【番外】英雄之仮面 憎悪の結
朽ちていく愛、
それは美しいと言えるのか。
榊原 亮馬
24歳
裕香李の交際相手。
彼女と同棲しており、懸命に働き続けていた。しかし、彼女が謎の奇病にかかってしまうようになってしまった。
渡邉 裕香李
22歳
亮馬の交際相手。
同棲しており、働き続ける彼を必死に支えている。幸せの最中、彼女は謎の奇病にかかってしまうようになってしまい、入院生活を送っていた。
8月12日。
俺は仕事の帰りに病院に立ち寄った。
普通は寄り道するような感覚で来るような場所ではない。かといって、俺自身が何かあったわけじゃない。
部屋番号が書かれている札には、俺が愛した女性の名前が書いてあった。スライド式のドアをガラガラ音を立てて開くと、質素な部屋にベッドがひとつ、そしてそこに彼女はいた。本を読んでいた彼女の視線は俺に移り、そしてにこりと優しい笑みを浮かべた。
「りょーま! おかえり!」
おいおい、ここは俺たちの家なんかじゃないだろ? 俺はフフッと笑い、そして部屋に入った。
「具合はどうだ?」
「ばっちり! 」
俺の質問に、彼女は生き生きと答えた。
…けど、彼女も俺も、もう助かる見込みがなさそうなことは知っている。
大病院の医者ですら、聞いたことも見たこともない症状のものだ。
最初は吐き気がする、と。咳き込み、目眩が起き、身体中の内側からが激しい痒みと痛みが襲ってくる。最初は風邪と何かの炎症かなんかと思っていた。
お陰で皮膚がボロボロになり、そのストレスもあってか日に日に弱っていく彼女の姿が見てられなくなり、急いで病院に駆け込んだのだ。
聞いたことも見たこともない症状、ということはどうすればいいか医者も分からないという。今は痒み止め、痛み止め等でなんとかしているという感じだ。
「りょーま、明日はどこ行くの?」
そう言えば明日は日曜で休みだ。
「どこに…か。裕香李の散歩に付き合うよ。」
「ほんと!?」
彼女が目を大きく見開いた。キラキラとした瞳も合間って、彼女のその顔が愛しくて仕方がない。やっぱり俺は裕香李が好きだ。
「あぁ本当だ。」
「楽しみにしてるよ!」
「おう、待っとけよ。」
このあと俺は、裕香李と他愛のない話を続けた。“彼女が隠れて育てていた花”の様子が気になるだとか、最近隣の部屋の住人がやかましいくて寝られないとか。
時間になると、俺は裕香李の頭を撫でてさよならした。彼女はまたにこりと笑い、俺の背中を見送った。
8月13日。
裕香李の部屋に入ると、何やらうっすらと異臭がするのを嗅覚が感じた。
昨日も少し感じたが、若干違和感が増しているように思えた。
「りょーま! いこ!」
無邪気な彼女の様子に、もはやそれもどうでも良くなった。
俺は彼女に手を差し出し、ベッドから起こしてあげた。
「外暑かった?」
「あぁ、こんなだ。」
俺は着ていた服の襟元や胸元が汗で少し濡れているのを見せた。
「おぉ…こりゃだいぶだね…。」
「大丈夫、裕香李の分なら冷感グッズがある。」
俺はカバンからいくつかのそれを取り出し、見せた。例えばパックから取り出すと化学反応で中にある液体が冷却し、それでひんやりとするものや、それの応用のタオルなどだ。
「え、りょーまは?」
「俺はいいよ。」
「いーくない! 私より先に倒れたら許さんからな!」
裕香李はプンスカとおこる。
「倒れねーさ。毎日スーツでクソ暑いなか無理矢理走らされてる。慣れてる。」
「私のりょーまを苦しめるとは…野郎とっちめてやる…。」
