災害後
翌朝…
戸田真海は病室のベッドに横たわっていた。朝の光が窓から差し込み、疲れの跡が刻まれた顔を照らす。彼の剣は部屋の隅に立てかけられ、古びた身体の一部のように静かに佇んでいた。
戸田の目は窓の外を見つめ、遠く、重く沈んでいた。
軽いドアの音。女性の看護師が入ってきて、穏やかな声で言った。
「お薬の時間です。」
彼女は戸田にコップ一杯の水と小さな薬を差し出す。戸田はそれを飲み終え、コップを置いた。
「ご家族はいらっしゃいますか?」看護師が尋ねる。「退院の手続きをして、ご自宅で誰かに世話をしてもらった方がいいかもしれません。」
戸田はしばし黙り、そして小さくため息をついた。
「いりません。妻も子も…もう亡くなっています。」
看護師は一瞬言葉を失い、静かに頷いた。
「では、ゆっくり休んでください。何かあれば呼んでくださいね。」
ドアが閉まり、病室には再び静寂が訪れる。時計の秒針の音だけが規則正しく響き、老いた戦士の孤独を際立たせていた。
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同じ頃、市のホールでは。
空気は重く、薄暗い光が包み込む中、長列の魔法師たちが祭壇の前で厳かに立っていた。
祭壇には、護衛任務中に命を落とした者たちの遺影と棺が並ぶ。
ただ、イジフートだけは一枚の写真が孤独に置かれているだけで、棺はない。
人々は、彼が意識を失った際に魔物に飲み込まれたと信じていた。口には出さないが、その不在が場をより重苦しくしていた。
ヒユタはじっと立ち、表情を曇らせ、視線は深く沈む。
アトは手で顔を押さえ、涙を一筋ずつ指の間からこぼす。なんとか立っているが、肩は小刻みに震えている。
イモタルは前を見据え、平静を装うが、その瞳には抑えきれない喪失感が潜んでいた。
葬鐘が長く、低く響く。棺が次々と火葬台へ運ばれ、炎が部屋の奥まで影を落とす。イジフートの遺影は変わらずそこにあり、動かず、遠く離れたまま、仲間を見守っていた。
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葬儀の後。
ヒユタ、アト、イモタルは沈黙のまま帰路を歩く。石畳に足音だけが乾いたリズムで響く。
アトは涙を拭い、かすれた声で呟く。
「写真だけ…でも…もしかしたら…まだ生きているかも…」
イモタルはそっとアトの肩に手を置き、ゆっくりと言った。
「イジフートはただ行方不明なだけだ。まだ死んだとは限らない。いつか…きっと戻ってくるかもしれない。」
アトは小さく頷き、かすかな希望の光が目に宿る。
ヒユタは突然ポケットからお菓子を取り出し、何事もなかったようにアトの口に押し込み、笑った。
「もう泣くな。イジフートってやつは、血も気も多いだけで、たいしたことないんだから。面倒なだけだ、ほっとけ!」
アトは涙を拭いながらお菓子を噛み、涙と一緒に笑った。
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その夜。
馴染みの家に戻り、イモタルは木の机に座る。薄暗い灯りに照らされた部屋で、日記を開き、静かに筆を走らせる。表情は変わらず平静だが、紙の上の文字には静かな悲しみが溢れていた。
ペンを止め、彼女は顔を上げ、暗い窓の外を見つめながら、思考を夜の静寂に漂わせる。
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翌朝。
ノックの音で目を覚ましたイモタルは、新聞配達の少年から朝刊を受け取り、礼を言ってリビングに戻る。
椅子に腰掛け、新聞を読みながら眉をひそめる。ひと瞬の思索が心をかすかに締めつけた。
「しまった…」イモタルは小さく呟いた。「…イジフートに頼まれたことを…もう少しで忘れるところだった…」