父の死、それからの日々。
あれから数週間父の死を乗り越えてられているのかいないのか未だはっきりとは分からない。
それでも学生領主として今は学業に専念する。
学科免除試験は合格していて午前中は古代文明本研究会に正式に入会して読者に耽る日々を送っている。
魔法や剣の授業はしっかり出ている。
魔法だけは未だ初級魔法だが。
そしていよいよ対抗戦に向けた予選がはじまった。
予算は各学年で行われて上位2名が総当たり戦で上位5名を選ぶ。
残りの3名は補欠となり、本戦に帯同する事となる。
予選は成績順で主席とワースト1位、次席とワースト2位と言った形で行われる?
そしてこの戦いには刃を潰した剣と魔法の使用が許されている。
屋内闘技場には魔法が外に出ない結界張ってあり、参加者には命を守る結界を施す。
参加者の結界が攻撃で破られた場合は再起不能のダメージを負わされた事となり敗退が決まる。
俺の初戦の相手は一年ワースト1位だ。
勿論、危なげなく勝利し初戦を飾った。
2回戦以降は15人によるトーナメントとなる。
俺はシードだ。
トーナメントも危なげなく勝ち進むと決勝はルミナスとシャルベールの勝者と戦う事になる。
2位のルミナスは学科の点数がよかっただけで魔法は同等、剣はシャルベールの方がつよかった。
「行きます」
シャルベールがそう言って走り出す。
ルミナスは魔力を手に集めて魔法を放とうとしていた。
シャルベールはルミナスに後一歩の所まで迫る。
ルミナスは魔法を発動させる。
「光の十剣士」
ルミナスの手から眩い光が放出しシャルベールは一瞬戸惑い目を手で覆ってしまう。
その光の中から現れた光の剣士が10人がシャルベールを貫いたのだ。
光の中級攻撃魔法だ。
シャルベールはその場で倒れ結界が割れた。
「勝者ルミナス」
地鳴りのような観衆の声。
学園内なのにアウェー感。
しばらくの休憩の後、決勝戦は始まった。
先制はルミナス。
水魔法の水矢を多重魔法陣から連射する。
俺は横に避けるもルミナスは角度を変え連射する。
俺は咄嗟に火球を放ち水魔法を散霧させる。
水蒸気が俺を消した。
同時に気配を消してルミナスの背後を取る。
だがルミナスも剣で反応する。
会場は濃い霧に包まれ目視出来ないでいる。
剣で撃ち合う音だけが会場に響いた。
剣は俺の領分だ。
撃ち合いながらもスピードで勝る俺はルミナスの結界を少しずつ溶かしていく。
ルミナスも負けじと距離をとって魔法で応戦。
雷電院を放つルミナス。
俺はまだ一度も成功出来ていない土魔法中級の土壁を放とうとするも出ず。
雷電院を喰らってしまう。
ルミナス、俺共に後一撃で結界が割れるだろう。
「さぁ決着の時だ」
俺は剣でルミナスは魔法で。
会場の霧が収まるとルミナスの結界は割れていた。
「勝者デュラント」
「デュラント君、最後のは何?」
「魔法を避けら為、懐に入る為に早く早くって走ってたら最後の最後に瞬歩って言うスキルを得たんだ」
「ズルいーせっかく勝てると思ったのにー」
「本当に接戦だった。こんなに強くなってるとは思わなかったよ」
「次は勝つよ」
「次も負けない」
一位通過で俺が二位通過でルミナスがそれぞれ一ヶ月後の本戦に進む事になった。
「一年生と侮ってたら負けるな」
「えぇ、見れてよかった。二、三年には勝てないでしょう」
次の日から10日程の連休が始まった。
中には怪我をした子もいて予選、本戦とも終わると連休があるのだ。
急ぎ領に帰えって開拓の手伝いをしたい。
次の日の夕方には屋敷に到着。
最近、馬が調子がいいのか一日ちょっとで領に到着する。
屋敷に戻ると夕飯を家族で食べる。
まだこの屋敷のものは父の死を克服出来てはいなかった。
静かな夕食を食べ終わると作業部屋に入る。
お取り寄せで、鋸、鉄斧、自分用にチェーンソーを用意した。
楽しないとね。
早朝、畑に出向くとお取り寄せした腐葉土、有機肥料、化学肥料をそれぞれの畑に合うように渡していく。
連作障害か最近は不作続きだと言う。
とは言え、こんな子供が連作障害なんて言っても聞いてはくれないだろう。
それぞれに合った肥料を使って貰うのが今は最善だ。
開拓班の朝礼に出て作業割り当てに俺だけの場所を作ってもらった。