彼女の、少し物騒だが俺を案じてくれた言葉が嬉しかった。俺は彼女の頭をくしゃっと撫で、
「バカ言うな。行くぞ?」
と照れ隠しした。
「あいあいさー!」
彼女は大袈裟に敬礼の真似事をした。
8月16日。
少し仕事が忙しくて会いに行けてやれなかった。久々に顔を見ると落ち着く。しかしまたあの違和感だ。俺は思い出した。このにおいを嗅いだのは、今回が初めてではない。だがどこでそれを覚えたのか、全く記憶にないのだ。
「…えへへ、おかえりぃ、りょーま…。」
何やら妙に落ち着いている。
「…何かあったのか…?」
俺は彼女のことが心配になった。いつもなら少し騒がしいはずなのに。
「ううん、ただご飯食べた後だからさ、少し眠いだけだよ。」
確かにテーブルの上には食事をしたあとがあった。お盆の上に味噌汁やらご飯やらが入っていたであろうお椀等が乗っていた。どうやら食欲はあるらしい。
俺は安心して、ベッドの隣にある椅子に座った。
「寝るのか?」
「ううん、りょーまが来てくれたしまだ寝ないよ。」
「…久々に裕香李の寝顔が見たかったのに。」
「私もだよ、りょーま。」
互いにフフッと笑った。
「ねぇりょーま、お願いがあるの。」
彼女が急に言い出した。
俺は、なんだ、とその続きを待つ。
「………私のこと、忘れてほしい。」
「……は…?」
彼女の言葉は、俺の脳に衝撃を送った。一瞬だけ時間が止まったのではないかと錯覚するほどの沈黙が生まれた。いや、沈黙が生まれたのではない。俺が“何か”を拒んだのだ。
「…私ね、長くないかもしれないの…。」
彼女が手を差し出した。
助からないと思っていたのは俺も彼女も同じだ。
「…だから、ここに来るのもこれっきりにしてほしい。私が苦しんでいるところ、りょーまに見てほしくないし…。」
前回来たときに見たあの幸せそうな笑顔はどこにもない。
「…そんなこと言うなよ。俺はいつまでも側にいる。」
「…やだ。もう来ないで。」
「それこそ無理だ、裕香李。俺たち、誓っただろ? いつか一緒に、幸せになるって。」
「……。」
「一人は心細いだろうし、俺はずっと寄り添う。」
「なんで……?」
「なんでって…俺たち恋人だろ? それだけだ。愛してるよ、裕香李。」
彼女の頬を涙が通った。そしてそっと微笑みを浮かべると、彼女は浅い頷きを何度も続けた。
8月17日。
部屋に来ると、彼女がニコニコして待ってくれていた。
「りょーま! 待ってたぞー!」
昨日のしんみりとしていた様子が嘘みたいだ。しかし俺は、そんな元気な彼女の姿を見て安心した。昨日のあれがどういう心境で言ったものなのかは知らないが、彼女が気にしないなら俺も気にしないことにした。
「ああ、待たせたな。」
「ねーねー、今日は何時までいるの?」
「面会終了時間の21時まで居てやるよ。」
「えー4時間だけ?」
「退院したらいつまでも居てやれるだろ。」
「うー。」
だから頑張れ…何て言えない。それじゃ『“今は”未知の症状を相手にして頑張っていない』みたいになるからだ。その代わりの言葉を脳内で探る。
「……なら私頑張る!」
それでよかったのかよ。
俺は心の中でそう呟き、いつもと同じくベッドの隣にある椅子に座った。
ふとあることに気が付いた。着ている入院服に血が付着していたのだ。
「それ、どうかしたのか?」
「…え? あーこれ? もー、女の子に聞くなんて野暮だぞ!」
ああ、そうか。俺は理解した。
…いや、本当に…それなのか……?
