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小手調べ

 魔力が霧散してから暫くしたが、一向にその最強様は姿を表さない。

 これでは、俺の進級審査が終わらない。

 早く終わらせたいと言うわけではないが、このまま終わらないというのは先生にも迷惑だ。

 それなら、やる事は一つ。


 膝を曲げ、ジャンプの体制をとる。

 魔術は使わない。これから嫌でも使わなければなら何故場面だってあるかもしれない。


(だから、身体能力だけで……!)


 溜め込んだ力を縮んだバネが元に戻るが如く、上へと跳ね上がり天井を打ち抜く。

 金属が力によって千切れ、屋根の破片がパラパラと落ちていく。以外と脆いな。

 突き破った俺は座っているヤツの隣へと歩み寄る。


「最強様よ、何故隠れる?」


「……」


 沈黙。俺の質問に応えようとはしない。

 海からの潮風が学園にまで届き、髪が靡かせる。その白く長い髪を靡かせる男に似つかわしく無い男こそ学園生徒において最強。顔はどこか幼さを残し、身長もそこまで高いわけでは無い。寧ろ男からしたら低い方だ。目測、俺の胸元ら辺までしかない。


「……最強、か。お前も俺をそう呼ぶのか」


 ようやく口を開き、出した言葉は悲しみに満ちた言葉だった。


「最強最強最強、どいつもこいつも俺を見て口を開けば最強と言う。……聞き飽きた、俺にだって白獅 蓮(はくし れん)という名前がある。そりゃ俺だって人間だ煽てられ持ち上げられれば気分がいいが、言われ続けお近づきになりたいなんてヤツを嫌と言うほど見て去って行った」


「……」


「チカラ目当てで近づき、俺と自分のチカラの差を目の当たりにして執着し、焦がれ、嫉妬し、やがて憎むようになり俺から離れる。邪魔しようも俺に通じず陰口、噂といった方法で嫌がらせをする。そんな全てをチカラで黙らせてきた」


 少し似ているか、俺と。


「それで悟った。チカラは全てを解決する、チカラは全てを理解らせる。だから俺はチカラで解決出来るこの世界に感謝している。この学園に入ったのも俺が最強になり平穏に過ごす為だ。それなのにお前は俺の平穏を壊そうとするなら、チカラを持ってそれを叩き潰す」


 俺に視線を向け、睨見つける。

 その瞳には悲しみと面倒臭さと怒りが見える。性格状、こういう闘いは好みではなく平穏に平和に過ごしていたいタイプだろう。

 それを壊されるのは許さない、だから闘う。漫画の主人公みたいだな。


「それは好都合だ。俺にも理由がある。それの弊害となるのなら潰すまでだ」


「……都合の一致、か。出来れば俺の話を聞いて戻ってくれるのが望みだったが……仕方が無い」


 立ち上がり、髪を束ね結ぶ。戦闘の邪魔にならない様に。

 瞳は揺らぐことなく真っ直ぐに俺だけを見つめる。視線が交差し沈黙が訪れる。


 スッ


 闘いは唐突に始まる。互いに手始めに近接戦闘で力量を測る。

 俺は槍で、白獅は魔術によって強化された素手で相手の攻撃を捌いていく。

 槍は本来中距離にいることによって本領を発揮する。

 近接戦闘ではせいぜい攻撃を捌くのが関の山だ。それ以上を求めるのであれば距離を取らないと……


 一方、白獅は素手。その魔力体力が尽きぬ限り攻撃が止むことはない。

 距離を取り攻撃しようとするが、直ぐに距離を詰めて来る。

 当たり前だが自分が有利に戦える状況を整えてくる。


(ならやり方を変える)


 回し蹴りによって白獅を一時的に距離を取らせ、今度は俺から仕掛ける。

 しかし、頭を狙おうが胴体を狙おうが避けたり防いだりして躱された。


【黄昏流槍術 鴉羽】


 刺突の雨が白獅を襲い天高く突き上げる。

 突き上げた白獅を追うように俺も後を天へと跳び上がる。その際、跳び上がった衝撃で屋根が凹む。

 跳び上がった俺を見下ろし狙いを定める。


 パチンッ


 白獅が指を鳴らして、瞬時に炎弾が周囲数キロにわたり展開された。


「……!」


 炎弾は全て俺を狙っている。空中にいる以上避けることは出来ない。手元には槍一本と装着しているガントレットのみ。

 魔力を身体全体に纏わせれば火傷をする事はないがダメージはある。防ぐ術は……

 考えている隙など与えないと言わんばかりに次々と襲い来る。


(全て捌く……!)


