振るう力
目から紅い光を発し、その光景を映し出した。
瞬間、映し出した光景が薄れていき、途端に元の景色に戻っていった。
拳と能力の槍が僕目掛けていた。
しかし、僕には全ての動作が遅く見えていた。右からの拳。正面から炎と雷の槍後ろから水の槍と左から僕目掛けて拳が飛んで来ていた。
しばらくすると遅く見えていた光景が元に戻り、すさまじいスピードで拳と能力の槍が飛んできた。
「くっ!!」
拳をなんとかいなし、能力攻撃はギリギリで躱す事が出来た。
「クソッ!運良く躱したか……もう一度一斉に攻撃だ!!」
そうリーダー格の男の声が響き渡ると僕を取り囲むように配置に着き、能力を一斉に発動させた。
炎や雷や水の槍が狙いを定め、僕に向けて一斉に射出出来る様に引き出し、構えた。
「今度こそ終わりだ。……どうする?今なら知っている事を全て話せば見逃してやらん事もないぞ」
「……知らないのでどうする事も出来ませんね」
「……そうか……だったら力尽くで聞き出すまでだ!!撃て!!」
その言葉を発した瞬間、男たちは一斉に能力によって作り出した槍をコチラに目掛けて放った。
「……はぁ、めんどくさ」
そう言い放つと俺はこちらに向かって来ていた数十発の槍を一蹴し、全て地面へ叩きつけた。
「……は?」
そこにいた者、特に能力を使用した者達は唖然としていた。
何故なら俺は学校でも落ちこぼれ……そう呼ばれてきた。そいつが今見せたのは一撃で数十人の攻撃をいとも容易く破壊して見せた。
それはあり得ない事だった。
落ちこぼれが能力も使わずにやってみせたのだ。
「……は?どういう事だよ……何で」
「簡単な事だよ。俺が攻撃を地面へ叩きつけた。な?簡単だろ?」
「そうじゃない!!何で能力も使わず今の攻撃を回避したんだ!!」
「……そうだな、確かに能力は使っていない。発動させようとしてもしなかった。だから身体能力だけで解決した」
「……身体……能力」
「そんなの……ありかよ……」
「巫山戯るな!!能力を使わずして、そんな事出来る訳無い!!」
リーダー格の男がそう叫び、周りもそれに便乗して声を上げた。
「……だったら見せてやるよ。お前らが言う弱者の力を……」
時間が経ち、夕方だったのがすっかり日も落ち、辺りは街の明かりで照らされ、また違った姿を見せていた。
俺は普段、平凡に生きるために皮を一つ被って過ごしている。
この世界に紛れる様に、何の力も持っていない振りをしている。
俺は争い事が嫌いだ。
傷つけ傷つけられる。その繰り返し……
なんて甘っちょろい事を言うつもりは無い。争えば必ず何らかの利益を生み、負ければ失う。それが弱肉強食。
この世界はそういう世界だ。
能力を使い、実力で相手をねじ伏せる。そして評価を貰い、どんどん上へと登っていく。
ただ俺は平穏に過ごしたい。例え虐めを受けていたとしても……
平穏に過ごしたい僕は、ネコを被って過ごしていた。
だから今、凄く疲れていた。久しぶりに、我を出したからか……
兎に角、どっと疲れた。
「……ふぅ、疲れたな~。何か食って帰ろうかな?」
そんな事を考えていると、前方から声が響き渡った。
「やあ、久しぶり!何ヶ月ぶり?一ヶ月?」
「……3カ月です」
「わあー!久しぶりだと思ったらそんなに経ってたんだ!どうりで久しぶりだと思った〜」
そう言い、一上さんはスキップでこちらにやって来た。凄いルンルンだな……
「今えーっと……3月だから、もう卒業シーズンか〜、早いな〜。君の所はもう卒業式終わったの?」
「はい。先日終わりました」
「そっか~。おめでと!」
「ありがとうございます」
「あ!そういえば、あれからどうなの?」
「どうって言うのは?」
「虐めだよ!大丈夫?」
「はい大丈夫です。というか彼奴等がアレ以降来てないですし……」
「そうなんだ」
「……そうだ。聞きたい事があったんです」
「ん?なになに?お姉さんの秘密?」
「そんなんじゃないです。あの時何で……」
「あ!時間ヤバッ!!ごめん、その話また今度で良い?」
「あ、ハイ。分かりました」
「ごめんね、またね!」
そう言うとそそくさと走って僕のきた道を走って街の方へ走っていった。また、聞きそびれたな……
(今度はいつ会えるのか……)
もうすぐ春が訪れるからか暖かな夕日が僕を照らす。
桜も咲き、道には何枚か落ちた桜の花びらがあった。もう3月か……もう直ぐだな……
考えながら、僕は再び歩み始めた。