マナト、戦いを見ながら/決着
――ズァ!
ダガーがグリズリーの牙を通り過ぎ、右の頬をえぐった。
「す、すげえ!!」
「ミト、つええじゃねえか!」
攻撃をかわし、着実に攻撃を加えてゆくミトの戦いを見た観衆が沸いた。
――グオォォォ!!!
グリズリーが咆哮。立ち上がった。
先に侵入していた民家と同じくらいの高さでミトを見下ろす。
その目に殺意がみなぎっている。
「ミトよ!なぜ憤怒させたのじゃ!?」
長老が慌てた様子で言った。
「戦いは、相手がその気になる前までに決着をつけさせねばならぬのに!」
「いや、たぶん、あえてっすよ、長老」
ラクトが言った。
「なぬ!?」
「ミトは相手の攻撃を見て、それに合わせて攻撃を仕掛ける型なんで。オレとは違うんすよ」
「し、しかし……」
「いや、もう、相手の強さが分かったんで、あえてやってるっすよ」
――ザザ……。
二足歩行のまま、グリズリーはその大きさでプレッシャーをかけながらミトに近づく。
「……」
ミトは姿勢を低くしたまま、グリズリーの動きに、呼吸に合わせるように、右、左と揺れ始めた。
グリズリーの影の中にミトが完全に入った。
――シュッ!
グリズリーの左前脚。ミトの身体を突き刺しにかかる。
――スッ!
ミトは揺れながら、少し下がって身体を反らし、すんでのところで爪をかわした。
――ブンッッ!
傷ついている右前脚を、構うことなく、ミトに向かって振り回す。
――ガギッッ!
すかさず鋭い牙の噛みつき。
反撃を与えさせないグリズリーの連続攻撃。
――カキンッ!
しかし右手で逆手持ちに握ったダガーで防御しながら、ミトはよけ続ける。
ミトは、傷一つ負っていない。
「いいぞ!いいぞ!」
「ミトくん!がんばって〜!」
「トドメさせ!ミトぉ〜!」
周りの観衆の応援の声が、ミトに呼応するように高まっていく。
……人間じゃ、ない……!
そんな中、マナトはグリズリーとミトの戦いを目の当たりにして、唖然となっていた。
先に、長老とラクトの言っていた訓練というものがどのようなものかは分からない……が、どう考えても、自分がいくらこの村で訓練したとしても、ミトのような動きができるとは到底思えない。
なにか特別な力を使っているわけでもない。
動体視力も身体能力も、人間のそれではない。
もし自分なら、最初のグリズリーの前脚の一閃で、心臓まで貫かれて死んでしまっている。
「決着が着くぞ……!」
「!」
ラクトが言い、マナトは目線を戻した。
――グォォオオオ!!
グリズリーが咆哮とともに両前脚を広げた。
すばやくよけるミトの動きを封じて捕らえようと、自身の重さと大きさを利用してミトにのしかかりを仕掛ける。
――バサッッ!
一瞬、グリズリーに覆い被さられ、ミトが隠れてしまった。
「うわあぁ!ミトが喰われる!」
「いやぁぁあああ!!」
観衆から悲鳴が上がった、その時だった。
――グサッ。
グリズリーの頭から、ミトの持つダガーの剣先が現れた。
「やりやがった!」
ラクトが叫んだ。
「あぁ……もう、寿命が縮む戦いするわい……!」
長老が言った。
グリズリーの、顎から頭にかけて、ダガーの刃が貫かれていた。即死。悲鳴すらなかった。
――ドサ。
そして、ミトの横をずり落ちるように、グリズリーは倒れた。
「ミトよ!おめでとう!キャラバン最終試験、合格じゃ!」
長老が大声で言った。見ていた観衆も、一斉に歓声をあげた。