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聖魔法術戦争 VaX ~Chimera~  作者: 神錆京香
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2 五里霧中の山林と血肉に塗れた地獄絵図

評価・ブックマーク・感想お待ちしております。

 人は未知のモノ、理解できないものを恐れ、拒絶する生き物である。

そして、自らに似て非なるものを排除するモノである。

自分と異なる意見の者、自分と信じるモノが異なる者、自分と所属するモノが異なる者。

それはいかように些細なことでも、攻撃対象になり得る理由を多分に含んでいる。

 たとえ、根本をたどれば同じ思想、種族、人種だったとしても。

二百年を超える月日はその谷を底なしの奈落にし、いともたやすく制裁対象に仕立て上げるのだ。


 「深い霧の奥には、楽園が広がっている。」誰が言い出しただろうか。

無邪気に走り回る子供ですら知っているそれは、霧の奥に眠る安寧への期待と未知への恐怖、そして愚かな好奇心によって数多の探求者をその大きな口で飲み込んでいくのだ。


 「先輩、俺たちはいつまで歩けばいいんですか? いくらこの補助器具があるって言っても、もう出発してから5時間以上歩きっぱなしですよ。バッテリーもそろそろ交換しなければならないですし、休憩にしましょう。」


 先ほどから絶やすことなく、息苦しいフルフェイスの防護マスク越しに籠った声で愚痴をこぼすのは、同じチームの後輩だ。

とはいえ、実質的な権力としては相手のほうが上に当たるが、古くからの付き合いで先輩・後輩の間柄となっている。


 「そうだな。この濃霧もいつ終わるかわからん今、無理に焦って失敗を招くのも好かん。手ごろな場所があったらそこで休憩するか。」


 そこは一寸先も見えぬ霧中。

お互いを腰に巻いたロープで繋ぎとめていなければ、即座にはぐれ遭難していたことは確実である。

俺は防護マスク内部につながるチューブから水を一口飲むと、より一層脚に力を入れ、白く濁った霧に塗れた険しい山林を突き進む。


********************************


「抑えろ!!絶対に法術士に近寄らせるな!!負傷者は退け!穴を作るな!」


 凛と整った顔からは想像できないほど擦れた声が血と泥と死体の山に反響する。


「死ね!魔族が!」「くたばれ!異形ども!」


 剣戟と怒号と絶叫が入り混じる、阿鼻叫喚の地獄絵図。そこは老若男女問わず、すべてが憎悪と嫌悪、敵対心で埋め尽くされ、ただ、眼前の自らとは異なる存在を抹殺することだけが正義の空間。

 火が肉をあぶり、水が胸を貫き、風が四肢を断ち、土が骨をつぶす異界の戦場。空には竜が舞い、地を人外の異形が這う。

 数多の種族が一堂に会し、お互いを殺しあう本当の戦場。

暗雲の立ち込める重暗い空を、一人の兵士がが翼の生えた馬の背に乗り一路駆ける。

その男が肩から下げる袋には、戦況を左右する決定打が記されていた。


「急報!!急報!!勇者が魔王城に討ち入りたり!」


 男が幾重にもめぐらされた陣地を超えて叫ぶ。それは、終戦が近いことを報せる報告であった。


「各員に伝えろ!すべての装備の使用を許可する!勇者が魔王を打ち取るまであとわずかである!一層奮起せよ!」


 全身を白銀に輝く鎧で覆い、喧ましい戦場において尚、腹に響く声で命を下すいかつい男。


「「「はっ!!」」」


 生気にあふれた、同じく全身を鎧で包んだ男女らが力強く返答する。



 魔王城にて、歴代最強勇者と謳われた女が人々が魔王と呼ぶ存在と相対する。それは英雄譚にふさわしい一場面。だが、状況は決して勇者にとって最良とは言い難かった。壁には多数の化け物の死骸がへばりつき、暗い部屋をさらに暗く染め上げていた。後ろで斃れる仲間達。彼らは人類の最精鋭と呼ばれた者たち。それらが今まさに事切れようとしていた。対する魔王は負傷しドス黒い血を流しはするも、その貌には未だに生気があった。


