世界の充実
「何者ってどういう事ですか」
「君の実体ですよ。君の魔力、能力、実力のその全て、それはAクラスのソレです。しかし思考は無能力者のソレです」
当たり前だ。僕は元々そっち側だから。
無能力者と蔑まれ、虐められていた。この世界で言う弱者、それに当てはまるのが僕だった。
「力があるからこそ何でも許され、統べる事が出来ています。学園長、それが最たる例です。あの人は能力が芽生え世界が変わる前から動き出していました」
「……」
「それが能力によるモノなのか素の才能なのかは分かりませんが、能力者が暮らしやすい世界へと成っていきました。能力が扱えない人は少し可哀想ですが、現在能力者達は施設が整い、仕事ができ、生活が成り立っています」
でも……
「ヨル君。君には充実する将来が待っています、それだけの力が貴方にはあります」
それでも……
「それでも君はこの世界を受け入れられませんか?」
笑顔は一切崩さない。
まるで人形のように、一度作られた顔は変えられないみたいに。
「……俺は、受け入れられません」
「……」
「例え能力者が暮らしやすい世の中だとしても、例え将来充実な人生が待っていたとしても、それは受け入れられない」
「そうですか。参考までに君の考えを聞いてもいいですか?」
「そこまで大層な理由は無いですけど……強いて言えば、約束したからです」
「約束、それだけですか?」
たかが口約束、だけど大切な約束だ。
この世界で友達との『世界を変える』約束。互いに、いや、俺以上に重苦しい人生を送ってきた。
共感出来て、同情する理由があった。
この世界には闇が存在する。
表層にも透けて見えて覆い尽くす程のドス黒い暗闇が……
「約束だけでも、俺には受け入れ難い理由に成ります」
「成程、そうですか」
目を瞑り振り返る。
俺と話している時は瞬きすらしなかった瞳を閉じた。
「それよりヨル君、一人称変わってますね?」
「俺の素はこっちですよ」
「そうなんですか?どうして変えたんですか?」
「自分を偽る必要が無くなったんです」
「そーなんですね」
それ程興味が無いのか返事が適当だ。
興味が無いのなら聞かないで欲しい。俺にとっても然程気になる事じゃないけど何かカッコつけてるみたいで恥ずかしい。
それからは学園を歩き回り、時間の流れが遅く感じるほどの時間を過ごした。
最近あった事や趣味、訓練の内容なんて他愛もない話をしながら、廊下をただ歩く。
話をしているだけだが、心が痛む。
せせらぐ木々や草花、他の人ならば和む事が出来るのだろう。
内田 凛。
彼女を思い出してしまうからなのか、話している内容が同じだからか心が締め付けられる。
まだ二日。これからも彼女と過ごした時間を瞬間を顔を忘れる事は無い。
夕暮れ時。
日が沈みこみ学園を照らしている。
生徒たちも各々が寮の部屋へと帰る時間になっていた。俺と氷城さんもそろそろ寮へ帰ろうとする。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうですね」
(和田はまだ残っているかもしれないけど、もう直ぐ日暮れだ今日は帰るか)
「そうだ。最後にもう一つ聞いてもいいですか?」
「……いいですよ」
「今日は楽しかったですか?」
「……」
何と答えるべきか……
穏やかな日々が過ごせたのは事実だ。だが、内田さんとも過ごせたらと、今日何度思った事だろうか。
あのデートをした日も、勉強訓練昼食を一緒にした時間も、どれだけ楽しかった事か。
怒りと悲しみが同時に押し寄せる。
この世界がこうなっていなければどれだけ楽しかっただろう。
普通に出会って、学園で一緒に過ごして、互いに友達として卒業まで一緒に過ごせていたら……
……だけど、だけどそうだな。
一言で言うならば……
「悪い気分じゃ無かった、とだけ言っておきます」
「そうですか。それは良かったです!」
そう言い残し、女子寮へと帰って行った。
俺も今日は学園でする事は無いから寮へ帰る。
それに明日からは少し忙しい。クラスが進級した事で寮の部屋の場所が変わるから荷物を纏めないといけない。
まさかAクラスすら越えるとは思っていなかったが、都合が良い。
(これからの情報を集めやすい)
これからだ。これから世界をひっくり返す。




