08_事故―1
祐斗二歳の春。
ある日、雫と祐斗を車に乗せて買い物に出かけた。幼児服はあっという間に小さくなる。
「俺が服も作れるといいんだけど。雫、お前練習しろよ」
「いやよ、なんで私が」
「あ、悪い。つい女らしいことを期待しちまった」
「蹴り入れるわよ」
そんな他愛のないお喋りを楽しんでいたが、後の車を気にしてバックミラーを覗いた時、「セナ、向こうの車!」と雫が叫んだ。目を向けた時には反対車線の車が真っ直ぐこっちに突っ込んできた。
「祐斗っ!」
二人は後部座席だ。自分の側がその車の正面に当たるようにハンドルを切り返す。あっという間の出来事だった。
気を失ったのは、一瞬のこと。足が不格好にねじれていることも意に介さず、セナは後ろを振り返った。
「おとうしゃーん! いたいー、おとうしゃーん! 」
激しい祐斗の泣き声で、祐斗は無事なのだと分かる。
「雫っ」
祐斗を庇った雫は気を失っていた。思わず自分の体から流れ出る血を口に含ませようとしたが、外から「救急車!」という声が飛び込んできた。
(チッ、なにも出来ねぇ)
人が覗き込む。瞬間的に遮断していた自分の痛みを解放した。
「あうぅっ!!!!」
これが一人だったら、夜中だったら、あっという間に治すのだが。真昼間、二人の人間を抱えている自分には、今は責任がある。重傷者らしく振舞うという責任が。
「あんた、大丈夫か!?」
外からドアを開けようにも、衝突してきた車の車体がめり込んでいる。
「連れ、後ろの…… 頼む、見てやってくれ」
「待ってろ!!」
親切な人たちが後部座席のドアを開けてくれた。
「救急車が来るまで動かさない方がいい!」
良識のある人なのだろう、他の人たちが手を出すのを止めてくれている。
「雫、女性は、無事、ですか?」
「見たところ出血はしてないよ! 子どもは無事だ、私が抱き上げてもいいか?」
「頼み、ます」
こんな風に人任せにするのはいやだ。けれど今はどうにもならない。歯がゆい気持ちで救急車の到着を待った。その間に体内を作り変える。DNAを祐斗と同じ人間のものに書き換え、鼓動を出し、血液を人間のものと変わらない成分に。少々体に無理は来るが、それを長時間保たなくてはならない。
「祐斗!」
泣き止まない息子が気にかかる。祐斗が精いっぱいセナの方へと手を伸ばしてくる。
「大丈夫だよ、少し擦り傷があるが大丈夫だ」
それはきっとチャイルドシートのせいだろう。
(くそっ、そばにいればすぐ治してやれるのに!)
この腕に抱きしめればきっと安心して泣き止むはずなのだ。今はケガの痛みもあるのだろう、声が枯れるほど泣いている。
(俺がもっと気をつけていれば)
あれこれと悔いが駆け巡る。雫の体も気になる。なんとか血を飲ませるタイミングを掴めるだろうか。
救急車が到着したのは、その四分後だった。
先にレッカー車が衝突してきた車を引き離した。その衝撃にセナの顔が歪む。こんな苦痛を味わったことが無い。体が全力で治癒しようとするのを必死に食い止める。今ここで治るわけには行かない。
歪んだドアを切り離し、レスキュー隊がセナの体をそっとストレッチャーに載せてくれた。
「後ろの、女性は、?」
「脳震盪を起こしてるんだと思いますが、詳しいことは病院で」
「こども、を」
「大丈夫、一緒に連れて行きますよ」
救急隊員は優しかった。だが話をするのが面倒で、セナは一時人間らしく気を失うことにした。
『気を失う』とは言っても、肉体と精神をある程度切り離しただけ。体のコントロールはしっかり手綱を引いている。そうしなければ治ってしまう。
救命士は意識が無い、と救急車のマイクで病院側とコンタクトを取っていた。
ストレッチャーが下ろされる。ガラガラと病院の通路を通って手術室へ。そこからの体験は正直言って反吐が出そうなものだった。
麻酔は効かないから痛覚だけを遮断。後はしっかりと目が覚めていた。医師がねじれた足をこねくり回す。血管を縫う。骨を整復する。裂けた筋肉を縫い、皮膚を縫う。
足が複雑骨折を起こしているとか。腱はどうやら辛うじて無事だとか。
「この患者はいい筋肉してるね」
「スポーツバカってヤツなんじゃないの?」
「そう言えばこの前のデートは上手くいったか?」
なんていう手術の合間の冗談ごとを聞きながら治療を受けるのは、どうしたって居心地が悪いし腹が立ってくる。
(麻酔、どれくらいで覚めた方がいいんだ?)
