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ダールを傷つける者は誰であっても許せない

いつも評価や感想、ありがとうございます。励みになっております。

感想の方、返せておらず申し訳ありません。少しずつお返事していきたいと思っております。

 



 さて昼食を、ということでダールに案内を頼んだところ、まず案内されたのは非常にお洒落な軽食店であった。元の世界でいうところのメディア映えしそうなスイーツなどが提供されているカフェである。デートや女子会などで使われそうな。

 もしや昨夜と今朝のケーキ達によって甘党に目覚めたのだろうかとダールの甘党男子説に若干ニマニマした菫であったが、いざ入ろうとするとどうやら奴隷同伴では入れない敷居高めの店であったようで受付の店員に止められてしまった。確かに、入り口から店内を見回してみてもダールのように首輪をした人物は見当たらない――どころか、カップル以外の男性すら見受けられない。

 折角ダールが選んでくれたお店だったのに、と残念に思いはしたものの、ダールと一緒に食事が出来ないのであれば入っても仕方がない。菫が対応してくれた店員に謝罪を伝えて店を後にすると、ダールは店が気に入らなかったかと不安げな表情で菫を見つめていた。その顔も可愛いな、と思ったのは勿論ダールには秘密である。


「とても素敵そうなお店だったけど、私はダールと一緒にご飯が食べたかったんだ。だから、私たちが一緒に食べられるお店を知ってたら教えてもらえると嬉しい」

「……!そ、うだったんですね……」


 絞り出すような返事。その声色は、驚いたような、それでいて少し嬉しさが滲み出たような印象があった。

 どうやらダールは菫の――正しく言えば一般的な女性の――好みそうな店を案内しただけであって、自分が入店して一緒に食事をとろうなどとは考えてもいなかったらしい。奴隷としての自意識が根深過ぎる、とは思うが、ダールと菫が出会ったのはつい昨日のことである。早々変えられるものではないのは重々承知だ。少しずつ菫の考え方を言動などを通して刷り込んでいくしかない。


「申し訳ありません。俺は冒険者時代にこの街に来たことはあるのですが、奴隷になってからは初めてで……。奴隷が一緒に入れる店というのはあまり分からないんです。そもそも、奴隷はほとんど店で食事などしないので」

「え、じゃあ奴隷の人はご飯とかどうするの?主人が準備して家とか宿で食べるってこと?」

「……ええと、そう、ですね。屋敷を持っているような主人であれば、恐らくはそのような形に…なる、かと…」


 何故か言いにくそうにするダールに菫は内心首を傾げたが、言いにくそうにするということはダールにとって触れられたくないことが何かあるということなのだろう。毒草がどうとかいう話もちらっとあったし、奴隷の食事情には菫の分からない何かがあるに違いない。まだ距離の縮まり切れていないこの状態で深入りするのは悪手だろうと考え、菫はそれ以上聞かないことにした。


「じゃあ、私たちも何か買って宿に持って帰って食べようか。今夜分と明日の朝分も一人分しか用意してもらえなさそうだし、ちょっと多めに買っていこう」

「はい。…俺の所為で、好きな店で食事をすることも出来ず申し訳ありません」

「もう!さっきも言ったけど、私はダールと一緒に食べることが重要なんだよ。場所はどこだって大丈夫だから」


 そう、菫にとっては(ダールの素晴らし過ぎる造形美を眺めながら)ダールと食事をすることが最優先事項なのである。どれだけ映える店も食事も、目の前のイケメンすぎる男と比べてしまえば月とすっぽん、雲泥の差である。ダールが嬉しそうに食べ物を頬張る姿に勝るものなどない。少なくとも菫にとっては、だが。


「…では、冒険者時代に俺の好きだった店に案内しますね。少し味付けは濃いですが、パン等と食べるとちょうど良いですし、酒などにも合うと思います」

「良いね。ダールはお酒飲むタイプなの?」

「いえ。酒場などにはあまり近寄らないようにしていましたし、そもそも嗜好品なので酒を買うよりは食べ物を買うことを優先させていました」

「そうなんだ。やっぱり生活するのって大変だよね」


 冒険者という仕事が明確に分かっているわけではないが、やはり人が一人生きていくためには大変なことも多かっただろう。甘いものもほとんど食べたことがなかったと言っていたし、生活に余裕がなかったのかもしれない。これからダールの冒険者活動からの収入に頼っていく形になってしまうが、果たして大丈夫だろうか。一人であったときならばまだしも二人分となると、単純に二倍のお金がかかる。確かに生活をしなくてはならないけれど、ダールに何かあったら(いろいろな意味で)困るので危険な仕事などは極力受けてもらいたくない。そうなるようなら菫だって働く心算である。


「ダールに無理ばっかりさせないようにするからね!」

「?…あ、ありがとうございます…?」


 菫の一方的な宣言に、ダールは不思議そうに頷いた。








 ◇









 ダールのお勧めする店で食料を多めに調達し、宿に戻る。一人分の食事であればおおよそ五百エンペルで購入できるので、今日のお昼二人分で千エンペル、今日の夜と朝でそれぞれ(一人分は宿屋から出るため)一人分で合計千エンペル、プラスで串焼き等の少しつまめるものを五百エンペル分購入し、全部で二千五百エンペルだった。昨日のように洋菓子も、と頭を過ぎりはしたが、ダールが連日でなんてとんでもないと首を勢い良く横に振っていたのでやめておくことにした。

