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第19話 手加減してくれたんですよね?

 そう言って、俺の手と顔を交互に見比べてくるラングース先輩。俺はそんなラングース先輩に少しだけ距離を詰めると、手が取りやすいように言葉を投げ掛ける。


「そのままだと立ち上がるのに大変でしょうし、良かったら手を貸しますよ?」

「こ、この私に汚名を被せた挙句、さらに辱めを受けさせたあなたから施しを受けろと言うの!?」

「辱めって……いや、先輩が手加減してくれたから消せただけじゃないですか。俺みたいに大して魔法も使えない人間がラングース先輩のようなエリートと渡り合えるわけないんですし。まあ、なんて言うか、すいません。突然のことで必死だったんで、つい魔法で対抗しちゃって。立てますか?」

「な、なな……」


 俺の言葉を受け、わなわなと肩を震わせるラングース先輩。すると、その取り巻きの二人も困惑した顔を見合わせていた。……あれ? もしかして、なんか地雷でも踏んだ?


 そんな俺をよそに、ラングース先輩は目元が前髪で見えない状態でさらに言葉を続ける。


「わ、私は全力を出していたというのに……まるで動揺した様子もなく私の火の魔法をああも簡単に消してしまうなんて……上級魔法ですわよ? 火属性においてこの学校で私よりも強力な魔法を使える人間なんて居ないはずですのに……」


 は? ちょっと待ってくれ。この先輩、さっき何て言った? この学校でラングース先輩よりも強力な火属性の魔法を使える人間が居ないって……そう言ってなかったか?


 いやいや、そんなわけがない。大陸中から入学希望者が死に物狂いで来るような場所だぞ? そもそも、俺なんて師匠に死ぬ気で稽古付けられて、「おいおい、これくらいでへばってどうすんだ? 世の中にはまだ強ぇ奴はたくさん居るんだぞ?」とか散々言われて育ったんだからな。きっと、聞き間違いか何かだろう。


「それにしても、ラングース先輩はお優しいんですね」

「へ……? わたくしが優しい……?」

「はい。だって、あんな小さい魔法で『制裁』してくれようとしてくれたんですから。俺が下級生だからって手加減してくれたんですよね? はは―」


 そう言って、俺が笑った瞬間……まるで雷が落ちたように大きな音が耳を突いた気がした。つい思ったことを言ってしまったが、何やら周りの空気が凍り付いてしまったことに気付き額から汗が流れるのを感じる。……なんかこれ、やばくない?


「え~っと、あの……ラングース先輩は手加減してくれたんですよね?」

「―ふ、ふふ、ふふふふ」


 念のため、もう一度確認しようと目の前で尻餅を付いていたラングース先輩に声を掛けるが……そのラングース先輩から不吉な笑い声が聞こえてきた。やばい、これはやばい。ミューイの地雷を何度も踏んだ俺なら分かる……こいつはやばい。


「あなた……今、エリートであるこの私に何と仰いました?」

「あ、いや~……」


 しまった、地雷を踏んだ……しかも、間違いなく地雷原レベルのヤバさだ。

 背中から嫌な汗が大量に流す俺の前で、肩を笑わせるように揺らすラングース先輩はゆっくりと立ち上がると、そのあまりの威圧感にラングース先輩の後ろに取り巻きの二人が抱き合いながら怯えていた。


 やがて、ラングース先輩は顔を上げると、涙目になりながら俺の顔をキッと音が鳴りそうなほどに睨みつけて高らかに宣言してくる。


「この屈辱……絶対に忘れませんわ! 今に見てなさい! この私に屈辱を味合わせたことを必ず後悔させてあげますわ!」

「えっと、なんか、すいません……」

「いいえ、もう許しません! このラングース・ジュリスの名に懸けて、必ずあなたにいつか屈辱的な敗北を味合わせてやりますわ! これはもう決定事項です!」


 なんてこった……余計に話をこじらせてしまった。まあ、元はと言えば、俺が先輩の髪をロールパンと間違ったことが原因だし、どっちにしろ俺が悪いわけだからな。


 ここは自分の非を認めて、ひとまずラングース先輩を助けてあげないと。いつまでも腰を地面に付けたままってのも辛いだろうしな。


 そう考えた俺は、再び手を差し出しながら殊勝な態度でラングース先輩へと言葉を向けた。


「……分かりました。俺が悪いんですし、次に制裁を受ける時は甘んじて受け入れます」

「そう! 正々堂々と正面からあなたを打ち負かして―って、え?」

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