現実に引き戻すと、俺は隣で豪快に笑っていた師匠に詰め寄っていた。っていうか、何だよ、結婚って!?


「ああん? 何の話って、お前らが将来結婚するって話だろ?」

「何それ!? 初耳なんですけど!?」

「おいおい、さっき話したばっかりじゃねぇか」

「違ぇよ! さっき初めて聞いたって意味だよ!」


「そら当たり前よ! それを伝える為にアンちゃんに交換日記を渡すついでにわざわざ山から降りて来てやったんだからな!」

「何偉そうに言ってんの!? 酒場に行くみたいなノリで俺の人生勝手に決めないでくれる!?」

「おお! さすが俺の弟子だ! よく分かってるじゃねぇか! お前の言う通り、こいつぁ元々酒場で酒飲みながら決まった話だ!」


「当たってても何も嬉しくねえええええええええええ! もう嫌だよ、この酔っ払い! 俺はともかく、自分の娘の人生を酒の勢いで決めんなよ!」

「馬鹿野郎! 弟子のおめぇはともかく、娘の人生は大事に決まってるだろうが!」

「聞きたくもねぇ本音聞かされた! ちくしょう! それはそれで俺が傷付くよ!」


 自分勝手な師匠だとは思ってたけど、まさかここまでとは……あまりの理不尽さに泣きそうだよ、俺。しかし、そんな俺の耳に更に大事になりそうな台詞が届く。


「り、理事長とあのロッソ・イゾットの娘と……け、結婚……? ま、まさか、あの男にはそれほどの価値があると言うのですか……?」

「え~と……ラングース先輩?」


 ついさっきよりも驚いた顔……というよりも、どこか思い詰めた表情で何やらブツブツと呟いているラングース先輩。さらに、俺の方を見ながら取り巻きの先輩方も巻き込み、勝手に話を進めていた。


「た、確かに……学年でもっとも優秀と謳われたこの私を倒すなんて普通じゃありませんわよね……ロッソ・イゾットの弟子……あの男が……」

「そ、そうですよね……しかも、ミューイさんや転校生ともあんなに打ち解けておりますし……」

「ま、まさか、私達が知らないだけで、彼は名家の出身の可能性も……」

「そ、そんなまさか……レクト・ユーフィーンと言ってましたわよね? このわたくしすら知らない貴族があるとでも言うのですか……?」


 いえ、すいません。勝手にこの爺さん達が価値を上げてるだけで、貴族でもなんでもないただの田舎者です……っていうか、やっぱり、後輩の俺を立てようとしてくれてラングース先輩が手加減してくれたわけじゃないのか?


「決めましたわ!」


 俺が心の中で疑問を抱いていると、そう言って突然ラングース先輩が勢い良く立ち上がる……何か嫌な予感しかしないんですが。


 どこか勝ち誇った顔を向けながら腕を組むと、取り巻きの二人と共に俺の方に視線を向ける。そして、その表情に違わぬ様子で俺へと声を掛けてきた。


「ちょっと、あなた」

「はあ……えっと、俺ですか?」

「そうですわ。確か、レクト・ユーフィーンとおっしゃいましたわよね?」

「ええ、まあ……」

「では、今後はレクト様とお呼びすることにいたしますわ」

「はあ……まあ、良いですけど―ん?」


 ちょっと待って、何で俺のことを先輩が敬称で呼ぶの? 百歩譲っても、普通は逆じゃね?


「あの~……なぜ、俺を様付けで呼ぶんでしょうか? 俺の方が先輩よりも年下だと思うんですけど……」

「ふふん、今後のことを考えれば当然のことですわ」

「今後のこと……?」


 すいません、まったく話が見えないんですけど……。

 ついさっき制裁を加えられたばかりということもあり、俺が身構えているとラングース先輩は自信たっぷりな様子でとんでもないことを口にして来た。


「―わたくし、ラングース・ジュリスはあなたを手に入れ、ジュリス家の婿として迎え入れさせて頂きますわ!」

「…………………………………………………………うそん」


 ラングース先輩の言葉にミューイやイサリナが驚いて顔を強張らせる中、さらに師匠や理事長まで不敵な笑みを浮かべる。


「ほう……こいつは面白ぇことになってきたじゃねぇか」

「ああ……この学園始まって以来のイベントだ」


 『ドゥーン魔法学校』入学初日。俺の人生は波乱万丈になる事が確定してしまったのだった。


 ……頼むから卒業するまで平和な学校生活を送らせてくれない?



 ◇



 その頃、『ドゥーン魔法学校』でそんな彼らを見る者達が居た。


「―へえ。あの『ラングース家』のお嬢様を倒すなんて、なかなかやるじゃないか」


 空き教室の窓からレクト達の戦いを見ていた男子生徒はそう言って鼻で笑う。すると、彼の少し離れた場所で待機していた従者らしき男子生徒が外から急いで走ってきた男子生徒と何やら話をした後、彼の前で軽く腰を曲げながら声を上げてきた。


「クラフ様……先ほど、『ラングース家』の次女と戦った相手について情報が入りました」

「へえ……相手はどんな奴なんだい? あの『ラングース家』のお嬢様は気に入らなかったけど、そこそこの実力はある。それを倒すなんて、相当な家の人間だと思うけど?」

「それが……どうやら、貴族ではなく、平民だそうで……」

「平民……? じゃあ、貴族であるはずの『ラングース家』が平民にやられたって言うのかい? アッハッハッハ! これは傑作だ! それなら、もう成績一位の優等生の地位はもう終わりだね!」


「はい。今後はクラフ様がその地位につかれるのは間違いないでしょう」

「当たり前だよ。そもそも、あんな女に僕が負けているはずもなかったんだけどね……それにしても、今日転校してきた女にも言えるが本当に品がないね。由緒あるこの学校にああいう野蛮な田舎者なんて要らないと思わないかい?」

「はい。クラフ様のおっしゃる通りだと思います」

「クックックッ……なら、今度はこの僕が直々に『制裁』を下し、平民をこの学校から退学させてあげようじゃないか……せいぜいこの僕を楽しませてくれよ?」


 そう言って、クラフと呼ばれた男は空き教室の片隅からレクトに向かって一人にやりと笑みを浮かべるのだった―。

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