魔法で木を切り倒すから皆は離れて欲しいと言ったのだ。
これでチェーンソー使い放題。
鋸や鉄斧も大量に支給し喜ばれた。
森に入ると、混合ガソリンをお取り寄せし作業開始だ。
次々に木々を切り倒して行く。
この木も他領に売ったり薪にしたり、今後の建築に使ったりと用途がある。
綺麗に切り倒し枝葉を落としていく。
昼は1人で日本食を堪能し、午後は日本食パワーで午前中以上の成果をあげた。
夕方、明日は違う場所を一人で行うと伝えて今日切り倒した木を一箇所に纏めて貰うことにした。
そして7日間みっちりとチェーンソーを使い木を切り倒した。
最終日、畑の様子を見にいくと・・・。
「なにこれ?」
「領主様が持ってきてくれた肥料ですが凄いです。数日でこんなに大きくなって大豊作ですよ」
今まで、栄養不足だった野菜達が一気に養分を吸ったのだろう。
農家さん達から沢山の野菜を貰って寮へと帰った。
「これ、うちの領が大豊作で貰ってきました。使って下さい」と領の料理人に渡した。
その日の夕飯はとても美味しかった。
全員が野菜を完食する程だ。
料理人も「こんなに美味しい野菜は初めてだ」と大喜びだった。
それから数年後、ワルキューレ領の野菜は国中から買い付けに来るブランド野菜となる。
午前中、いつものように古代文明本を読み耽る。
今日の本はダンジョンについての本だ。
ダンジョンは神々が人の試練の為に作ったとされている。
しかしこの本にはダンジョンは人が作った物だとされていた。
作り方まで載っているのだ。
ダンジョンコアの作り方。
ダンジョンコアは数多の魔石を砕き粉末にした物をエリクサーで浸し、水晶の粉末、ミスリル鉱石の粉末を一定の魔力で錬金した物とある。
そして中心に魔石を入れればダンジョン最下層のボスが生まれるようになると書かれている。
粉末の魔石はダンジョン内に出る魔物となる為、ドラゴンの魔石を使ったドラゴンダンジョンやゴブリンの魔石を使った初級ダンジョン、種類を増やせば各階層で種類の違う魔物を出すなど作成者次第で様々なダンジョンを作れますと書いてあった。
中心に入れる魔石によってボスを作成出来る。
ドラゴンの魔石ならボスはドラゴンとなるってことか?
そして出来上がったダンジョンコアを洞窟や地中に埋めれば数日でダンジョンの出来上がり。
作成者はダンジョンコアを収める部屋へ転移することができ、そこで敵の数や罠の設置等が出来ると書いてあった。
「設定を弄れるダンジョンか、領の目玉になるかもな・・・それにしてもエリクサーとは。素材を取り寄せたいが素材に何が必要になるのかよく調べなくては」
最高万能薬エリクサー。
死にたてホヤホヤなら息も吹き返すと言われているポーション、全ての怪我、病気を治せるとされている。
因みに、身体の部位を再生出来る唯一の薬である。
これは古代文明から出土する物しか現存しない。
市場に出れば一生遊んで暮らせる程の大金を得られる代物である。
毎日、古代文明の本を読み漁るのはエリクサーの材料や作り方等が載っていないか確認しているからである。
前世のように表紙等にエリクサーの作り方等とは書いてはいない。
題名が書いてあるのはごく一部だった。
その殆どが自分の偉大さを書き記し発表する物だったのだろう。
今手に取っている本のように・・・
『偉大なるバルカンの考察と思考〜魔法の極みに至りし私の半生〜vol.3』
などと言った自己満乙の表題ばかりである。
その中からお目当ての本を探すのだ。
勿論、ここの本には書いてあると決まった訳では無い。
しかし、ここ以外で古代文明の本を自由に読める場所は存在しない。
ここで見つけられないとエリクサー作りは詰んでしまう。
後日、今日は休みだ。
週末の2日休みでは領に帰れないし、校内に入るには許可がいる。
本を読みたいからと研究室に入る事も出来ない。
と言う訳で王都にある冒険者ギルドへ足を運んだ。
そこそこ大きな都市に支店があって世界中に支店が存在すると言われている。
冒険者ギルドは依頼を受けて小間使い、採取、討伐等の仕事を斡旋する場所である。
年齢制限は無いがランク分けされていて、ランクに合う仕事しか出来ない。
ダンジョンもその一つ、あるランクまで上がらないと許可されないのだ。