そんな切羽詰まったことを考えたのは手術の終盤になってからだ。ここからは自分自身の存続に関わって来る。最悪、全回復して病院を飛び出すしかない。雫は取り調べを受けるだろうが頭のいい子だ、『知らなかった』を通すだろう。祐斗はどうなるのか。きっとセンターに回されるに違いない。なんといっても名目上は『バンパイアの息子』だ。そうなったらしのび込んで取り返さなければ。そして父子で日本脱出だ。
「よし、終わった。一時間もすれば麻酔が覚めるだろうからそれから病室に運んで」
「はい」
(やった! 一時間だ)
貴重な情報を手に入れたセナは、輸血で受けた血液を有難く体に取り込んだ。食糧を得て傷を修復したい体を宥める。
(いつ頃まで入院するんだろう)
満腹になって間もない。そういう意味では心配がない。
(雫は? どうなったんだ?)
自分のようなひどい外傷を負ったわけじゃ無い、と自分に言い聞かせる。車がイカれたのは前部だけだ。後部座席にそれほどの影響があったとは思えない。それでもあの元気な憎まれ口を聞くまでは安心など出来ない。
祐斗は元気な声だった。あの『おとうしゃーん!』を思い出して、思わず微笑みそうになり、慌てて気を引き締めた。なにしろまだ麻酔中なのだから。
(かったるい)
もう起き上がりたい、歩いてここを出て行きたい。
(我慢、我慢)
そうこうしている内に50分ほど経った。
(いいや、早めに気がついても大丈夫だろう)
そう思い切りをつけて、身じろぎした。気が付いた看護師がそばに来る。
「瀬名さん、聞こえますか? 瀬名さん!」
ちょっと間を開けて、うっすらと目を開けた。
「ここ、は」
「病院ですよ。事故に遭って、今手術が終わったところです。分かりますか?」
「事故……息子は!? 一緒にいた女性は!?」
(ヤバっ、覚醒し過ぎたか?)
