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異世界ジパング復興主義《リナシメント》  作者: 玄行正治
第9章 パヴィア王墓ダンジョン探索行
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芽生え



 スキル[ネズミ捕り]

 任意のエリアに設置し、そこに指定した人・物が侵入するとスキルが発動する。

 取得時で[鳴鼓(なるこ)]。その後、[ブービートラップ][捕獲トラップ][トラップ兵器][地雷原]を取得することで、最高ランク[罠師]を取得。


 この時点で罠設置の最大効果範囲は、直径三十キロ。


 これは東京都を中心にした場合の横浜、町田、立川、大宮、柏、千葉を結ぶ一円を網羅した範囲に相当する。さらに進化スキル[軍師の采配]を取得する。


 カルロ陛下は、その罠スキルをどこに設置したのか。無論、あのダンジョンの入口となる扉だ。


 最初は、雨が降って現地待機を諦めてストラデッラまで退いたので、わたし達がダンジョンを脱出したのを気づけるようにと置いた。


 と、本人が供述しているんだけど、なんか嘘くさい。


「ほんと、ほんと!」


 汗をかいて両手をフリフリ。一生懸命弁明するのが可愛いから、許す。

 これから何度も言い続けることになるだろうけど、サヴォイア大公カルロは賢いのだ。


「それで?」


「ん? んー。もういい」

「もういい?」


「うん、みんなで決めた。パヴィアはもういいの。集まらない」


 わたしは即座に理解した。カルロの手を握りしめる。


「陛下。スキル発動しちゃダメ!」


「どうして? ほんとにみんなで決めたのに?」


 悪意のない不思議そうな顔。罪の意識があるはずもない。スキル対象を理解していない。アエミリアヌスもコンスタンティンもそれを解ってて、カルロ陛下に実行させているのか。


 だとしたら、悪質だ。


 ふざけた連中だけど、転生者(なかま)一人に汚れ仕事を押し付ける奴らじゃないと思ってたのに。いやカルロ陛下なら大事にならないと思っているのか。だとしたら浅慮が過ぎる。


 もし意図して人を殺める罪を押し着せたのなら、軽蔑する。今後一切、転生者でも馴れ合いはしない。


「ここはロンバルディアです。後始末もロンバルディアが背負いますから」


「んー、わかった。カレンならいいよぉ」


 思いとどまってくれたことに。わたしはほっと胸をなでおろした。


「カレン。状況だけ見てくる」ヴァンダーが踵を返した。


「お願い。でも手は出さない方向で」


「手を出すな? 行かせるのか?」


「気づかれないことが一番だと思う。きっと何もないか、ミイラ取りがミイラになるだけよ。どちらに転んでも後始末は、今回被害に遭われたガリバルディ卿に委任します」


「なるほど。承知」


「バジル、ヴァンダーについていって」


 二人を見送って、わたしは鳩尾(みぞおち)あたりに思い鉛を飲んだ気分になった。


 ――過ぎた好奇心は猫を殺す。彼は、あの警告を理解してなかったみたい。


 ラテリウス司教といったか。転生者の知識に魅入られて、わたし達が蓋をしたトラブルをもう一度開ける気だろう。勝手にすればいい、骨は拾ってやらない。フタに土を被せることだけはやってやる。次の屍肉喰いが嗅ぎつけてこないように。


「帰りましょう」

「えー。ずっとカレンといたい」


 マロ眉をハの字にされて、告られた。


 ――今、告られたよな?


 イケメンとかイケオジに告られる妄想をはかどらせたことはあるけど、こんな純粋な気持ちを投げかけられたのは初めてだ。学校でも絶無。素直に嬉しかった。


「わたしも、陛下と、もっといたい、ですよ」


「本当っ!?」


 赤ちゃんみたいな笑顔を向けてくる。こっちが急に恥ずかしくなってきた。


「でも、畑の様子が気になりますから」


「うん。そうね」


 不意にぐっと真面目になられると、そのギャップだけで脊髄が感動でふるえる。


 ガチ農業男子。わたしの人生設計でこの先、カルロ・サヴォイア以上の男性が現れる気がしない。


 佐藤さんが大あくびして、


「カレン、ごめん。ちょっと時差ボケみたいになってる。駅馬車乗ったら寝るわ。カルロ陛下もお元気で」


「あい、あくしゅあくしゅ!」


 二人が握手して、佐藤さんがルーヴァン少将とも握手を交わしている隙に、カルロ陛下はわたしにだけハグを求めてきた。 


 愛しさと切なさが交互に明滅する。


 恋って、イケメンにしか発動しない現象だと思ってた。


 わたしは腰をかがめてハグを返し、背中に回した手で肩を叩いて、別れを告げた。


「冬の社交会に、また、お会いましょう」


「うん。しゃこうかい!」


 陛下は武官に手を引かれ、サヴォイア大公国行きの駅馬車に向かっていった。


 振り返り続けるカルロ陛下の笑顔に、わたしと彼の間で何かが始まったんだと、信じた。



「全滅だ。あの最初の橋で」


 ヴァンダーの小声での報告に、わたしは車内で膝に肘をついて頭を抱えた。


 クレモナ行き最終の駅馬車は北の王都マイラントを目指す。乗客はわたし達しかいない。


「やっぱり、あの巨影剣士が復活してたんだよね」


 アストラル擬似界。時間を捻じ曲げる彼らの呪いは、断ち切れたわけではなかった。


「被害数は」


「五人だ。うち一人がラテリウス司教だったことまで確認した」


「扉は?」


「米藁を持ってきて、隠してある。ガリバルディ卿にもそう伝えた」


「うん。なんて言ってた?」


『ラテリウス、返り咲きを焦ったな。切れたトカゲの尻尾だったが、こっちで再利用する前に食われたか』


 ガリバルディ執政官は教皇国から何かを(いぶ)り出そうとしていたのかもしれない。


「なんかこの間から、わたし達と教皇国、イザコザが絶えないんだけど」


「向こうにそれだけの思惑を持ち込まれていたということだろう。これだけ損害が出たら、謝肉祭までは大人しくなるだろう」


「だといいけど。それより次は、ロマーニャ王国の御前試合ですよ、師匠」


「うっ、急に目眩めまいがしてきた……忘れてた」


 まんざら冗談でもなさそうに、ヴァンダーは座席に長い脚を投げ出した。やはりみんなアストラル擬似界の疲労が濃いようだ。ティグラートも腕を組んで佐藤さんに肩を貸しながら寝ている。


 わたしは車窓に肘をかけて、暗い雨のヴェールを眺める。


 体は疲れていたけれど、まだ眠れそうになかった。


 また王国の身上より、我が身におこったハプニングの手触りを愉しんでいたかったから。



以上で、第9章、終幕です。完結ボタンは押しません。

次章は、未定ですが、流れ的に御前試合大会でしょうか? 知らんけど。

これからも細々と書いてまいります。評価をいただければ幸いです。

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