第12話 ん…? ロールパンが喋った…?
理事長室から解放された俺は、大きく肩を竦めながら一人廊下を歩いていた。なんかもう、色々とすごいことになってしまった……。
入学早々に職員室どころか理事長に呼ばれるし、挙句の果てに師匠が大陸一の魔法使いとかよく分からないこと言われるし……もう分けわからん。それに腹も減った……。
あまりにも色々あり過ぎて疲れながら空腹を抑えつつ、俺は理事長の顔を思い浮かべる。まったく、理事長も冗談が上手いよな。あんな爺さんが大陸一なわけ―
「―はっ!? 殺気!?」
俺は急いで周囲を振り返るも、そこには特に誰も居なかった。
しかし、確かに俺は感じていた……くそ、師匠って勘が鋭いから怖いんだよなぁ。今頃、また『俺の悪口を言わなかったか?』とか考えてそう……マジで怖いわ、あの人。
ともあれ、ようやく入学式からの一件を含めた色々なことから解放されたわけだが……そういや、ミューイはどうしてんだろ?
ぶっちゃけ言って、俺よりも対人関係の危ういあの姉弟子が普通に学校生活を送れているとは思えないんだよなぁ……いや、考え過ぎか。俺も師匠に似て過保護なだけだ、うん。きっと何だかんだで普通に友達とか出来て―
「―ちょっと、そこの庶民。だらしない顔で私の前に立たないで下さらない?」
「……ん?」
とか、そんなことを考えていた時だった。突然、見知らぬ声が耳を突いたかと思うと、その声はさらに俺に何やら言葉を投げかけてきた。
「ずいぶんとまあ、情けない顔ですこと……それにやる気もなく、覇気もない酷い顔ですわね。見てるだけでこちらのやる気まで奪われてしまいそうですわ。さっさとわたくしに道を譲りなさい」
その声に空腹で頭を悩ませていた俺はようやく視線を向けた。すると、何やらロールパンが目に付き、あまりにも疲れて考えるのをやめていた俺は不自然な出来事に首を傾げながらも、咄嗟に見たままの光景を声に出してしまう。
「あれ? 俺、いつの間に食堂に来てたんだ?」
「は……?」
「ロールパンが……喋った?」
「ロ―!?」
「あれ……?」
そこまで口にして、何やら周りが騒がしいことにようやく気が付いた。よく見れば、俺の目の前に三人の女子生徒がおり、どうやら俺はそのうちの一人の髪型を見てロールパンだと勘違いしてしまったらしい。
そんな俺の言葉に、真ん中で仁王立ちしていたロールパ―じゃなかった、金色の髪を横で巻いた女子生徒は顔を真っ赤にしてしまっていた。……やべ。
俺が自分の失態に冷や汗をかいていると、その女子生徒を取り巻くようにしていた二人の女子達が怒った様子で声を荒げた。
「ら、ラングース様の素敵な髪を見てロールパンだなんて……!」
「あ、あなた、一年生のくせにラングース様に何てことを言うの!?」
一年生のくせにって……あ、よく見れば、俺が胸に付けているものとは証が違うな。この学校じゃ学年ごとに胸に付ける証が違うことはミューイと俺の証が違う時点で知ってはいたが、まさか相手が上級生だったとは……。
とはいえ、ここで騒ぎになったら俺の平和な学校生活が終わってしまう。ここは変に弁明とかしたりせず、俺が悪いし、素直に謝っておこう、うん。
「すいません、ちょっと考え事をしてて―」
「こうなったら、決闘ですわ!」
「―そう、決闘を……はい?」




