宴
ゆらゆらと、随所で灯りの火がゆらめく。
ともし火の光で地面に映し出されたたくさんの人影は、ひっきりなしに交差している。
グリズリー襲撃の夜、キャラバンの村の大広場はお祭り騒ぎとなっていた。
キャラバンの村の中央にある、四角い石を敷き詰めることで舗装された円形の大広場には、老若男女問わず集まっていた。
その中心には、ミト。
――ドンッ!
「ミト!あんたの狩ったグリズリーで、こしらえてきたよ!」
村一番の料理上手と評判の恰幅のよい婦人が、ミトの目の前に、大皿と大釜を置いた。
大皿の上には、グリズリーの肉を薫製してつくったスモークジャーキーがドッサリ。
大釜の中には、グリズリーで取ったダシと、村で栽培している野菜や穀物が入った熊汁が、釜一杯に入っていた。
「まず、あんたが食べておくれよ!」
婦人に促されるまま、ミトは熊汁を小さなお椀に入れてすすり、スモークジャーキーを口に放り込んだ。
「ん~!!すごくおいしいです~!」
ミトは絶叫した。
「よし!みんなも食べな!あの食糧泥棒のヤツ、ホントにデカかったから、全然、余裕あるからね!」
婦人は満足そうな顔をして言うと、周りにいた者達にもふるまい始めた。
「やった!」
「わ〜い!」
「いただきま〜す……んめぇ!」
他にも、お祝いにと、菜園から果物を持ってきてくれる者、助けてくれたお礼にと、干し魚を持ってきてくれる者、お酒の樽を開けてくれる者もいる。
「モグモグ……みんなさ、ミトがグリズリーの一撃くらった時、やられたって思ってただろ?違うんだよ!俺達の視点からだとよく見えてて……ゴクゴク」
護衛の男が、スモークジャーキーを食べて酒を飲みながら、周りの人らに先のミトとグリズリーとの闘いを興奮気味に説明していた。
「ミトって、あんなに強かったんだな〜。ズズズ……」
伝達係だった青年も、熊汁をすすりながら、しみじみと言った。
「ちぇっ、こんなにみんなの注目の的になるんだったら、俺も村の中でやりゃ良かったぜ」
ラクトは言うと、干し魚をムシャムシャ食べて、酒を飲んだ。
「わざわざ俺、密林の奥深くまで行ったのによ」
「ラクトも最後の試練、グリズリーとの戦いだったよね」
「ああ。でも、見てたの長老と一部のヤツらだけだったし」
「あはは。いや、ラクト。僕が一番戸惑ってるよ、この扱い」
周りの会話をずっと聞いていたミトも、苦笑まじりに言った。
「キャラバン最後の試練で、こんなに盛り上がるとは思わなかったよ」
「そりゃあお前、目の前であんな闘い見せられたら、そりゃあ盛り上がるだろ。今日一日は、お前は村の英雄だぜ」
「参ったな〜。過大評価だよ。まだキャラバンとして交易品の一つも村に持ち帰ってないのに」
「まあ、この村のヤツらはみんな、お祭り騒ぎが大好きだし、キャラバンの先輩達が交易品持って帰ってくるたび、こんな感じに……あっ、ほら、あそこ」
ラクトが指差した。
見ると、どこからか楽器を持ってきて、演奏を始めた者がいる。すると、それに合わせて踊り始めた者達もいて、気がつけば護衛担当も踊りの輪の中に入っていた。
「なるほどね。いいきっかけにはなったって、考えればいっか」
「まあ、なんにしても、試練突破、おめ!」
「ありがとう!」
「……そういえば」
ラクトが思い出したように、ミトに聞いた。
「マナトは、どこいるんだ?」
「ああ。マナト君は今、長老のところだよ」