県内試合
女子サッカー部がんばります
5話です
「え!?」
男子サッカー部部長の小谷は目を見開いて驚く。
「だ、大丈夫なのか長瀬!? そこまで言い切って?」
女子サッカー部部長の長瀬は躊躇いながら言う。
「……だって、大会に出る過半数のメンバーの熱意が凄いんだもん」
「そ、そんなになのか!?」
「えぇ、あの子達の情熱におされてしまったわ」
「……」
僕は黙って聞いていたが、内心ではかなり喜びにひたっていた。
(それはそうだろう。彼女達の欲を掻き立てたのだから)
数日前の宮本雫との話し合いの時に遡る。
『それならこうすれば良い』
『え?』
『優勝というのは周りの部を説得させる為の表向きのパーツに過ぎない。大会で程々の結果さえ残してくれれば、備品拡充は勿論、その後にコスメ等の日用品の購入も検討しようじゃないか』
『え!? 本当!?』
『あぁ! 本当だとも』
『分かったわ。それを伝えてみる!』
それから宮本雫と昨日まで入念にチャットで話し合ったのだから。
「それで宜しいのですね」
「……」
「……えぇ」
「分かりました、では明後日までに備品の拡充をしま……」
「あ、あのっ……」
「何でしょう?」
「いえ、別に……」
小谷は何か言いたそうだったが、それ以上言わなかった。
「では長瀬さん。備品の拡充をします」
「! ありがとうございます」
「……」
「小谷君」
「あ、はい」
「男子サッカー部は決して女子サッカー部の備品を使わないように。使っているのがバレたら、色々とペナルティを課して頂きます」
「! ……あ、はい。分かりました」
それから生徒会費を使って女子サッカー部の備品拡充を行った。そして僕は周りの部活から不満が出ないように、先に手を打った。
『女子サッカー部 今大会の優勝のため生徒会執行部はサッカーの備品拡充』
新聞部にたれ込み、校内掲示板に貼らせた。
「女子サッカー部、今大会優勝を目指すらしいぞ」
「しかし優勝だろ~? なかなか難しそうだ」
「なんでも優勝しないと厳しい措置をするとか」
「え!? まじで!? 一体どんなことするんだろう?」
「校内50周走るって噂とかあるぞ」
「マジか!? それは大変だ!」
「けど良い結果を残せば、生徒会から褒美が出るとか」
「褒美? それは凄いなーっ」
と様々な噂が校内で飛び交った。
「えー? どうしてそんなことまで知っているの~?」
「どこから漏れたのかしら~?」
クラスの女子サッカー部員達は不思議そうに言う。
いや、僕は新聞部に備品の拡充しか言ってない。君達が漏らしたんじゃないのか?
「ちょっと宮部~。あんた誰かになんか言ったー?」
宮本雫は僕に近づき小声で言う。彼女は前よりもスカートを詰めて、健康的な太ももを見せながら、少し焦げた脚を露わにする。
僕はその太ももに目線が行く。エ、エロい……。いや、いかん! 復讐相手になに欲情しているんだ!?
「どうかした?」
「いや、別に?」
「で、どうなのよ?」
「え、いやっ、まさか? そこまで言うわけないだろ?」
「じゃあどこから漏れたのかしら? 怖いわーっ」
そして備品拡充してからの彼女達は今大会に向けて部活を懸命に頑張っていた。
僕は生徒会室から運動場が見えるため、その練習を眺めていた。
「……」
「女子サッカー部の方達、部活動頑張ってますね」
青山はお茶を僕へ持って来ながら、声をかける。
「あ、あぁ」
「あんだけ頑張っていると、応援したくなります」
「そうだな……」
僕は青山がいれてくれたお茶を飲む。
「とはいえ情に流されては駄目だ。結局、彼女達は結果を残さないと」
「そうですね……」
そして僕は家に帰りしな、宮本雫とチャットをし合う。
『お疲れ様。練習はどうかな?』
『そうねーっ。なかなかヘビーね』
『そうか。それは大変そうだな。そうだっ。練習にあたって悩みとか相談はない?』
『うーん、臭いかなーっ。練習の後は汗臭い気がする』
『そっかーっ。それは大変だ』
違う。僕が知りたいのはそういうことじゃない。
『僕に出来ることなら色々するからさ、僕との中で何か話すことはない?』
『うーん、それ以外はまだないかな?』
彼女はまだ僕に心を開いてなさそうだった。
(クソっ、まだまだかっ)
それから女子サッカー部の県大会まで刻々と近づき、あと一週間前に迫っていた。
彼女達は夜遅くまで部活をよく頑張っていた。
「会長」
「何だ?」
「目安箱回収してきました」
「おう、そうか」
週に一度生徒会が回収している。校内に三つ設置して、青山、紺野、加西がそれを生徒会室に持って帰ってくる。
「今週は何か入っているかな~」
先週は特に請求の紙は入っていなかった。その時の僕は少しがっくりしたが、今回は三つの箱の中に二枚ほど入っていた。
「おぉっ、入ってる、入ってる!」
「良かったですね、会長」
「まったくだ」
「で、どうなんだカツ、内容は?」
「そう急かすなよっ。まだ読めてないんだから」
僕は取り出し読むと、その内容に少し息をのむ。
「どうかしたか?」
「いや、まぁどこの高校にもある話だが……」
「何だよーっ、もったいぶるなよ~」
「……イジメの話だよ」
「! ……あっ、あぁそうか」
差出人は書いてないが、筆跡から女子の感じがした。そして二つの紙の字は似ていたから同一人物だろうか。一体どうすれば良いのか。僕は少し昔の自分を思い出しながら考えた。
そして女子サッカー部の大会が始まった。僕はいち早く結果を知るため、生徒会のメンバーと共に試合を見に行った。
「いよいよですねー」
紺野が少しワクワクしながらノートとペンを持って来ていた。
「おい紺野、ここにまで記録を残る必要はないんだぞ?」
「あっ、ついっ。職業病ですね」
そして試合開始のホイッスルが鳴った。
「わ~……」
観客は各校の応援をするために賑わった。
そして様々な闘いを繰り広げ今大会の試合は終わり、我が県立北高校女子サッカー部の試合結果は5年振りの準優勝を飾った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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