こちらは拾得物処理係~シンデレラがいっぱい?
こちらは拾得物処理係。夢の王宮勤め! ……と思ったのにまさかこんな倉庫の暗い部署に配属とは思わなかった。
そして、童話(今更?年齢を考えてよね!)の影響でしょうか?ハイヒールを片方置いていく人が多数いて困る。
最初は数名だった。今では膨大な数。それを管理しないといけないのがこの部署。……他の落とし物だってあるのに。
最初の数個は本当にわからなかった。本当に‘所有者不明’として倉庫にある。今、どーんとあるのは、堂々とヒールに名前と住所が書いてある。
事務処理をする分には助かる。
書いてあるだけではない。たまに焼き印?と思しきものまである。
これらはもちろん王宮で舞踏会が開かれるといっきに増える。
しかもご丁寧に、夜中の12時近くになるとご令嬢が一斉にハイヒールを片方落として(置いて)帰る。という現象が起こっている。非常に迷惑な話だ。
男性側からすると、「え?今ダンスのパートナーしてるの俺なんだけど」って事もあるだろう。
片方、ハイヒールって歩きにくくないのだろうか?それとも落とす(置いてく)ハイヒールをどこかに隠し持っているのだろうか?女性は不思議だ。
「今日もやってきたよ!みんなの憧れ、ロバート王子だよ!」
「殿下……今日もいらっしゃいましたか……。このハイヒールの山はどうしましょう?」
「え?君達で処理して?そのための拾得物処理係なんだから」
「最近は落とし物に名前と住所が書いてあるんですけど、流行ってるんですか?」
「そんな流行はないよ?処理しやすくていいでしょ?」
「とは言っても、この量はなんですか?残業手当は出ますよね?」
私は殿下に本当に山積みになっているハイヒールを見せた。
「大丈夫、大丈夫。しばらく王宮で舞踏会はないから、拾得物処理係に山のようにハイヒールは届けられないよ」
「えーと、住所とかで爵位がわかるのですが、拾得物は爵位が高い順に変換した方がいいでしょうか?」
「早いもの順じゃない?同着なら爵位が高いほうかな?」
唸りながらも着々と私は事務作業のように、これは誰のものとかを仕分けていった。
はて?本人確認はどうすればいいだろう?
いかにも高そうなハイヒールを落として(置いて)る令嬢がいるけど、本人じゃなくて使用人が受け取りとかの処理をしそうだなぁ。
「殿下。本人確認ができないと拾得物を変換ができません。本当に本人なのか?本人を騙っているかもしれないし、使用人が勝手に売るかもしれません」
「そうだなあ。各自本人確認ができたほうが都合がいい。そのような法案を急ぎ陛下に提案しよう」
「おねがいします。拾得物処理係の仕事も滞りますので」
ハイヒールの所有者の名前・住所・爵位は全て書き終えた。
「はぁ、やっと人生明るくなった感じがするー」
「甘いな、新人。来月、また舞踏会が王宮で開かれる予定だぞ」
「令嬢も飽きもしないで続きますよね」
甘かった……。
令嬢は飽きたようだった。
翌月の舞踏会からいろんなものが拾得物処理係に届けられた。
ハイヒールなんて古い!と言わんばかしに、イヤリング・時計・モノクルなど。変わったところでは、下着なんてものもあった。
その全てに氏名・住所が書いてあるのだ。ドン引きである。
下着はさっさと本人に返したい。臭そうだ。袋に入れておこう。
イヤリングとか時計とかなんていかにも高級なんだけどなぁ。モノクルを落とした(置いた)人は見えてるんだろうか?伊達メガネみたいなものなんだろうか?
金属に氏名・住所って刻印だけど、いいのかなぁ?
もちろん拾得物処理係として処理をしますけど。
私がそうこうしているうちに法案が通ったようで、本人確認ができるようにする金属プレートを作るそうだ。
ま、平民に半分片足突っ込んでる私には関係ないかな?
