怒り
「……ふぅ、やっと魔力くらみが治った」
空中に停滞していた白獅はようやく目眩が収まる。
下への注意も散漫になる程油断しきっていた。だから下から飛んできているモノに反応するのに遅れる。
「っ!」
白獅の目の下あたりを掠り、そのまま何処か学園内ではあろう敷地の奥へ飛んでいった。
槍本来の切れ味が戻り皮膚を切り裂き血が垂れる。
(……油断していた……!まさかあの槍で全て対応してからこの高さまで投げつけて来るなんて)
何度も言うが学園が貸し出している武器は全て斬撃、つまり斬ったり突いたり出来ないように特殊な加工が魔術によって施してある。
魔術が掛けられているという事は魔力が常時垂れ流しみたいに魔力が感じられる。
しかし、加工が解けているから魔力を感じ取りにくい。その上白獅は俺が倒れ切っていると油断していた。
気付くのは難しいだろう。
(だが、今ので飛び道具も何も無くなった。それなら上から一方的に攻撃してやる)
油断はなくなったが、それでも白獅は舐め腐っている。
それは今までの経験からか、己の実力故か……
兎に角、アイツはどこまで行っても俺に勝てない。そう確信している。
(さて、どうしたものか……。今俺にはガントレットただ一つ、近距離特化となった現在、白獅に攻撃を当てるには近づくしかなくなったが)
それならどうするか、考えるまでも無い!
足に掛けとぃた魔術に再び魔力を通し強化する。見た目に変化はあまり無いが筋力が上がっていることを実感出来た。
しゃがみ込みバネを利用してさっきみたいに、さっき以上にスピードを上げ跳び上がる。
跳び上がった先にいた白獅も俺を見つめ、俺も白獅を見つめる。白獅を上へと跳び越え、次第に推進力が無くなり丁度白獅の約五メートル上で止まる。
(今度は俺が見下ろす番だ)
俺は浮遊魔術なんて繊細魔術の制御は出来ない。従って物理法則により落ちる。
だが下には白獅がいる。そのまま落ちるなんて事はしない。
白獅の頭に手を置きバランスを取りながら片手逆立ちの形で留まる。
下から俺に向けて殺気と魔力が感じる。相当苛ついているらしい。
「……」
「こういう形で見下されるのは初めてか?初めてならしっかり脳に刻みつけてくれ」
更に煽り嘲笑うように話す。
普段ならこういう事は絶対しないが今はこれが効果的だ。隙だらけ、それを見逃す筈がなく前へ倒れ込み鳩尾に膝蹴りを入れる。
前のめりになった白獅に、続けて踵落としで下に蹴り落とす。
浮遊魔術は元来『飛ぶ』というイメージがあるが本当は違う。浮遊魔術は浮遊する、というただ空中に浮くという単純な魔術だ。
原理とするなら、劇で上から糸で吊るされる事が近い。
だから自由に上下左右に移動出来る訳では無い。
ただ浮いているのなら、そこに外部から推進力を受ければ抵抗される事無く跳んで行く。
白獅は俺の蹴りによって訓練所の屋根を破壊し激しい轟音を立て、床に叩きつけられる。
「くはっ」
叩きつけられた事により肺の中の空気が吐き出される。
しかし見た目以上にダメージは無い。
(あれくらいの力だったらダメージにもならないか。やっぱり強化魔術は重ねて使わないと)
落下しながら思考する。
今の俺に必要なのは……
着地し、砂煙の向こう側を見る。一向に起き上がってくる様子はない。なら今の内に。
(昔から面倒な事は嫌いだった。俺に群がるヤツらも俺のチカラに期待するヤツらも嫌いだ。)
そんなヤツらを俺は力で黙らせてきた。
昔もこれからもそうだ。俺の平穏を脅かす者は力で黙らせらる。
が、今はどうだ?俺の平穏を脅かす者が平然と立ち、俺は伏せている。
(こんなの、許される訳が無い!!)
俺の中の魔力回路に魔力を流し、回転させる。一滴、たった一滴でいい。それが俺の力になる。
突然、沈黙していた白獅の魔力が膨れ上がった。
背筋が凍える程の魔力、最初に感じた魔力の十倍……これ程の力をどこに隠していた?
体内に宿した魔力は人によっては見分ける事は出来るが、ここまでの魔力を見抜けないものか?
「っ!?」
考える間もなく拳が飛んできた。威力がさっきの二倍、いや三倍!あっちも強化をしたか!
踏ん張り耐えるが、それでも壁際まで吹き飛ばされた。
どんな強化をしたのか分からないが、俺の強化を大きく上回る。
俺の強化を上回るのなら、それ以上の強化を重ね合わせるだけだ。
直ぐに立て直し殴り掛かる。
殴り飛ばす……寸前に急停止し脇腹に蹴りを入れる。
壁に激突する。そこにもう一度、魔術を込めた蹴りを食らわせると壁にヒビが入り嫌な音が響く。
訓練所の中よりも外のほうが動きやすい。蹴りを今度は腹ド真ん中に。
今の一撃で壁が保たずに崩れる。
訓練所の外、学園の校舎がある方向は流石にマズいか。ならその奥、運動場だ。そこまで吹き飛べ。
蹴り飛ばし校舎を越え、俺も追うように跳び越える。