だがそうでもなかったらしい。看護師は普通に会話を続けた。
「息子さんは大丈夫ですよ。今同乗の女性のお父さんと仰る方が息子さんの世話をしています。さ、もう少し眠って。お部屋にお連れしますね」
仕方ないから目を閉じた。秀太朗が祐斗を引き取ってくれたことにほっとした。だが、雫の情報が手に入らなかった。
部屋は個室だった。そのことにほっとする。金がかかってもいいから個室が有難い。
あれこれと看護師が世話をしてくれている最中にノックがあった。
「朝比奈です。瀬名さんの様子を知りたくて」
「まだ麻酔が効いてますから。一度目を覚ましたので大丈夫だと思いますよ。待ってらしてもいいですが、次に目が覚めるまでだいぶかかるかと思います」
「この子は彼の息子なんです。目が覚めた時にいた方がいいと思いまして」
「構いませんよ、どうぞ」
またしばらく機器をカチャカチャやって、毛布を捲られ何かをされる。それが終わって、やっと看護師は出て行った。
ドアが閉まったとたんにセナはパチリと目を開けた。
「起きていると思ったんだ」
秀太朗が祐斗をセナに手渡す。
「おとうしゃん……」
祐斗が両手をセナの首に巻きつけ、ぎゅっと抱きついた。
「よしよし。ケガはどこだ?」
額と手の甲が擦り剝けたくらい。
「セナ、治さない方がいいよ。病院では目立つ。大したケガじゃないし」
セナは頷いた。危険はなるべく排除したい。
「で、君はどうなんだ?」
「その前に、雫はどうした?」
「雫は……」
秀太朗の言葉が淀む。
「どうしたんだよ!」
「まだ意識が戻らないんだ。祐斗を庇った時に脊髄に圧迫を受けたのかもしれないと……今、検査中だ」
「俺の」
「今はダメだ。なにも出来ないよ、セナ」
父親の沈痛な面持ちに罪悪感が芽生える。
「済まない、俺がついてながら」
「仕方ないさ。今はどうにもならないくらい分かっている。……君は?」
「俺はどうってこと無い。時期を見て修復する。な、雫は外傷があるのか?」
「外傷? 目立ったものは無いよ」
「小さな傷一つもか? ガーゼ貼ってるとか、見て分る場所とか」
「ああ、頬にちょっと。祐斗くらいの傷だ。多分チャイルドシートに押し付けられたんだ」
チッ! と舌打ちが出る。
「それがある間は俺の血を飲ませられない。一緒に治っちまうから。秀太朗、きっちり治してやる、済まない、待てるか?」
「その前に気が付くかもしれないし……ありがとう、セナ」
「礼なんて言うなよ! 祐斗にたいしたケガがないのは雫のお陰だ。こっちこそ有難いって思ってる」
「しっ、看護師が来る」
そう言ってセナは目を閉じた。今セナは聴覚を全開放している。こんなところにいてはそれだけが自分を救ってくれる。祐斗を抱いた秀太朗は椅子に座った。
「おとうしゃん」
「祐斗、おとうさんはねんねだよ。おっきするの待ってような」
「おとうしゃん!」
抱いてほしいのだ、祐斗は。分かってはいるがセナは目を閉じ続けた。ノックがして看護師が入って来る。
点滴を確認して脈を測る。
「どれくらいで目が覚めるでしょうか」
秀太朗が当たり障りのない質問をする。
「そうですね、人によっても違うんですが。一時間もしない内に目が覚めると思いますよ」
「そうですか。6号室の朝比奈雫なんですが、私の娘なんです」
「そうなんですか」
「ケガは無いんですが、意識が戻らなくて。なにか聞いてますか?」
「ごめんなさい、私には分からないんです。先生にお聞きになってくださいね」
「分かりました」
「大変ですね、お身内が二人も事故に遭われるなんて」
「ありがとうございます」
看護師が出て行き、セナは目を開けた。
「秀太朗、雫の所にいていいよ。心配だろ? こっちは大丈夫だから。ただ祐斗を頼む」
「もちろんだよ。また後で来るから」
秀太朗が出て行き、セナはどうしたものかと考えを巡らせた。
「そう言えば」
さっきも看護師は毛布を捲っていたし、自分も肝心な部分に違和感を感じる。毛布を捲って見て牙を剥いて唸った。
「なんだ、これ!」
イチモツに差し込まれた管を睨みつける。引っ張って外そうとしてなんとか思い留まった。
「くそっ! 二度とケガなんかしねぇぞ!」
こうなったらもう目を覚まして看護師が来た時に外してもらうしかない。
(後一時間)
ナースコールを押すにも早すぎる。また体内時計を50分セットする。時間が来たら看護師を呼ばなければ。
50分が待てず、結局次に看護師が入ってきた時に目を覚ました。時間にして25分。
「あら、目が覚めたんですね?」
「はい……手術は上手くいったんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
あちこちとチェックしながらにこやかに笑顔で返してくる。セナの見た目はすごくいい。担当の看護師になったことが嬉しいのだろう。