貴族限定。『成人をした貴族はみんなそのプレートで本人確認をする事とする。』
らしい。
これで拾得物処理係の仕事もしやすくなるもんだ。拾得物の返却ができないから、倉庫が拾得物であふれてきている。
これからは、拾得物の返却も仕事になる。
あぁ、拾得物……返しにこっちから行かないといけないんだな。
拾得物も時間がたてば国の物。とかそういう法律はないんだろうか?ハイヒールを再利用は難しいけど。
イヤリングとか時計なら質屋に売るとかできそう。
どっちにしろ、今日も拾得物の氏名・住所を文章処理していこう。
数週間で貴族に本人確認のプレートがいきわたったようだ。
「おい、これからまた忙しくなるぞ。拾得物の返却に貴族の屋敷を廻るんだ。あー、えーと、この部署の特別プレートがある。それ持っていくぞ」
「持って行かないとどうなるんですか?」
「お貴族様が「何で返しに来たの?」と怒る」
「はぁ、なるほど。では、行きますか」
私はハイヒールの山を片付けた倉庫の棚を見てウンザリした。
まずは公爵家の令嬢から。
「拾得物処理係です。お嬢様の忘れ物を届けに来ました」
例にも漏れず、ハイヒール片割れ。宝石がついてたり、豪華絢爛である。
「本人確認が必要なんですよ。これはジェニファー様の物でしょうか?名前が書いてあります。ジェニファー様はご在宅ですか?」
「代わりに使用人の私が受け取って――」
「そういうのダメなんですよー。そのために本人確認のプレートを作ったわけですし」
「では、また後日改めてということで」
非常に面倒だ。
「王宮まで取りには来てもらえないのでしょうか?」
「ハイヒール取りに来ると思うか?」
はい、思いません。それでも、忘れ物とか落とし物は本人が取りに来る以外はこちらで処理できるようになればいいなぁ。と思ってしまう。
「そんな時に、みんなが大好きロバート王子だよ」
「別に呼んでないんですけどね。拾得物について、忘れたなら期間を設けてそれ以降は拾得物処理係の処理に任せるという事にはできませんか?いちいち貴族のお屋敷を訪ね歩くのはちょっと……。居留守するんですよ?」
「ふむ。それも陛下に奏上しよう」
「プレートは拾得物返却の際にきっちりと利用します。本当に大切なものなら返して欲しいでしょうに」
王子を便利屋のように使っている気がする……。便利なんだもん。拾得物を期間限定にすれば、さっぱりするし。売れるものは売ってしまえばいい。何か知らんが、無駄にゴージャスな片方だけのハイヒール。――両方履いたら重いだろう。
宝石だけでも売れるんだけどなぁ。貴金属は売れるよなぁ。国庫も潤う。倉庫も隙間ができる。ふつうの拾得物だけならそんなに量がないだろう?
そんなこんなしているうちにまた法案が通ったようだ。『拾得物返却は3か月以内。以降は国の管轄になる』 だそうだ。
国の管轄=拾得物処理係の管轄という事だ。3か月の我慢ですな。
「はぁ、ちょっとは楽になった」
「それは良かった」
んあ?目の前に殿下が!?
「この度は法案を通していただきありがとうございました」
「いやぁ、俺もさ。2つ法案を陛下に奏上したから俺の株も上昇したんだよ。なーにいいってことよ」
そっか、そう言えば王子は何人かいるから、陛下に法案奏上って結構王太子への道になるんだ。殿下も苦労人なんだな、ふざけ半分でここに来るんだと思ってた。
「ここに来るのは面白いからだよ」
??
殿下は心が読めるの?
「えーと、本人確認のプレートの法案と今回の拾得物の期限の法案の2つですね?拾得物処理係としては仕事がすごくやりやすくなりました。ありがとうございます!陛下にもお伝えできれば……」
「あー、言っておくよ」
ノリが軽い……。
3か月後
「ハイヒールの処理ですね」
ハイヒールはそれ自体がリサイクルできなくて嫌だなあ。しかも片方だし。全く使えない……。
公爵家のものですけど、3か月過ぎてますからね。思う存分、ハイヒールをゴージャスにしている宝石などを取り去りましょう。
なんということでしょう?あんなに重かったハイヒールが、片手でも楽々。というか、重すぎだった。
このように次々と宝飾品などを取り去っていった。
「結構高位の貴族令嬢って足が大きいんですね?」
「それはここだけの話にしておけよ、いきなり護衛のやつに切り捨てられる」
「あっ、小さいハイヒールがありました!えーと、あれ?これは所有者不明ですね」
「宝石とかついてないし、低位の貴族令嬢だろう?」
「そうですね、きっと」
実は私の物です。私は実は低位の貴族の妾の子です。やってみたかったので、やってみた。そんなハイヒールなんぞ捨ててしまえ!