少し怪しいが、彼女がその柔らかい拳でぺちぺちと俺の手の甲を殴ってきた。
「ねーねーりょーま、今度はどこ行くー?」
裕香李がニコッと笑った。可愛い。
「そうだな…浜辺とかどうだ?」
「はまべー? どうしてー?」
「デートスポットの定番の1つだろ? こんなときだからこそ、そういうの必要かなってな。」
少し間を開けると、裕香李はまた頬を赤らめ、白い歯を見せた。
そして今度は、そんな明るい表情で深く頷いて見せた。
8月23日。
またしばらく来れてやれなかった。俺は詫びも込めて裕香李の好きな色の花をたくさん買ってきた。病室にある花瓶にある花を、これと変えてやれば彼女も喜んでくれるかと思った。
ガラガラと引き戸を開け、病室にあるベッドに寝込んでいる彼女の姿を見る。
俺はあまりにも急なことで買ってきた花を落としてしまった。バサッという音が一気に俺を現実に引き戻した。
裕香李の足の皮膚が荒れている…いや、荒れすぎているのだ。至るところの皮膚がめくれ、血が出ている。その臭いなのか、部屋に異臭が充満していた。
思わず吐き気が込み上げてきた。
そうか、昨日のはやはり、それではなかったんだ。
あの時から…。
「裕香李……!?」
彼女も目をつむっている。反応がない。
俺は急いで彼女の側に寄り、そして肩を持って揺らした。
「裕香李!! 裕香李!!!」
何度も彼女の名前を呼ぶ。
「……あれ…りょーま…?」
生きていた。
いや、看護師も誰も来ていないから生きてはいるだろうが…。
「なんだよ…! 足どうしたんだ…!?」
「………。」
彼女は作り笑いをした。俺の手にそっと指を重ね、目で心配しなくても良いと訴えてきた。
__ 違う、そうじゃない。俺が知りたいのは、足に何があったのかだ。
「何でもないから大丈夫だよ。それより早く浜辺に行こ?」
彼女はそう言って笑顔になる。しかしそれはどこかぎこちなく、なにか嫌な予感がした。
「裕香李…おまえ…足……。」
「大丈夫だってば…! ね?」
いつもの彼女とは違う様子に、俺は思考が停止したかのように何も考えられなくなった。
俺は彼女の手を強く握り、しばらく会いに来れなかったことを謝った。何度も、何度も。気付けば涙が頬を伝っていた。
「痒くなったからかいただけだよ…?」
かきむしったような痕じゃないくらい、見てすぐに分かる。なにか、皮膚細胞そのものに異常でも来したかのような…。
そして気になることがもうひとつあった。彼女の手が………。
「あ…。あの床に落ちてるピンク色の花ってなに?」
俺はハッとして出入りに落ちている花に振り向いた。花びらが少し散らされているそれを、俺は一旦拾って彼女に改めて見せてやる。
「おー! きれいだね!」
彼女の本当の笑顔がこんなにも辛く感じたことは無かった。俺は裕香李の身に何が起きるのか、おおよその予測ができた。皮膚細胞のことは分からないが、彼女はどんどん弱っていく。手を握ったときの感覚でわかった。
…俺は、裕香李を新しい入院着に着替えさせると、一緒に浜辺に向かった。
その日の夜、俺は大人しく帰った。
8月25日。
俺は急いで裕香李の元へ向かった。病室に充満する異臭が鼻を障る。俺が買ってきてやったピンク色の花はしばらく見ない間にあっという間に腐り果てていた。
そして次に目に入った裕香李の下半身は、もはや真っ赤になっていた。
「……………ゆか…り……。」
俺は辛そうな表情をした彼女を見て、何か鈍器で心を殴られたかのような衝撃を覚えた。呼吸が一瞬乱れる。そんな俺に気付いた彼女は、
「…りょーま…!」
とニコッとして言った。
「…りょーま、気付いてるかな…。」
あぁ、気付いている。
どうやら彼女の身体は腐敗している。生きながらにして、細胞が活動を止めつつあるのだ。そんな病気…いや、そもそもなにか…“特殊なものによる影響を受けない限り、このようなことは絶対にあり得ない”はずだ。
そんな“魔法”なんてものがあるとでも? もっと現実的に、もっと考えられるものは…?