 考える暇がないのなら考えなければいい。脳筋技が強い瞬間だって存在する。今がそれらしい。

 ただ一つ一つ捌いていては次々と来る炎弾を全ては防げない。


(予測、先読み、直感を駆使し全てに対応し切ってみせる……!)


 周囲数キロ、数にして一万前後程……数百個なんてこの数の前には誤差だ。

 それに攻撃を喰らわなければどうという事ない。


 突き、叩き回して白獅が繰り出した炎を槍で素早く対処していく。

 落下して行く俺のスピードも計算に入れているのか落下する位置に炎弾が襲う。

 動揺する必要は無い。

 冷静に且つ平静に対処出来ればそれは危機になり得ない。


 やがて俺は物理法則に従い、下へと落ちていき跳んだ訓練所の屋根が見えてきた。

 落下速度は徐々に早くなり屋根に近づく。

 しかし、炎弾はまだまだ残っている。落ちた瞬間に受け身を取っている暇も無いだろう。


(ならば足に更に魔術を重ね、下へ衝撃を放ち落下の衝撃を相殺する)


 それをたった一度で衝撃を相殺出来るなんて考えていない。

 二度三度と何度も衝撃を送る。

 が、蹴りはパンチの二三倍の威力がある。それに魔術の重ね掛け、速度も威力も段違いだ。

 相殺するには十分。十度目の蹴りをすると、屋根にフッと立ち降り炎弾の対処を続ける。


 八千百五


 六千七百一


 三千七


 千九百六十


 やがて千をきり、五百をきり、百をきり、空を覆い尽くし鏡に光を反射していたかのように見えていた炎弾は目視で数えられる程に減っていた。

 だが、槍も耐久力がギリギリだろう。

 刃先も黒くなり、石突は焦げ落ち柄も焦げてボロボロと屑が落ちていき原形が殆ど無くなっている。


(残り……十!耐えてくれよ)


 両手で持つには長さが足りず、最早片手で捌いている。


(最後)


 残りの最後一つ、一際大きな炎弾。白獅の姿が見えない程の太陽。

 見た目にそぐわないかなりの速度だ。

 最後だ。特大を花火にしよう。


 柄も焼け焦げ短剣程の長さになってしまった槍を肩の上に掲げ、腰を捻り重心を右足に乗せ後ろに下げる。

 体全体を動かし重心を後ろから前へと移動させ、槍だったものを上に投げつける。


 空をきり炎弾に当たる瞬間、炎弾が複数に分かれ投げつけた槍を躱されてしまう。


「!?」


 俺はこの闘いの中で初めて動揺が顔に出る。

 瞬時に炎弾を操作して小さな複数の炎弾へと姿を変えた。

 姿を変えて尚、俺に襲い掛かる。

 槍は投げてしまったが、まだガントレットを着けている。これで防げば大丈b……


 ドドドッ


 炎はスピードを急速に上げ着弾する。

 攻撃をモロに受けてしまった。


 …………


(……終わりか)


 空高くから見下ろし状況を確認する白獅。

【浮遊魔術】により重力に反し落ちる事は無く、魔力が続く限り飛び続ける。

 下は黒煙が上がり、倒れているかは確認出来ないがあれだけの威力だ。アイツは今頃下で焦げているだろう。


 頭がクラッとする。


(魔力を回転させ過ぎた。俺ともあろう者がこれくらいで音を上げるとは……さっさと降りるか)


 脳の酷使し過ぎた、目の前がボヤけて見える。

 あれだけの量の炎弾、魔力に魔術式の構築から展開、脳へのダメージが大きい。

 浮遊魔術も長時間発動させ続けるのは困難だろう。

 フラフラとゆっくり下へ降下していく。下から来る()()()に気付かないまま。


 …………


「……痛って」


 流石に魔術を重ねていてもダメージが大きい。最強は伊達じゃない。

 魔術の威力もタイミングも凄まじい。

 だが俺も負けない、負ける訳にはいかない。俺にも理由(約束)がある。


(だから、少し小細工させてもらった)


 学園の貸し出し用の槍には斬撃を緩和して打撃になる様に細工されている。

 その細工を弄って槍の刃先、打撃ではなく刺突が出来る様にしてやった。推定二センチくらいの刃先。

 それにも多少の細工を施し天高くいる白獅にはそれが当たってているのを祈るだけだ。

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