そして魔物の素材を買い取ってくれる場所である。
会員と非会員では買取料、解体費が全く違うのでギルドへ登録にやってきた。
中は居酒屋のようになっていて昼間っから酒を飲んで騒ぐ大人達がいる。
喧騒の中を抜けると美人な受付嬢達がお出迎えしてくれるのだ。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ」
「登録ですか?」
「はい。お願いします」
めちゃくちゃ美人のお姉さんが声を掛けてくれた。
しかし男達の視線が痛い。
「必要事項に記入してください」
「はい」
どれどれ・・・。
氏名 デュラント・フォン・ワルキューレ
年齢 10歳
種族 人族
魔法属性 全部
戦闘スキル 剣術、槍術、武術、瞬歩、身体強化
この世界にレベルやHPと言った概念はない。
勿論、魔物を倒せば強くなるしスキルや魔法を覚えたりもする。
しかし鑑定を使ってもそれは読み取れない。
だからこそ、自分がどれだけ強いのか、相手がどれだけ強いのかを見極める事が重要なのだ。
そう。
見極められないと此方に近づいてくる男達のように痛い目に遭うことになる。
「おい坊主、ここはお前達の様なガキの遊び場じゃねーぞ。早く出ていきな」
「お姉さん、ギルドって年齢制限は無いよね?」
「は、はい。デュラント様、一度謝られた方がいいと思います」
「気にしないで。此奴ら弱いし」
「くっ、なんだと。今なにを言った?聞こえなかったぞ、もう一度言ってみろ」
「何度でも言ってやるよ弱い奴に用はねぇよ」
「貴様、俺をCランクのガダンだと知って言ってんのか?」
「知らねーし、お前がCとかここはCランクから始まるのか?」
「許さねー、お前は絶対に許さねーからな」
「いつまでも吠えてないで掛かって来いよ」
「死ねー」
ガダンの大きく振りかぶったパンチは振るわれる事なくデュラントの鳩尾への殴りにそのまま地面に沈んだ。
「ほらお前達も掛かってきな。一斉に掛かってこないとやられちゃうよ」
「お前らやっちまえ」
「「うおー」」
決着は一瞬だった。
動き出した瞬間に前のめりに倒れる大人たち。
瞬歩を繰り出し一瞬で全員の下顎にパンチをクリーンヒットさせたのだ。
口を開けたまま固まる受付嬢達。
そこに一部始終を見ていた男が近づいてきた。
「お前、凄いな」
「ギ、ギルマス」
ギルマス、ギルドマスターか?
「こいつら全員、兵士に連行させろ。お前は初めて見る顔だな?登録にきたのか?」
「はい」
「シャル、此奴の登録用紙は?」
「あっ、はい、これです」
「ほぉ、貴族の息子か?魔法は全属性でスキルも素晴らしい。よし、今日からCランクとして働いて貰う。勿論、Cランク5人を倒したんだ。直ぐにランクを上げろよ」
「えーと、俺がワルキューレ伯爵です」
「なに?当主なのか?そりゃ失礼致しました」
「気にしないで下さい」
「そうかそりゃよかった」
「あと、魔物を売りたい場合はどうすれば?」
「ああ、それならここにある受付に渡してくれ」
「えーと、ここには出せないと思います」
「なんだ?」
「数が多くて」
「アイテムバックとかアイテムボックス持ちか?なら裏に解体してる奴らがいるからそこに直接持っていきな。今日は案内してやる、ついて来い」
「はい」
裏に回ると様々な魔物、魔獣が解体されている。
「ここだ、出してみろ」
「はい」
約3年分の魔物、魔獣を出す。
そう、家には出せなかった魔物、魔獣達だ。
「な、なんだこの量にランクの高さは・・・」
「いやー冒険者のいない田舎の領地なので領地を一歩出ればこんな奴らいっぱいいますよ」
「なんだ?田舎あるあるか?」
「そうかもしれませんね」
「ち、ちょいちょい、黒大蛇、翼竜 、地竜にユニコーンの角?っておいおいこれはどうした?」
「地竜に襲われていたユニコーンを助けたら生え変わる頃にくれる様になった」
「なぁ、本当は何本持ってる?」
「15本、助けたユニコーンの家族も一緒にくれる様になって」
「おまっいいか秘密にしてろよ。ユニコーンの角は超高値で取引される。人に姿を見せないし、不死薬と言われるエリクサーの薬の原料だと言われている代物だ」
「え?エリクサー原料を知ってる人がいるんですか?」