「なにか欲しいものありますか?」
「水が飲みたいんですけど」
「ちょっと待っててくださいね」
吸い飲みを用意していてくれたらしい。すぐに水を飲ませてくれた。
「あの」
「はい?」
「これ」
毛布を捲って見せる。カテーテルだ。
「いつ外れます?」
「ギプスをつけたら外せますよ」
「じゃ、すぐにつけてください」
「まだ手術後ですから。腫れが引いたらギプスをつけられるので、それまで辛抱なさっててください」
思いっきりふくれっ面をする。看護師は吹き出した。
「どれくらいで腫れは引きますか?」
「人によりますから」
「早ければ?」
「そうですね……明日は無理かも……」
「じゃ、明後日?」
「経過が良ければ。焦らない方がいいですよ、大事な体のことなので」
「……はい」
(明後日……くそ、明後日か……)
そこまで腫れたままにしておかなくてはならないのが苦痛だ。
看護師が出ていくのを待って、いったん足を修復する。いくらセナでも疲れてしまう。胡坐をかいてベッドに座った。
その夜のセナは大忙しだった。看護師の巡回の合間を縫って、何回もカルテ庫に忍び込む。自分のカルテとレントゲン撮影したものを照らし合わせ、同じようなケースを他に探した。足の骨折者は意外と多く、その治癒過程もレントゲンを見れば分かって来る。セナは調べ物は早いし熱心だ。コツを掴むとだいたいの様子が分かった。
(この段階ではこうか……)
レントゲンで骨の付き具合を確認する。
(だとしたら明日の夕方腫れが引けば)
明後日の昼までにはギプスが巻かれるだろう。その前にレントゲンを撮られるが、その段階ではあまり骨を弄らない方が良さそうだ。
(ギプスを巻いたら退院が近いな)
後は通院での経過観察になる。
ついでに雫のカルテも調べた。
(要観察……明日も検査か。原因は不明……多分脊髄を傷めたんだ)
傷が治り次第血を飲ませれば状態は好転する。
(退院前には飲ませなきゃ)
ちょっと気持ちが焦る。一通り頭に入って、ようやくベッドでゆっくりした。今日はちょっと疲れている。一時間弱、眠った。
食事はまあまあの味だった。秀太朗は10時前には来てくれた。祐斗は長女の栞に預けてきたと言う。
「雫はまだ目を開けないんだ」
「カルテを見たよ」
「どうやって!?」
「カルテ庫に入った。俺はギプスを巻いたら退院になる。出来ればその前に血を飲ませたいんだけど、問題は雫の傷なんだよな」
「さっき確認したけどまだ治ってなかった……」
小さな傷のせいで治すことが出来ない…… 秀太朗はさぞ歯がゆいだろう。
「傷のことまではカルテに書いてないんだよ。悪いけど秀太朗に毎日確認してもらうしかないんだ」
「悪くなんか無いよ! 娘のことなんだから」
「店は? 閉めっ放し?」
「いや、栞が見てくれてる」
「悪いな、祐斗までいるのに」
「この状況じゃ仕方ない」
「それで、もう一つ悪いこと続きなんだけど」
「なんだ?」
これは秀太朗に頼むしかない。
「通院になると思う。だからその日だけは付き合ってもらうしかないんだ、車運転できないし」
秀太朗は頷いた。僅かなことでバレるわけにはいかない。
朝比奈家との関係は、対外的には栞とセナが子どもを通しての『ママ友』ということになっている。母親のいない祐斗に同情して深い付き合いになったと。警察にもそう話してある。だから、セナの買い物に雫が同行した。
「とにかく雫の傷次第だ。雫の部屋がナースステーションに近いから確かめに行けなくてさ。秀太朗、後で携帯で写真撮って来てくれないか?」
そういう方法があったと、秀太朗の顔が目に見えて明るくなった。
「今撮って来るよ!」
秀太朗の出ていく姿を見て、この家族だけは守ってやりたいと強く思う。
そう時間もかからず秀太朗は戻ってきた。
「ああ、場所が悪いよな、目の下だから目立つんだ」
本当に大したケガではない。だがこれが今の段階で全回復するわけにはいかないのだ。
「原因不明だから急に目を覚ましたって問題は無いと思う。そんな患者はいるみたいだし。秀太朗、もうしばらくの我慢だ」
「分かった」
治らないことを心配などしていない。秀太朗も今は堪えていた。
次の日。セナの心はせめぎ合っていた。今日の夕方腫れを引かせれば遅くても明日にはギプスを巻いてもらえる。つまりカテーテルとおさらばだ。
昨夜、何度もカルテ庫に侵入するために、その都度カテーテルを外しては嵌めた。巡回の看護師は幾度となく尿の袋の溜まり具合を測っていく。その時に外れていてはバレてしまうから我慢して嵌めたのだ。自分のイチモツに管を差し込む感触は、感覚を遮断していても手に伝わってきて妙に生々しく拒絶反応を生む。だからさっさと外してしまいたい。
けれどそうなると退院も早まるだろう。雫の治癒を目的とするならまだ耐えなければならない。
(くそっ!)