「フハハハッ!その程度であるか!選ばれし尖兵なれども、所詮は人であるということか!」


 魔王はその長い両腕を大きく広げ、声高々に叫ぶ。

 そんな中、勇者の後方にてぼろ雑巾のように転がる仲間達にわずかに動く影が二つ、最後の力を振り絞りその王酌を勇者に向ける。


「天上の楽園の神よ、崇高なる者よ 汝の柔らかな翼で我らを包み給え 主よ、聖なる父母よ 英雄が勝利を目指すように 我らを導き給え」


「我、求むは癒しの水 我、求むは天下を照らす光 我がリシルの名において、彼の者に不屈の力を与えん」


 彼らにわずかに残されたその命、それらを賭して託された加護と力。それは勇者の体に宿り、光る羽根となりて勇者を包む。


「はっ!小賢しい!狸寝入りなどしよってからに!」


 魔王はその長い腕を水平に振るう。


 ゴシャッ!!


 二つの肉が地面に落ちる音がする。

 ぼろ雑巾のようであった二つの影は、まさしくぼろ雑巾と化した音だ。

 それを理解したとき、勇者は駆けだした。その血に汚れた黒い髪を靡かせて、神速を超える速度で、魔王に肉薄せんと足を動かす。


「あ”ぁぁぁぁぁぁ!!」


 声にならない絶叫を上げ、血涙を流し、全身から鮮血を撒き散らしながら、魔王を屠らんと欲するその願いを抱き、勇者は駆けた。


「なっ!!」


 直後、魔王の胸目掛け勇者の剣が深く突き刺さる。


「ぐふっぁ!まさか、その力……えい…れ……い」


 そのままの勢いで勇者は天に剣を振り抜く。靡く黒髪に交じる勝色の髪。彼女の名はマリス。魔王によって攻め滅ぼされた亡国の戦姫(イクサビメ)。歴代最強の勇者(魔を払うもの)



 同時刻


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 異形の軍勢はほうほうの体での散発的な撤退をしていた。その後ろ姿に軍としての形はなく、統率を失った烏合の衆が背に足にと追撃され、断末魔を上げる暇なく無残に殺されていった。

 血のついていない場所がないほどに赤黒く染まった鎧騎士が一人、大の大人の丈はあろうかという巨大な剣を高く掲げ勝利を宣言する。三年間にわたる戦争が終結した。

 戦場では、どこからともなく勝鬨の声が上がっていた。



 魔王城にて


「ハァ・・・ハァ・・・ゴッバァッ!」


 魔王とその配下の血にひどく汚れ、なおも輝きを失わないその剣を床に突き刺し、彼女は立ち上がる。今にも息絶えかねない怪我と出血、それでも彼女は好いた男の亡骸へと足を進める。

 一歩二歩と歩もうとするもすぐによろけてしまい、その場に倒れこむ。右足をみればあらぬ方向へねじ曲がっており、何故先ほど立ち上がれたのかが不思議なほどであった。


「ああぁ・・ジャックス・・・」


 それでも彼女はその男のもとへ這ってゆく。

 ようやく彼であったモノへたどり着き、その亡骸を抱きしめようとしたころ異変に気付く。


「フゥ!!フゥ!…」


 わずかに聞こえる自分のものではない息遣い。目の前からではない。

 そう気付き後ろを振り向く。

 するとそこには、先ほど両断したはずの魔王が血走った目で立っていた。

 腹から左肩にかけてバッサリと両断されているにもかかわらずだ。普通の生物ではありえない。


 コツッ コツッ コツッ


 一歩一歩着実に彼女に近づいてくる。その右手には黒く禍々しく光る長剣が一本。

 彼女は悟った。コレには勝てないと。いかに力を込めようともピクリとも微動だにしない足、重りがついたかのように上がらない腕。


 息が苦しい 目の前が霞む


(どうして…)