「違う、この角の粉末を飲むと病気が治ったと言われていつの日からかエリクサーの原料と言われる様になったんだ」
「兎に角、それは一本だけにしてくれ、後、黒大蛇、翼竜、地竜、ユニコーンの角はオークション行きだ。うちでは買い取れない。3日後のオークションに出す。売り上げの10%をギルドに払えば匿名で出品できるがどうする?」
「よろしくお願いします」
「わかった。そして今日これからBランクとする。あんな A、Sクラスを倒せる奴が低ランクにいる事は損失だ」
「マジ?」
「マジだ」
3日後、学園が終わるとオークション会場でギルマスと待ち合わせて会場内へと入る。
貴族である俺は身分証を出せばすんなりと入れた。
会場は熱気に包まれている。
「レディース&ジェントルマン、今宵オークションへお越し下さり誠にありがとうございます。今回は超目玉商品が多数出品されました。どうぞお楽しみ下さい」
最初は武器、防具だ。
本物かどうかもわからない聖剣魔剣の数々、勇者の防具と名乗る装備品まで出品されている。
因みに俺の鑑定には何も引っかからない。
次はダンジョンから出た宝箱、古代文明の金貨やポーションが出品されている。
これも本物は数点程しかなかった。
次は宝飾等、貴金属である。
此方の貴金属は純度が悪く金も最高で80%、50%を切るものも出てくる始末。
宝石も白濁したものからクラックや汚れた物まで大きさ重視で汚い。
今度は貴金属をお取り寄せして出品してみようかな?
そしていよいよ魔物、魔獣の番だ。
大型の魔獣が出てくると喝采が上がる。
しかし、皮はぐちゃぐちゃ、血抜きも疎かにしていて買い叩かれている。
冒険者パーティーがこんな額では売れないと出品取り下げをする事も。
そしていよいよ出てきた。
「次は翼竜、脳を一撃で殺した、最高の状態の翼竜です」
次々と値が上がる。
1イエン1円だ。
最終落札価格は5億6500万イエン。
「次は黒大蛇です。此方も首を一太刀で刎ねられた最高な状態です。未だかつてこれ程の黒大蛇を見た事がありません」
最終落札価格12億イエン
「次は地竜、これまた脳の損壊だけと言うとんでもない代物だ」
最終落札価格86億イエン
「今日最後の商品だ。翼竜、黒大蛇、地竜と来てこれ以上の品とは・・・出たー幻のユニコーンの角だ。不死薬の原料とか粉末を飲めば立ち所に病気、怪我が治るとか言われているが10年に1本出るか出ないかの超ド級の品だー」
今までのは余興だったかの勢いで金額があがる。
そして4桁になる頃には4人の争いに。
どう見ても王族のそれと見るからに公爵家の関係者達の争いになった。
最終落札価格はなんと8500億イエン。
王族らしい人間が購入したがこの国は傾かないか?
ギルマスは固まって動かない。
今日だけで手数料だけで1000億近くの金が入ったからである。
「もう、ユニコーンは勘弁してくれ」
「わかりました」
後日、ギルドに訪れるとギルマスに会議室に呼ばれた。
「来たか」
「はい」
「金の事だ、ギルドカードに預けないか?」
「どう言う事ですか?」
「このギルドカードには金を入金出来る仕組みになっていて、ギルドで預けたり降ろしたりできるんだ。そして街の店でギルドカードで買い物が出来る場所が沢山ある」
「へぇー」
電子マネーみたいな物が」
「領地に使いたいので1000億イエン降ろして他は預けます」
「そうか。よかった。利子も付くからこれだけ入金すれば毎月小遣い程度になるとおもうぞ」
「それはいい事聞きました」
「金を用意する。少し待っててくれ」
アダマンタイト金貨、ミスリル金貨等のファンタジー金貨を沢山貰って領地へ急いだ。
家に帰ると母にお金を渡して直ぐに帰った。
開拓費用に使って貰う為だ。
勿論、母に贅沢する分は別に渡した。
※貨幣
鉄1〜100イエン
銅100〜1000イエン
鋁1000〜1万イエン
銀1万〜10万イエン
大銀10万〜100万イエン
金100万〜1000イエン
大金1000万〜1億イエン
ミスリル金1億〜100億イエン
アダマンタイト金100億〜
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