March 22 AM08;20
事務所から事件現場の公園までは然程遠くは無かった、交差点を進んで直線に進んで更に曲がると着いてしまう、時間的には約五分弱。
公園の近くまで行くと人だかりが出来ていた、流石に人が死んだとなれば当たり前の事なのだが。
「これは面倒くさそうだなぁー……」
ぼやいて遠くの方のベンチに座る。
俺は遺体がどうとかと言うより事件現場がどんな感じだったかと言う事を知りたいだけなので後から調べてもそこまで関係無かったりする。
(こんな事なら家に帰ってニュースでも見てたら良かったかな、何か朝のニュースにロックバンドのレイトンが出演するらしいし、地味にファン何だよね……)
溜息をついて足を組んで木製のベンチに深く座り込む。
春直前の今宵だがやはり寒い、コートを着て置いてよかったかもしれない。
(年中コート着てる奴が言う台詞じゃないけどね)
思わず自重してコートの内ポケットから財布を取り出して中身を確認する、残金二百二十五円。
そういえばまだ刹那から給料を貰っていないような気がする。
「今月は事件をニ、三件解決したから給料ぐらいは支払われると思うんだけどなー……もしかして刹那またウィジャ盤とか棺とか危ないオカルトグッズ買ったのかな、マズイなー、流石に今月給料が無いと死にそうなんだけど」
一人でボソボソと呟き頭を掻き毟る、今月及び来月の生活を給料無しで演算した結果、思いの他早めに餓死する事が決定した。さよなら俺の青春。
と、くだらない考えを頭の中で繰り広げていると俺の影が誰かと交差した。
ふと横を見る。
そこにはオレンジ色の髪をした少女が立っていた、春休みなのに学生服を着ているのが少し気になったが俺の思考を無視して少女は、
「隣、良いですか?」
と聞いてきた。
「別に良いよ?」
俺は真顔で答える、断る理由が無い。
ベンチの端から中央に移動し少女に座る様に促す、少女は素直に座った。
暫く沈黙が続いた。
俺は特に語る事は無かったし少女も語るつもりも無いらしい、只ちょこんとベンチに座っているだけだった。
「逆ナン?」
俺は沈黙を殺す為の第一声を放った。
少女は一瞬キョトンとした顔に(イヤ真面目に)なりやがて耳まで真赤にさせると「違いますっ!!」と慌てて叫んだ。
声が聞こえたらしく事件現場に居た野次馬が此方を振り向いた、少女の顔が更に赤くなる。
俺はそんな事を取り合えず無視して続ける。
「そうだよね、こんな朝から逆ナン何て流石にビックリしちゃうよ、逆ナンするならなるべく夕方から夜を推奨するよ、うん」
「何でそんな話になるんですか!?」
少女の必死の問いにも俺は真顔で、
「じゃあ他に何か理由が在るのかい?」
そう問うた。
少女は口篭り、口を開いた。
◆◇◆◇
「へぇ……じゃあ、君は浪野飛鳥ちゃんて名前で殺害された九条瀬名君とは幼馴染だったと」
俺の問いに少女はコクンと頷く。
復唱したとおりこの子は九条瀬名の幼馴染で同じ大学に通っていたと言う。
(やっぱりねー……流石に名門校の女の子が俺に声を掛けてくれるわけもないもんねー)
そう思うと思いの他泣けてきた。
まぁ、それはよしとして。
「何で俺の事がわかったのかな?」
当たり前の事実だ、態々俺を訪ねる奴は仕事を依頼しに来る奴かイカれた馬鹿だけだ。
俺の冷ややかな問いに飛鳥はビクリと肩を震わせて、静かに口を開いた。
「インターネットで黒一色の服を着た二十代位の男性が願いを叶えてくれる、とか聞いたので……」
「それ信じたの?」
飛鳥はコクリと頷く。
これは相当追い詰められて信じたか夢見がちの馬鹿だから信じたのか良く解らなかった、おそらく前者なのだろうけど。
「ふぅん……で、俺にどうして欲しいの?」
飛鳥は顔を上げて真剣な眼差しで、けど動揺を隠せない瞳で答えた。
「犯人を……殺してください」
その答えに俺は微笑を浮かべると辺りを見回すワザとらしい動作をして
「俺の事務所に来る? 詳しい話を聞きたいんだけど」
飛鳥はコクリと頷いた。
面倒くさそうな事件に巻き込まれたらしい。
そう気づくのには少し遅かったかもしれない。