ヘテロ
「それよりセンセー!このクラスってどういうクラスになるんですかー?」
「嗚呼、まだ発表していなかったね」
一拍置き、言葉を並べる。
「私が定めたこのクラスの立場としてはAクラスの一つ上だ。一つ上とはいえ、そこには明確な差がある」
能力・実力・知力その他を含めた全てをAクラスの生徒と差がある。
能力一つでさえ一角を画している。天に選ばれ才を授かる、言葉にする事自体は安い。
選ばれる事さえも難を要し、何億通りという人の中から一つだけを授かるかは完全に運次第だ。
とりわけ、彼は特別だ。能力無しによる身体能力に魔術、訓練を行っている事は私も見ていた。
身のこなし、魔術による強化……至って一般的であり我流だという事は見れば理解出来た。
しかし、学園最強である白獅君に喰らいつき剰え引き分けにまで持ち込んだ。
まあ引き分けというのは建前だが……
(ふふっ、面白い)
「とはいえ、クラスはいい意味でも悪い意味でも異質だ。学園最強、文武両道、氷翠姫に無能力者。ここまでおかしなクラスも探してもそうある事は無いだろう。そこで、このクラスには【ヘテロ】の名が相応しい」
ヘテロ……確か、ギリシャ語?
異質。異質と言えば確かにその通りだ。能力無しがここまで来れたんだ。学園、だけには収まらず世界的に見ても異質だ。
それならそれを利用するまでだ。
そうだ。もっと、もっと……
「ヘテロ……何か、カッコいいね!」
「……」
誰一人、藍沢さんの言葉に便乗する者はいない。
既にここは戦場。
頂点に上り詰める為には一分一秒も無駄には出来ない。高め合う?そんな言葉は上っ面だ。
利用し合う。
それがこのクラスの戦場だ。
一部例外もいるようだが……
「そうそう、一ヶ月後から交流会を行う。各々二人ずつでペアを組み、指定の場所へ向かってもらう」
「説明は以上だが、何か聞きたい事はあるかな?」
「……」
「よし、では本日は解散だ」
学園長はそう言い残し教室を出ていく。
教室は静かだ。Fクラスの時のようにざわざわと話していた時とは違う。
緊張感が漂っている。
「よっし!終わりなら私は行こうかな。行きたいとこもあるし!」
この空気を読まない、良く言えば流されない。
まあさっきよりは空気は軽くなった。
「和田、この後どうするんだ?」
「俺は訓練所で訓練だ」
「それ俺も付き合っていいか?」
「いい「良くありません」ぞ」
「この後は私に付き合ってもらいます」
氷城さんが話に割り込む。
俺としては和田との訓練で新しい力を実戦で試してみたかったんだが。
「覚えていますか?私との交渉」
「あゝ、はい」
耳元で話しているからこそばゆい。
「私に交渉を持ち掛けておいて自ら実力を晒すとはどういう事でしょうか」
「それは……」
俺もあの時は力加減が狂っていたというのがあったし、……申し開きも無い。
何を言っても言い訳だ。
「貴方が持ち込んだモノを貴方が破るというのは、良くないのではないでしょうか」
「……仰る通りです」
「それではどうしましょうか。貴方が秘密にしていた事は既にバレてしまいましたし、新しく何か握るというのも面倒です」
「……」
「どうしましょうねー?」
これは……反抗しない方がいいか。
反抗した方がより言われそうだ。
「どうすれば許してもらえるでしょうか」
「そうですねー。それでしたら私に付き合って貰いましょうか」
「……分かりました」
ようやく耳元から離れてもらえた。
このクラスなら馬鹿にしたり陰口をするなんて事は無いがこそばゆい。
「和田悪い。さっきの話また次でもいいか?」
「あゝ、氷城との事情だろ。俺は気にしない」
「ありがとう」
和田に礼を言い、教室を出る。
ヘテロから出て他クラスが授業を行っている棟の廊下を歩いている。
邪魔はしないように気配だったり足音を消しているが、
…………静か。
多少の音を立てようが気付く人はいないだろう。
移動教室だったり外での訓練で室内には人影を見受けられない。
「コレは良いものですね」
「誰もいない廊下がですか?」
「そうです。この誰もいない空間……休みの日に学園に来たような気持ちです」
「気配で分かるでしょう」
「それを言っては台無しですので言わないで下さい」
風が吹く。
氷城さんの髪が風によって靡く。
靡く髪を手で押さえ、とても絵になる光景だ。
何時もの景色、そこに普段見ない人がいるというのは何とも言えない。
が、それはこの前までの俺だったらだ。
今はこの景色でさえ腸が煮えくりかえる。
「ふふっ」
「……何かおかしな事がありましたか」
「いえ、貴方が怒っているのは珍しいと思いまして」
「……どうして分かったんですか」
「私の能力、お忘れですか?」
そういう使い方もあるのか。空気をどこまで定義するのかは俺でも氷城さんでも無い。天だ。
全て神が決め行う、人間では無い。
「私には貴方が怒る理由が分かりません」
「何が分かるんですか」
「分かります」
だったら……
「だからこそ分からないのです。貴方は何者ですか?」