 代わりと言ってはなんだが、この世界のお酒事情も気になったので、この街で一般的に良く飲まれるというお酒を一瓶購入した。小さめの瓶で千五百エンペルだったので、お酒もピンキリだろうとは思うが菫の想像する範囲を大きく超えるような金額ではなくて安心である。このお酒は水などで割る人もいるにはいるが、基本的にはロックで飲むようなものらしい。酒屋の主人の話を聞いていると、どうやらこの辺りの名産の果物を使った果実酒のようである。色は瓶越しに見る限り淡いオレンジ色をしている。


「どんな味がするんだろうね」

「冒険者たちがこの街の酒は美味いと話していたのを聞いたことがあります」

「へえ、そうなんだ。余計に楽しみ!」


 ダールも飲んだことがないと言うので、宿屋の部屋で一緒に飲む心算だ。決してダールの酔った姿が見られるかも、なんて思ったわけではない。断じて。――いや、嘘である。少しは思った。少しどころか、なんなら酔っ払って甘えてきてくれたりしないかなあ等と思ったし、泣き上戸でも笑い上戸でも可愛いだろうなと想像する等もした。酔って暴れるタイプだったらちょっと厄介だと思ったけれども、多少の暴れ方であればあの顔の良さで翌日に一言謝られでもすれば一瞬で許してしまう自信があった。



 宿に戻ると、浮かない顔をしたダールが買って来たばかりの食べ物たちを見つめている。これから食事をしようというタイミングには相応しくない表情に、つい菫は声を掛けた。


「どうかした?もしかして、私に合わせて苦手なもの買ったりとか…」

「あ、いえ。そうではないんです。ただ……俺が買っていたときより、四分の一程の値段でしたので…少し複雑な気分で」

「え?そんなに物価が下がったってこと?」

「――いえ。ただ、相手が俺だから、ということでしょうね」


 ダールの言っている意味が良く分からずに首を傾げると、苦笑交じりのダールが説明してくれた。

 なんでも、(この世界からすると)醜いダールは、街で食べ物を買うにも苦労するらしい。客が寄りたがらなくなるからと嫌そうな目で見られ、購入を拒否されることも少なくなかったのだという。先程言っていた酒場に近寄らなかったというのも、単にお酒が飲めないからとかそういう場が苦手だからとかそういうことではなく、店側からの拒否からくるものであったのだとか。

 そして、今日案内してくれたいくつかの店は、そんな中でも比較的親切で(とダールは思っていて)、まともに食事を売ってくれる店だったらしいのだが――ただ親切であったわけではなく、他の客の四倍で売り付けられていたのだ。きっと、足元を見られていたのだろう。


「…そんなの…!」


 にこにことした表情で売ってくれていた、優しそうに見えていた店の人達の顔が霞んでいく。ダールが紹介してくれるだけあって良い雰囲気のお店ばっかりだなあとか思いながら買い物していた自分を張っ倒したい。ダールを傷つける者は誰であっても許せない。返品ついでに文句でも言いに行ってやろうか、と腕をぶんぶん回し始めた菫をダールが止める。


「良いんです、スミレ様。周りが売ってくれなかった中、俺に売ってくれていたのは事実ですし」

「でも…」

「それより、思ったよりも食費が安く済みそうなので、俺の収入だけでもある程度生活に問題がなさそうだと分かって安心しました。勿論贅沢を、となったら難しいと思いますが…」


 菫を元気づけるようにそう言うダールに泣きそうになった菫であったが、ダールの折角の気持ちを汲み取ってにかっと笑いつつ「そっか!それなら良かった」と返してソファに座る。続けてわざと空けておいた隣席をぽんぽんと叩くと、ダールはおずおずと菫の指定した位置に座った。昨夜は叩いただけでは来てくれず、菫から座るように声を掛けなくてはならなかった為それを思えばすごい進歩だ。是非このまま菫という存在に慣れていってほしい。

 とはいえ、昨夜と今朝で同様の座り位置で食事をしていても、まだダールはこの距離感に慣れないらしい。かくいう菫も好み過ぎる男とこのような肩が触れ合う程の至近距離で食事をするというのは緊張するのだが、それよりも役得という気持ちが勝っている。だって、ムチムチの筋肉が二の腕に時折触れるのである。ついでに、隣のダールから男性らしい野性的かつどこか安心する香りが漂ってくる。同じ石鹸で洗った筈なのにどうしてこんなに良い香りがするのか誰か研究・発表してほしい。そしてどうか自分から発する香りが無臭に近い物でありますように。

 ばらばらと色々なことに思考を散らしていた菫は、ダールの「スミレ様?」という声掛けで漸く現実へと戻る。


「ごめん、ぼーっとしてたみたい」

「大丈夫ですか?お疲れでしたら、休んでからにした方が…」

「大丈夫!むしろお腹空いてきたし、ダールのお勧め楽しみだな」

「はい!まずはこれなのですが……」


 一番傷ついているのはダールなのに、菫を第一に気遣ってくれるその姿に菫は益々ダールへの好意を深めた。何が何でも幸せにする!という決意を固めつつ、菫は食事に手を伸ばすのだった。







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