落とし穴
それに対して僕は握手すること無く、
「……少し、考えさせて下さい」と言葉を紡ぎ踵を返し自分の教室へと歩みを進んで行く。
そもそもとして、僕たちFランククラスがAランククラスの勝負を受けるメリットが本当に無いのだ。
現在Fという評価を受け、これ以上さがる事はなく後は上がるように努力すれば良いのだ。
いきなり格上、それもトップクラスの勝負を受ける必要は無いと考えている。
だから僕は、あの話を蹴る……
そんな事を考えながら教室まで歩いていると、
「あ!ヨル君いた!」
と元気な声が前方から聞こえてきた。とびきり元気な声が……その声の主を僕は知っている。
「藍沢さんか……」と、嘆息気味な声で反応してしまった。
「どうしたの?元気無いね?」
「いや、少し考え事をしていただけです」
「そぉ?何かあったら私に相談してね?」
そう言い終わると教室の中へと入っていく。
まだ一日も経っていないのに優しいなあの子は……
そんな事を思いながら僕も教室の中へと入っていった。
それから、学園での説明やら寮での説明やらを聞いてその日は幕を閉じた。
次の日
僕が教室へと向かうと、教室内がざわめいていた。
(……?何かあったのか?)
そう思い教室の扉を開くと思いもよらない人物がそこに立っていた。
それは……
「氷城さん……?」
そこには、昨日出会ったAクラスの氷城三玲の姿があった。制服に身を包み完璧に着こなしている彼女の姿が……
「来ましたね、ヨル君?そう呼ばれているみたいだね」
……昨日、僕は彼女の前では名乗っていない……それなのに何故僕の名前を知っている?
「ふふっ、驚いている様ですね!安心して下さい別に誰かに聞いて回ったりした訳ではありませんので……」
だったら、どうして僕の名前を知ったんだ?
「考えている様ですね。簡単な事です。私はAクラス、だから様々な情報を知っている。学園の詳細や下のランクの生徒の情報まで……」
Aクラスは情報をどのくらいまで知れるのか疑問だったがそこまで知ることが出来るのか……
「……それで、ここまで来て要件は何ですか?」
「勿論、決まっています!昨日の返事がまだなので聞きに来ました!」
氷城さんは屈託の無い満面の笑顔で聞いて来た。どうやら本当に返事を聞きに来ただけらしい。
今か今かと返事を待ち望んでいる子供のようだ。
だから僕はきっぱりと、
「お断りします」
そう返事をした。
私の返事に「お断りします」だなんて生まれて始めての出来事だった。
何時も私が提案すると、すんなりと提案が通り私の提案が通らない事なんて今までになかった。
私は自分で言うのもなんだが容姿も整っており、今でも高嶺の花と言われている程だ。周りの噂や言っている事も聞こえて来る。
そんな私の誘いを断るということは、それ程の事だった。
「……そうですか……」
明らかにショボンとした様子で顔や態度にも出ている……
なんだか罪悪感がすごい……
ざわざわ
周りを見ると何やら話声が聞こえてきた。アイツ何様なんだとか、流石に酷いとかなんとかが教室中から聞こえてきた。
え?これ僕が悪い流れ?
さっきまでキャッキャと煌めいていた雰囲気が様変わりして、ドンと重苦しい雰囲気へとなっている。
この流れは良くないと思い僕は、
「昨日も言いましたが、僕らFクラスとAクラスとでの総力戦ではあまりにも力量差があり過ぎると思うんです」
そう口にすると教室内の空気が一気に変わり焦燥感が辺りを漂い始めた。
自分達の危機を感じたのか、一段とざわついている。
総力戦の相手がAクラスだと知り、ヤバいと思い始めたのかそれぞれがそれぞれ相談をし始めた。
「……クラスの反応を見ても賛成の意見も少ない様ですし、謹んでお断りします」
「……では、下剋上という形で総力戦をしましょう!」
「下剋上?」
「その名の通り下の者が上の者に勝負を挑む。」
「でも、僕らは貴女方Aクラスへは挑まない。だから下剋上は成立しないのでは……?」
「……決してそういう訳だけではありません。例によって、過去小競り合いによって総力戦をしたケースもあります」
「……つまり、どういう事ですか……?」
分かっている、この後の流れなど……分かっているけど、分からないフリをする。
「つまるところ、貴方は昨日私のクラスメイトでもある和田君と小競り合いをしていました。それに、それはまだ解決していません」
……成程、つまりそのいざこざを総力戦に持っていって解決しようと考えているのか。
「だから、僕らFクラスと総力戦をしようと……」
「そういう訳です!」
……一応、筋を通しているのか……?いや、通してみせたのか。
僕らFクラスとAクラスでの争い。
それを通して自らの力を示したいとかか……?だが、それならAクラスという最高クラスに入った時点で証明は出来ている。
だからこそ分からない。
僕らFクラスという最低クラスと戦う理由が……
「……一つ教えて下さい。なんの理由で僕らと戦うという事になるんですか?」
「理由なんて簡単です!面白そう、ただそれだけです!」
面白そう……か。
そんな理由で僕らと戦うというのか……だったら、
「それはもう決定事項何ですか?」
「そうですよ?」
「……分かりました。では、昨日言っていたハンデはあるんですよね?」
「はい、その通りです」
「……分かりました、お受けします」
そう言い、氷城さんとあの時は取らなかった手を取り握手を交わした。