March 22 AM08;32
事務所に帰ると不機嫌そうな面をした刹那が明るく(決してそうではないけども)出迎えてくれた。
残念ながらその明るい笑顔が悪意無き笑顔だったら良かったんだけど完全に悪意しか無い笑顔だった、感覚的に言えば心臓を鷲掴みにされたような感じだぜっ☆
……コホン。
「刹那ちゃーん、仕事だ――」
「黙れ、今私は極限に眠い、仕事は全て最初から最後までお前に任せて私は正々堂々寝る」
「ぇー……昨日散々寝たんじゃないのー? つか俺はアレですよ? ガチで寝不足でテレッテーですよ?」
「私を説教するつもりかどうかは知らないがその前にお前自身のその支離滅裂すぎる言語何とかしたらどうだ? 何なら私が教えてあげましょうか?」
「最後の時だけ女の子っぽい喋り方になってるんじゃないですぞっ!!」
「黙れ、死ね」
「それ女の子が言う言葉じゃないよねっ!?」
「黙れ、死ね」
「いや二回連続でそれは無いよね!? ライトノベルでも二回連続で死ねって言われる主人公って多分現在進行形で俺ぐらいだと思うよ?」
「何を勘違いしている? これライトノベルじゃなくてネットノベルだ」
「知らないよ、って言うかむしろどっちでもいいっ!!」
ダメだ、これはマズイ、半永久的に罵詈荘厳の会話が続きそうな気がする、これじゃダメだ、前途多難だ無限ループだ無限1UPだ!!
「あ、あのー……」
そこで飛鳥が口を開いた。
何と言うか凄く申し訳無さそうな表情だった、申し訳ないのは普通にこっちなのに。
◆◇◆◇
と、色々あって結局刹那と一緒に(テラ不機嫌だけど)依頼者の飛鳥の話を聞く事になった。隣に座っている刹那の殺気が超怖い。
「それで、何から説明してくれる?」
俺は膝の上で手を組んで笑顔で言った。
「え?」
「いや、物には順序ってものがあるじゃん、いったいどこら辺から……例えばそう、君と九条瀬名は幼馴染であり親友だった……そうだろ?」
飛鳥が頷く。
「だから彼について教えれる事は全て教えて欲しいんだよ、住所とか年齢とか電話番号とかね、あ、悪用はしないからね俺はプライドと誇りだけは超一流だから」
隣に座る刹那の「嘘つけ」と言った声を完全に無視して俺は続けていく。
「後他にもそうだな、友人関係とかそう言うのも教えて欲しい、その方が解りやすいしね」
俺のふとした言葉に飛鳥はビクリと肩を震わせる。
瞳を細めて慎重に言葉を紡いでいく。
「言いたくないのかい?」
飛鳥は俯いたまま答えない。
「それならそれで別に良いさ、こっちはこっちで適当に調べておくから、でも結構情報って重要だよ?」
俺の言葉に飛鳥が顔を上げる、俺は『おそらく』優しい笑みで続ける。
「生憎だけど証拠も情報もないと大変なんだ、警察だって指紋も凶器も絞殺の後も傷一つ無く殺された遺体を見たら少しお手上げなんだよ、だがまだ諦めては居ない、まだ諦めては、一応ね」
『一応』の部分を強調させて俺は目を瞑り続ける。
「で、最終的には不完全なまま事件当日から時が過ぎていって最終的には時効になるんだよ、最近だと時効日時も若干減ったみたいだからこの事件も結構早めに暗闇の中に放り込まれて二度と戻ってこない」
目を開けた時飛鳥は青ざめた顔のままだった。
何となく予想はしていたけどここまでリアクションがでかいとちょっとショックだ。
「その……私が持っている情報を話せば……何とかなるんですか?」
俺は少し戸惑った。
いくら情報があったとしても必ず解決する訳ではない、情報が沢山あっても解決しなかった事件は腐るほどある。
それは、と俺が告げようとした時、横に座っていた刹那が黒ニーソを履いた足を組み胸の前で腕を組み、言った。
「生憎だが、出来るから私たちは事務所をやっている、どうする? このまま帰るか?」
最強装備を着た女の子が言う台詞ではない気がする、まぁ逆にこれで彼女が話してくれる気になるなら別にいいんだけど。
ふと片目を閉じて飛鳥を見る、飛鳥は震える唇で。
「わかりました……話します」
そう、言った。
色々あったけど結果オーライ。