「ハイヒールに使い道があればなぁ……」
「ないですよ!」
速く捨ててしまおう。さぁ、速く!はやく!ハヤク!
「みんな大好き!ロバート王子だよ!」
うわっ呼んでねー。空気読んでよ!
「小さいハイヒールねぇ。面白いから所有者探してみよう?」
マジかよ?
「次の王宮主催の舞踏会参加者の女性に履いてもらおう」
よしっ、次の王宮主催の舞踏会には参加しない。
―――つもりだったのに、家から出席するように命令された。‘王宮主催’ってのに参加しないのは貴族として面目が……とかあるらしい。
うちは、というか私はドレスとか完全に自費だし、嫌なんだけど命令だからなぁ。家からの。ドレスはどうやって調達しようか?過去のものをリメイクしようか?仕事もしてだから睡眠時間が削られるなぁ。
ハイヒールとかは見ないよね?というか、私みたいな低位貴族は眼中にないよね?そう思ってなんとか生き延びよう。貴族社会。私はヒエラルキーの超底辺。なんなら底辺にめり込む。
はぁ、相変わらず王宮の舞踏会は煌めいてるなぁ。ハヤクカエリタイ。
あ、みんなが大好きロバート王子発見。私はそんな好きじゃないんだけど……。
煌めいてる……。
帰りたいなぁ。
なんか近づいてくる。獲物を狙うように。
「ロバート王子だよ!」
わかってるよ。
「何の用でしょうか?私のような最底辺の貴族に」
「んー。だって、君でしょ?名のないハイヒール落とした(置いた)の」
バレてる。なんでなんでなんでなんでーーーー!!!!!!
「だって足の小ささでバレるよ。君くらいだよ。あれに足入るの」
「拾得物処理係で処分したはずですが?」
「じゃーん!なんと、持ってまーす!!王子権限で捨てる前に貰っちゃった」
変態……。
「今、変態とか思ったでしょ?ひどいなぁ、一途なのに」
どう考えても変態でしょ?
「君がいるのに気づいてさぁ。君がいるから拾得物処理係によく顔出すようになってさ」
ああ、よく来たな。便利屋のようだった……。
「おかげで重要法案が2つも陛下に奏上できて、俺の評価は爆上がり!」
「それはよかったですね」
会場の令嬢からの視線が痛いです。話は長いのか?
「それで、俺は貴族なら誰でも婚姻可能ってわけ」
はいそうですか。以上ですね。私はカエリタイ。
「なので、このハイヒールも履ける貴女。僕と結婚してください」
はいーーーー?そこは拾得物処理係の面々とか皆知ってるの?
「わかっていると思いますが、私は貴族の最底辺です」
「はい」
「これから妃教育をするんですか?」
「はい」
「って、王太子決定何ですか?」
「いやぁ、重要法案を短期間で2つ通した手腕が買われて、王太子決定しました!パチパチパチパチ」
「それって元を正せば私の手柄ですよね?」
「はい」
「……これから妃教育かぁ」
「大丈夫じゃない?働けてるし」
「外交とか他国語とか」
「がんばー(棒)」
「すごい棒読み。やるしかないですけど。私に拒否権ないですし。あぁ、そうだ!私は王妃の座でふんぞり返ってるの嫌ですよ?働かせてくださいね?」
「ほう、初・兼業だねぇ。それも国のトップがやると効果的。きっと民衆にも広がる事だろう。あ、跡継ぎはよろしく~☆」
もうどうにでもなれ。
読了ありがとうございます。
私は割と好きな作品です。評価をいただきたく思います。方法は感想など問いませんので、よろしくお願いします!!