密約
宮部の計画が順調に動きます
3話です
翌日の昼休みに人気の少ない所へとある女子に呼び出された。相手はあの宮本雫だ。
「真美ちゃんから聞いたんだけど、あたしに用があるんですって?」
真美ちゃんとは女子サッカー部のキャプテン長瀬のことだろう。
「あぁ、けどそれは放課後に生徒会室へ来るように言付けたはずだが?」
「なんかああいう堅っ苦しいところ苦手なのよねー。それに放課後に部活の練習もしたいしーっ」
「……」
「それにあたしと宮部の仲だからさ、気になったからさっさと訊こうと思ってさーっ」
何をいけしゃあしゃあと……。まぁ、想定外だが、これはチャンスだと思った。
「うん良いよ。軽く話そうか」
「何々?」
「備品拡充の件についてなんだが」
「増やしてくれるの?」
「それが、中々難しいんだ」
「ど、どうして!?」
「他の部も頑張っているのにサッカー部だけという訳にもいかないから」
「じゃあ他の部も資金を増やせば良いじゃん」
「だが予算にも限りがあるから」
「それじゃあ一体どうするのよ!?」
彼女は段々と機嫌が悪くなる。
「だが手がないわけではない」
「え? だったらどんなことがあるの?」
「この大会で優勝をすることだ」
「え!?」
「そうすれば他の部活にも説得出来るから、備品拡充を確約しよう」
「でも……」
彼女は言葉を濁す。自信はなさそうだ。そして僕は心の中でにやりと笑う。
「まぁ、これはなかなか難しかろうと思って、他の手段を用意してある」
「え? それは?」
「それはだな、君のラ◯ンのIDを教えて欲しい」
「え?」
「宮本さんは顔が広いから、色んな生徒のことを知っている。だから彼等のことを色々知りたい。だから君から見た生徒の状況を色々と教えてほしい」
「そんなんで良いの?」
「あぁ、後は君についても知りたいから君からの相談もして欲しい」
「え? 相談にものってくれるの?」
「あぁ」
「なんかカップルみたいね」
「はは、まさか」
僕はにこりと笑う。ふっ、そんな訳ないだろっ!? 彼女は少し黙る。考えているようだ。
「分かったわ。ID教えてあげる」
「そうか。それとこれは二人だけの約束だ」
「ええ、分かったわ」
そして僕は彼女からそのIDを入手した。
「今回の内密の話はバレたくない。だからそれ以外の内容は皆の前で話したことにしたいから、生徒会室に来るように」
「……分かったわ」
少し落ち込みながら彼女は去って行った。そしてその放課後に生徒会室にて男女のサッカー部のエースがいる。
「お呼びだてして申し訳ない。それぞれのサッカー部のエースに説明が必要かと思いまして」
「……」
二人は神妙な面持ちでこちらを見る。
「部長さん達には先に伝えたのですが、備品拡充の条件として次の大会に優勝して頂きます」
「え!?」
男子サッカー部のエースである2年の早川は分かりやすく驚いた顔をした。
「それを約束して頂かないと拡充は不可能です」
「それはどうしてでしょう!?」
彼は大きな声を出しながら言う。
「サッカー部だけを優遇してしまうと、他の部活動から不満が出てしまう。だから彼等を説得させるには、やはり大会で結果を残して貰わないといけない」
「でも~……」
そして女子サッカー部のエースである宮本は余裕の表情を滲ませながら、不満げな面持ちで言う。
「それなら大会の前に備品を増やさないと練習が出来ないから、優勝なんて出来ないでしょっ」
「勿論その通り。だから大会で必ず優勝することを確約して頂ければ、特別に備品購入の為の資金を増額しようという話なのです」
「……」
「一応補足としてなぜエースをここに呼んだかというと、サッカー部の中で一番強い選手はどれほどの返事が出来るのかと訊きたかったからなのです」
「……」
彼は黙りこくるが、宮本はどこか余裕の表情だ。そして彼女は高らかに応えた。
「私の部は優勝出来ると思うわっ!」
「え!?」
早川は少し驚いた顔になった。
「どうしてそう言いきれるんだよ!?」
「だってーっ、うちら強いしーっ」
「……」
「……」
僕は来たと思った。そして彼は心配そうな顔で僕に質問する。
「もし約束が守れなかった場合はどうなるんですか?」
「それはもちろん制裁措置を受けてもらいます」
「え!? それは?」
「そうですねー、生徒会の資金を前借りしたので、その責任を学校の為に働いてもらいましょう」
「……」
「どうしたの、怖いの?」
宮本は早川にニヤニヤしながら訊く。
「は? そういう訳じゃあ……」
「ほんと。度胸ないわねー。男ならバシッと決めなさい、バシッと!」
「……」
やばいっ。宮本の奴、彼を焚きつけにかかった。
「……ま、まあ、サッカーはグループで戦うので、皆の意見をし合うのは大事でしょう。一度帰って相談しても良いです」
「あ、そうですか……」
彼は少しホッとした顔になり、彼女と共に生徒会室から出て行った。
「会長」
青山が神妙な面持ちで訊いてきた。
「なんだ?」
「これは少し公平性に欠けるのでは?」
「ん?」
「いくら優勝の約束をしたとはいえ、結局先に備品拡充するのですから、仮に優勝出来なくて学校の為に働いてもらっても、部活の練習の面ではサッカー部に優位なのはあまり変わりないのでは?」
「要するに他の部活の人達が不満を感じなければ良いんだろ?」
「え? まぁ、はい。それはそうですが……」
「大丈夫だよ。それぐらいの手を打つつもりだ」
「カツ、それは……?」
加西は気になった顔で訊いてくる。
僕は二人に微笑みかけながら何も言わなかった。
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