公約の実行
少しずつ勝久の計画が始まります。
二話です
さて我が陣営が新たな生徒会執行部として今日から始動する。
(僕が生徒会長になったからにはこの学校を一新するぞ)
そう決めてからの僕は自分の公約の実行に向けて副会長の青山と共に教師の説得に回った。
「良いですか先生? 進学実績のある名門校ほど校則は自由なんです。服装や髪染めを許す進学校も普通に存在します」
「しかしそれは私立の話じゃないのか? うちは公立だし、後進に出来た進学校だ。やはり県内の名門校にはなかなか進学率では勝てない」
「だからと言って古い考えに固執しても進学率は上がりませんよ」
「しかしそんなことして、親御さんは心配しないか?」
「進学率を高めさえすれば、親御さんは安心なさるでしょう。それにそれぐらいのことでは無秩序とは言いません。もっと自由な校風はあるんですから」
「しかし……」
「学校は教師の私物ではありませんよ。学校は生徒が色んなことを学ぶ為の機関です。それぐらいの自由無くして生徒は学校生活を謳歌できるでしょうか」
「私の独断では決められない。他の先生とも相談を……」
「そんなことしていてはいつまで経っても、埒があきません。もし相談するなら、僕も職員会議に参加します」
「え!?」
「そこで皆さんに納得してもらいます」
「いや、そんなっ!」
「会長、ここは私が……」
そして青山の説得で職員会議の参加にこぎ着け、生徒のおしゃれと進学率との相関関係のなさを説明し、教員達を黙らせた。
「生徒の自由なくて良い学校にはなりません。それに県下の名門校の進学率に少しでも近づくためにはそういう凝り固まった考えを是正し、色々と動かなくてはいけない。そうしないと一生あそこには勝てませんよ!」
僕は続ける。
「以後生徒達がおしゃれをしても、指導をしない様にお願いします」
「……」
それから一週間後、校内のお洒落解禁の施行をしたことを新聞部に言って、号外を流させた。
生徒達からは歓喜の声がし、それからというもの徐々にお洒落をする生徒が増えた。
「最近宮部凄くない?」
「うんうん。有言実行格好いいよね」
そういう声がクラスから飛び交うようになってきた。
そうだろ、そうだろーっ。ここまで出来るのは僕のお陰だぞー。
「宮部……」
「!」
僕に近づいて話しかけて来たのは宮本雫だった。
「ゴメンねー。あたし、あんたのことちょっぴり誤解してたわ。あのことまだ怒ってる?」
「いいや、別に?」
「そっかー、良かったー。これからも宜しくねっ」
彼女はそう笑顔で言って、僕は笑いかけたままこれ以上何も言わなかった。
「良いのかカツ? 宮本さんのこと許して?」
「え?」
「だって彼女と普通に話かけてたじゃん」
「まさか、許す訳ないだろ?」
「え?」
そう許す訳がっ!
ここまでしたのも生徒の信頼を付けて生徒会の力を強める為もあるんだ。宮本雫に復讐する為の必要条件だからなっ!
(さて宮本雫にどう復讐するか)
と僕は常日頃考えているとはいえ、普段はしっかりと生徒会の仕事をする。……が、
「……生徒会の仕事ってこんなものか」
公約の実行をしなければ、そんなに普段から仕事という仕事はしない。部活や委員会から送られてきた報告書に目を通すくらいだ。
「特別な学校行事ももうないからなーっ」
僕が就任した時期にはちょうど文化祭と体育祭は終わっている。だから忙しくなる学校行事は既に終わっているので、時間はあるのだ。
僕は放課後の外の風景を眺めてのんびり過ごす。
「おい、カツっ」
「何だ加西?」
「サッカー部から備品資金の増額の申請が来ているぞ」
「何?」
僕はその申請内容を読んだ。
なになに、大会が近いので最近のサッカー部の備品の消耗が激しい。なのでこれだと部活の練習に支障をきたします。だから備品購入の増額を申請します。サッカー部
「これは男女どっちのサッカー部からだ?」
「これは両方みたいですよ」
副会長の青山が淡々と言う。
なるほど、備品購入の増額か。うちの学校はどの部活動に対しても積極的だからと言うが資金は知れている。だからそうそう増額は難し……、待てよサッカー部かぁ。そうだ、これだな。
僕はにやりと笑う。
翌日、各サッカー部の部長を生徒会室に呼んだ。
「お呼びだてして申し訳ない。備品購入の増額の件です」
「考えてくれましたか?」
男子サッカー部部長の小谷がおそるおそる言う。
「はい、一応」
「それでどうでしょうか?」
女子サッカー部部長の長瀬が僕を窺うように言う。
「結果を先に言うと残念ながらこの申請は受諾できません」
「そんな……備品の充分な補充をしないと、大会に向けての練習が不十分になってしまいます」
「確かに貴方達の言い分は分かります。しかしそれを許してしまうと他の部活も許してしまうことになる」
「……それはそうですが」
彼らは俯く。
「しかしまぁ他の部活を説得出来る方法はあります」
「え? それは!?」
「やはり部活動の一環である県の大会で結果を残し続けることです」
「……確かにそうですが、そもそも練習に重要な備品が足りないから大会で勝てない」
「ふむ、確かに」
僕は彼等の周りを回る。
「では備品拡充したら、大会で結果出せそうですか?」
「! うちにはそれぞれエースがいるのである程度の結果は残せるかと」
「ふむ……、分かりました。ではこうしましょう」
「?」
「今回だけ特別に増額します」
「え! 本当ですか、やった」
「しかし条件があります」
「?」
「この大会で必ず優勝して下さい」
「え!? それは……」
「それを約束出来なければ増額は不可能です」
「……」
彼等は困惑する。当然だろう、少し無理難題を吹っ掛けたのだ。
「まぁ、即断は難しいでしょう。しばらく考えてみて下さい」
「……はい」
「あ、それとお二人」
「あ、はい」
「明日それぞれのエースをここに来るよう申しつけて下さい。これに関しての話があります」
「……分かりました」
そして彼等は部屋から出て行き、僕は心の中で笑った。
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