繰り返し心に浮かんでくる罵倒。誰に対して唸ればいいのか分からない。散々迷って、セナは今日はまだ腫れたままにしておくことに決めた。
秀太朗は昨日と同じ、10時頃にやってきた。携帯で撮った画像を見せる。
「だいぶ赤みが引いたな」
セナが拡大して傷を調べる。
「明日には目立たなくなってるだろうか」
事故が起きて今日は二日目。もう少し時間を置いた方がいいのは分かっている。
(くそっ! 明日も我慢か)
それは秀太朗には言わない。回復を待ちわびている父親に、自分の都合を押し付けるわけにはいかない。
「退院をなんとか伸ばすから。もう少し待っててくれ」
「それなんだが、セナの退院のことを聞いてきたよ」
秀太朗もそれが気になっている。
「なんて言ってた?」
「ギプスを巻いてからある程度のリハビリをするらしい。その後で退院だそうだ。だからまだ時間があるんだ。上手くいくんじゃないかと思うよ」
それを聞いてセナは喜んだ。前途が明るくなったような気さえする。
「ギプス巻いてすぐに退院じゃないんだな?」
「ちゃんと杖で歩けるようになってかららしいよ」
(やった! 今日腫れは引かせちまおう!)
リハビリで時間を稼げばいいのだ。セナは胸をなでおろした。
「祐斗はどうしてる?」
もう一つの心に重くのしかかっていることを聞く。
「セナを探してるのが可哀そうで……今日、連れて来ようかと迷ったんだが」
セナも会いたい。会えないことから目を背けてはいたが、息子と引き離されることがこんなに堪えるとは思ってもいなかった。
「元気なら良かった……事故の後遺症は出てないってことだよな?」
「大丈夫だと思う。……明日連れて来るよ。念のために血を飲ませた方が安心だろう?」
「助かるよ! そうしてほしい、俺も抱っこしたいし」
「分かった。……どうする? 今日の午後にでも連れて来ようか?」
セナは首を横に振った。秀太朗だって行ったり来たりと大変だ。
「俺なら大丈夫だから」
そうは言われてもこれ以上甘えたくない。
「明日、待ってるよ。預けっぱなしで悪いな」
「栞は喜んで見てるよ。だから安心してくれ」
明日になれば会えるし血も飲ませられるのだと、自分の心を慰めた。
本当はこんなに人間に入れ込んではいけない。どうしたって自分は彼らより長生きをする。彼らを見送って辛い思いをするのは自分なのだ。けれど子育ては麻薬と同じ。この喜びを味わってしまったらもう引き返せない…… セナは切なくなる思いを胸に深くしまった。
(今は雫の回復のことだけ考えよう。僅かな間でも彼らとの時間を大切にしよう)
そう思うのだった。