 剣を握った魔王が腕を振りかぶる。

 ゆっくりと彼女の頭に向かって剣が落ちてくる。

 圧倒的な力と死の恐怖に侵され、彼女は意識を手放した。


*********************************


 一瞬の出来事だった。

休憩のために少し離れた場所で用を足していたその数秒後、後輩はただの肉塊となり、弱肉強食の円環の一部となった。


「ひっ・・・・・ひぃぃぃぃぃぃ!!」


 そこには2mを優に超える巨大な獣が、ピクリとも動かなくなった肉塊を貪り食っていた。

グチャリ!ボキり!と断続的に聞こえる生々しい租借音は、耳にはめた無線機越しに直接響いた。

用を足し終えていなければ今頃自身の股からは、たちまち刺激臭が立ち込めていただろう。

 訳も分からず俺は本能に従って逃げ出した。

わずかに残った理性で担いできた荷物と黒い筒を抱き込み、一目散に何処へとも知らず走る。


「グモァァァァァ」


 背後から獣の咆哮が迫る。

木々の隙間を縫うようにすり抜け、岩をウサギのように飛び越え小川をカエルのように跳ねる。

防護マスクの息苦しさなどとうに忘れ、ただひたすらにその獣から離れようと走る。

しかし、そんな逃走も終わりを告げる。

 体が何かに引っ張られるように、一歩も前に進めなくなる。

振り返れば腰から延びた遭難防止用のロープが、伸び切った状態でピンと張っていた。

どこかで後輩の死体が引っかかっているのだろう。

いかに足に力を籠めようとも数cmですら前へ進まない。

その間にも獣の咆哮は近づいてくる。

 ボスッ!ボスッ!ボスッ!

草木を盛大に踏み分け、枯草を巻き上げながら近づいてくる獣の足音。

死は目の前に迫っていた。

 

「し、死んでたまるか!こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!!」


 足音の聞こえる方向へ俺は黒い筒の引き金を引く。

一瞬の破裂音の後、硝煙の匂いがフィルター越しに鼻腔をくすぐる。


「クソ!クソ!クソ!クソぉぉぉぉぉ!!」


 俺は幾度となく引き金を引く。

筒から上がる煙が霧と同化する。

俺の耳は連続する破裂音によって耳鳴りが止まない。

息を切らしながら、もう何の変化も起きない引き金を俺の指は引き続ける。


「グモァァァァァ」


 霧の向こうからノッシノッシとゆっくりとした足取りで獣の影が現れる。


「あ゛ぁぁぁぁぁ」


 俺は手に持った筒をその影に投げつけると、ふとももに装着した小さな鉈を腰につながるロープに打ち付ける。

ゆっくり、ゆっくりと獣は死神を従えて近づいてくる。

その姿が明確に見えるとき、その獣と俺の距離は1mにも満たなかった。

 口からはピンク色の後輩の物と思しき内臓が垂れ、爪には頭髪と血が絡みついていた。

俺は身体を限界まで後ろに下げて、鉈をロープに振り下ろす。

それと同時に獣の爪が、死神の鎌が俺に向かって振り下ろされる。

しかし、死神の鎌はわずかに俺を掠めただけだった。

 獣の爪が俺を殺す間際、ロープはちぎれ身体はその反動で後ろに投げ飛ばされた。

だが、死神の鎌は確かに俺に掠ったのだ。

 その勢いのまま俺は今まで霧で見えなかった崖下へと投げ落とされた。

遠ざかるロープの切れ端と獣の咆哮を最後に俺は意識を手放した。

はい、とてもとてもお待たせいたしました。

大幅改変したうえでの再投稿です。

ある程度まで書きましたら前回のVaxは削除いたします。

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