表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヤニ吸う爺になれなかった私から、丸められた原稿用紙へ

作者: 紺真淡希
掲載日:2025/11/02


 昭和の時代はそこかしらで煙草が吸われ、紫煙(しえん)に塗れつくしていた。


 最早遠い昔の過ぎ去った過去として語られる話だが、厳密に言えば平成初期もさして変わらず、中期でさえも名残は十分漂って、筆者も大学生の折は駅のホームで一服と洒落込んだ物であった。(もっと)もそれは数少ない生き残りとも言える、当時からしてこのご時世よくホームに灰皿を残したもんだと思えたほどに珍しい駅であったわけだが。


 兎も角。喫煙全盛の時代が遥かな昔となった今でも父や母、ないし祖父母やその同年代の親類知人とまで遡れば喫煙者の見覚えがある方も多いことだろう。そうした熟練の愛煙家を思い描くなら大体が一日一箱ないしそれ以上、咥え煙草を吸っては吐き吸っては吐きと、そうした仕草がステレオタイプなイメージとして焼き付いているものだと思われる。


 私もそうだ。

 喫煙者とはそういう者だと思っていた。一度馴染んでしまったニコチンの魔力からは永劫(えいごう)逃れられぬもの、永遠と吸い続ける運命、ないし呪いに膝下までどっぷり浸かってしまったと自嘲(じちょう)したことも一度や二度は効かないほどに。


 それが幻想だと思い知ったのが、令和という新たな年号であった。


 吸いきれぬのだ、煙草を。

 元より一口目が尤も満足感が高いものでこそあったものの、加齢も手伝い気付けば三口目が辛くなり、ついには二口目でなんだか辛いな、と投げ出したくなるほどに明確な衰えを感じたのだ。


 奇しくも時代が時代、ファミレスはおろか居酒屋まで禁煙となる店が増えたこともあり、数年間と中々な禁煙を成したものだが、まあ案の定永遠とは続かずに。呆気なく再発したもののこれがどうにも吸いきれず、昨今は両切煙草のショートピースを煙管(きせる)にて一口分頂く実に情けない一服と洒落込んでいる。


 ずっと、煙草なんて幾つになっても辞められないものだとばかり思っていた。

 どれだけ歳を取っても、変わらぬないしより酷いペースで一本吸いきることを一服とするものとばかり思っていた。


 それがまさか、ステレオタイプな喫煙者すら保てぬままにニコチンからは逃れられず、みみっちくも浅ましい一服にすがるとは、なんとも情けなき未来にきたもんである。


 中々どうして、世間一般が共通するステレオタイプという奴には成れないものだ。


 これまた古のそれであるが、昭和の文豪といえば和服姿で胡座(あぐら)をかいて、腕組み(うな)り原稿用紙をくしゃくしゃ丸めてポイーと、おおよそのイメージはそんなもんだ。


 令和の世にあのスタイルへ憧れる者はそうおるまい。コスプレ気分で試したいという意味ならば何せここは小説投稿サイト、それなりの数がいるだろうが実際にスタイルとして身につけようと思うものは、余程の酔狂しかいないだろう。


 だがそれこそ、平成初期辺りまではまだ文豪に憧れを抱いた者もいたはずだ。

 彼ら、もしかしたら彼女らのどれだけが思い描いたステレオタイプの到達点に至れただろう、その中にはもしかしたら、後はスタイルを真似るだけ、という境地にまで至った現代の作家もいるやもしれない。


 彼らも、現実はイメージ通りにならないな、と苦笑してたりなんかして。


 実際、あのスタイルはあまりにも旧時代だ。

 和服に関してはむしろ上々、筆者も一時夏の寝間着を甚平にしたりとコスプレ気分に浸ったもんだが、後はてんで駄目だ。あの、すんなりイメージできる胡座の姿勢で長時間動かず座りっぱなしとか間違いなく身体がブッ壊れる。万年筆での執筆なら分からぬが、パソコンないしスマホでの執筆において胡座はあまりによろしくない、腰を労る為にもやはりある程度しっかりとした椅子に座り、定期的に席を立つ習慣をつけねば必ず追々『つけ』を払わされる羽目となる。そもそもにして今はデジタル全盛、原稿用紙を最後に見たのは何時だったか……と根本的なそれを思い。


 ふと。


 バックスペース、もしくはデリートのキーを叩くたび。

 範囲選択からまとめて消去し、書き直すたび。


 それら全てをあの、くしゃくしゃポイーに当て嵌めたなら、我々も大概原稿用紙を丸めているなと、そんなことを秋の夜空に思うのだった。


 道具、スタンス、生き様、時代。

 その全てが様変わりした今でもなお唯一、我々と古の文筆家達が共通するものこそ、あの、丸められた原稿用紙なのかもしれない。



電子煙草?

あれはいつの間にかバージョンアップかなにかで古いのだと吸えなくなってたので辞めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