能力至上主義
「……よしっ!消毒終わり!」
「それじゃあ、ついでに晩御飯作っちゃうね~」
「そ、そんな!そこまでしてもらう訳にはいきませんよ」
「いいの。それに君、見た感じコンビニ弁当ばっかりでしょ。栄養偏っちゃうでしょ?偶には栄養あるご飯食べなきゃ!」
「……ありがとうございます」
「良しっ!じゃあ、働かざる者食うべからずっていうことで手伝ってもらおうかな?」
「分かりました」
それから数時間後、一上さんが作ってくれた夕飯を食べ終わり、リビングでくつろいでいると……
「……君は、悔しくないの?」
「……何ですか?藪から棒に」
「急じゃないよ。君はこれまで虐められてきて悔しくないのかなって……やり返してやりたいって思わないのかなって」
「別に悔しく無いですよ。それにやり返すなんてそんな力、僕にはありませんよ」
「でも……」
「……」
例え、どんなにどん底でも生きては生きていける。それに満足している僕もどこかに居るのかもしれない。この虐めを抜いた平穏が心地いい、そう感じているのかもしれない。
努力をしても得られない、そんな物はごまんとある。僕は物語の主人公でも助けてもらえる様なヒロインでもない。
だったら、今を全力で生きていることが一番なのかもしれない……
「君は、本当にそう思ってるの?」
「……はい、本心です」
「……そっか、じゃあ私から何か言うのは野暮かな?」
そう言い、彼女は立ち上がり玄関の方へと足を進めるのであった。
僕は、一上さんを見送る為に一緒に玄関前までついて行て行った。
その日の晩、僕は考え込んでいた。
(はぁ……明日も多分虐められるんだろうな~。どうにか回避する方法なかな~)
考え込んでいるうちに意識は暗闇の中へと沈んでいった。
次の日、朝のホームルーム
「……ん?田中達は居ないのか?」と先生が問い、クラスが少しざわめいた。
田中、高橋、荻原、この3人が僕を虐めていた3人組だ。
特に田中はこの学校の中でも屈指の実力者であり、評価もトップだ。
その3人が学校に居ない。
今までにも学校に来なかった事はあったけれど、今日は今後の進路を決める重要な試験があり、これによっては今後の人生に関わる。
それは、あの3人も知っているはずだ。
それを知り、教室は少しザワついた。
「はい。静かに」と先生が言い、その場に静寂が支配した。
(……何かあったのか?)
結局、あの後も3人が来ることはなく1日は過ぎていった。
試験も3人は受けることなく、無得点という形になり、今後どうなるのかは僕には分からない。
ただ、田中達が来なかった事により今日は虐められずに済んだ事は良かったと思う。
試験もギリギリなんとか能力無しでクリアする事ができ、第一志望の学園へ入る事が出来そうだ。
そうして、今日一日が過ぎ帰路に着いている時
「やっほ~」と前方から響き渡った。
「一上さん……」
「また会ったね!」
「……そうですね。昨日もここで会いましたね」
「そうだね!」
「……一上さんはどうしたんですか?」
「ん?私は少し掃除をね」
「そうなんですね」
「そういえば今日は少し帰ってくるのが早かったわね。どうしたの?」
僕は今日の出来事を一上さんに話した。
虐めてきていた奴等が今日に限って来なかった事、珍しく虐めを受けなかった事。
「そっか、でも良かったね。その3人が来なかった御蔭で君が痛い思いしなくて良かったんだもん」
「……まぁ、結果的には良かったですね」
そうして、数分くらい話をした後に別れた。
再び、家に向かって歩いている時……
「……そういえば、何で僕を虐めているのが3人って知っていたんだ?」