列車上の衝突
昼休み、校庭は生徒たちの声でにぎわっていた。
イジフト・ゲタ、アト・ジンジュク、ヒユタ・アクは教室を出て、ゆっくり食堂へ向かう。三人は弁当を手に取り、長いテーブルに腰を下ろした。
食べながら、イジフトがふと顔を上げ、半分冗談めかして言った。
「最近、新しく名を上げてる明術師がいるって聞いたけど?」
アトが軽くうなずく。
「名前はユアタだったかな。まだ十歳らしいけど、かなり強いらしい。」
ヒユタは鼻で笑う。
「十歳だぞ? そんなガキに何ができるんだ。」
イジフトは頬杖をつき、考え込むようにつぶやく。
「俺もその力にはちょっと疑問を感じるな。」
アトは箸を置き、真剣な口調になる。
「今はもっと大事なことがある。その話は後にしよう。」
イジフトは肩をすくめて笑った。
「そうだな。」
―――
放課後、三人は校門を出て並んで歩く。イジフトは小さなボールを蹴りながら言った。
「明日、俺たち“アレ”を運ぶんだよな?」
ヒユタは腕を組み、口元をゆがめる。
「危険な任務だって? 笑わせるなよ。報酬だってデカいんだ。イモタルが騒ぎすぎなんだよ。」
アトは少し沈んだ声でつぶやいた。
「……いやな予感がするんだ。」
イジフトはひらりと手を振る。
「じゃあ、また明日な。」
二人も同時に返す。
「ああ、また明日。」
―――
翌日の午後。
特別列車が発車した。車内には厳重に封印された暗物が積まれている。護送を担うのは連邦明法学園の明術師たち。イジフト、アト、ヒユタもその一員だった。
三人は暗物を収めた貨物車の近くに腰を下ろし、笑いながら雑談している。危険任務とは思えないほど和やかな空気だった。
他の明術師たちは各車両を歩き回り、小声で打ち合わせをしている。
夜が訪れる。
列車は暗い線路を走り続け、窓から灯りが流れる。明術師たちは持ち場に散り、巡回を開始した。封印車両の前ではイジフト、アト、ヒユタが見張りに立ち、先ほどよりも表情は引き締まっている。
その頃、後方車両で足を止めたのはヒロ・ジェジュキ。歴戦の明術師である彼の目が鋭く光った。窓の外、闇の中から無数の影が音もなく列車に迫っていた。
ヒロは携帯を握りしめ、即座に全員へと連絡を送る。
数分も経たぬうちに、咆哮が夜を裂いた。
暗獣の群れが列車を取り囲み、押し寄せてくる。明術師たちは武器を抜き、術式を展開。剣閃と光が飛び交い、襲撃者を押し返していく。
激戦の渦。
その一角で、アカイ・タミーが包囲されていた。四方八方から暗獣が群がり、彼女は押し潰されそうになる。
そこへ強烈な衝撃が走った。エタベ・タミーが現れ、一撃で暗獣を吹き飛ばす。彼女は妹を抱き起こし、微笑む。
「まったく、相変わらず弱いままね。」
アカイは息を荒げながら叫んだ。
「エタベ! 後ろ!」
刹那、漆黒の影が飛び込んだ。鋭い一撃がエタベを壁へと叩きつけ、金属の破片が弾け散る。
口元の血を拭いながら、エタベはにやりと笑った。
「……姉さんに不意打ちとはいい度胸ね。」
そう言って、帝国の刺客へと飛びかかる。
―――
一方そのころ、8号車で暗獣を掃討していたヒロ・ジェジュキ。
荒い呼吸を整えつつ、携帯を取り出し、どこかに短く連絡を入れる。そして苦笑混じりにため息をついた。
「また遅れたか……」
その瞬間、携帯が震える。緊急通報が届いた。
――10号車にて、エタベ・タミーが帝国の刺客と交戦中。
ヒロは歯を食いしばり、低くうめく。
「くそっ……骨が折れるな。」