「もう…始まったみたい…。」
彼女は自分の足を見て言った。
「…痛く…ない…のか……?」
「…ううん、平気…。ねぇ、りょーま、今度はどこ行く…?」
「……そ…うだな……。」
こんな状況なのに、彼女は自分のことよりも俺なんかのことを気にしているのか? こいつは…本当に…。そうだな…できるなら…。
「できるなら…公園に…。」
「公園…? なんで?」
「…俺たちが…付き合い始めた…あの公園に………。」
彼女はまたいつものように笑った。笑った。痛みを堪えて、彼女は俺のために笑った。
ごめん。なにもしてやれない…。本当にごめん…。
俺は心の中で彼女に詫び続ける。それが顔に出たようで、彼女は俺の頬にそっと手で触れた。
「……。」
彼女はまた、目で心配しないで、と訴えてきた。
そんなの、無理に決まってるだろ……。
8月27日。
彼女の足の腐敗は続いていた。今はスヤスヤと眠っている。いや、麻酔で眠らされている。その前、彼女は痛い痛いと泣き叫んでいたそうだ。それもそうだ。もはや彼女の足は…ほとんどが真っ黒になり、一部では肉が露出しているほどになってきたのだから。結局この日は、俺がいる間に目覚めてくれることはなかった。病室に充満するこの異臭の正体について、俺は帰ってからゆっくりと考えることにした。
8月30日。
彼女の脚部が見るに耐えない無惨なものになっていた。形は原型を留められておらず、部分的には骨が見えていた。
「………りょーま…ごめん…。私のあし…。お医者さんに言って…どかしてほしいの…。」
彼女は暗い表情で言った。
「…………わかった…。」
「ごめんね…。見てて気持ち悪いし…それに臭いの……。」
…この日は裕香李の下半身を切除する緊急手術の予定が立てられた。俺が帰る3時間前に手術室に運ばれ、そして病室に戻されたのは、俺が帰宅してから30分後くらいの頃だった。
9月2日。
下半身が無い彼女の表情は、当然明るいものではなかった。
「…りょーま…私怖い…。」
彼女が助けを求めるような表情で俺を見た。
「…俺がついてるよ…大丈夫…。」
彼女の手をぎゅっと握った。
「…そうだ…たまには外に出た…い……って言っても…この身体じゃ…。」
「……車椅子を借りてくる。待ってろ。」
俺は裕香李にそう言う。彼女の表情が少し明るくなった気がした。それを確認した俺は、急いで車椅子を借りに行く。
その後は病院の周辺を一緒に散歩した。気分転換できたようで、裕香李の顔に微笑みが戻ったような気がした。
9月4日。
病室の異臭が強くなっている。以前買ってきた花はもはや見る形もない。裕香李の様子は、ついに腐敗が上半身にも進行していたようで、首から腕にかけて黒い斑点が見られるようになっていた。
「りょーま…?」
「…あぁ、俺だよ、裕香李。」
彼女の表情が少し安らいだ。
「りょーま、手を握ってて欲しいの…。」
「…わかった。」
「…もっとあなたを感じたい。」
「……ああ。」
「…もっと側にいたかった。」
「………あぁ…俺もだ。」
「りょーま…私…1人で逝きたくない…。」
「…俺も…だ。…1人で生きたくない…。」
彼女の頬を涙が伝った。
「日に日に…視力と聴力も落ち来てるの…。ご飯も…ろくに食べれなくて…。」
そうか、だから点滴を打っていたのか…。俺はその時理解した。そして、輸血のパックもそのとなりにぶら下がっていたことにもそのとき気付いた。
「りょーま…好きだよ…。」
「…俺も…好きだよ…ゆかり…。」
“好き”という単語が、これほどまでに俺を苦しめてくるとは思わなかった。
裕香李は優しい表情になると、ゆっくりと目を閉じ、そして眠りについた。
9月7日。
病室に入る前、戸を越して彼女の話し声が聞こえた。誰か先客がいるのか?
俺はノックして引き戸を開ける。そこにいたのは、裕香李と……。
…いや、裕香李しかいなかった。
「ゆかり…?」
「…えへへ…りょーまがなんて返事してるか…分からないや…。」
そのひどく荒れた声で放った一言で、俺は察した。
聞こえないし、見えないのだ。
「りょーま、私のこと嫌いになっちゃった…?」
俺は彼女の手を握り、ここにいるよ、と耳元で言った。
「……よかった…まだ好きでいてくれるんだ……!」
彼女が笑った。
「ごめんね、もし怒らせたら…って思っちゃってさ…。りょーま、黙っちゃうんだもん…。」
それだけじゃない。記憶障害かなにかが起きているようだ。脳の働きにも異常が来したのかもしれない。
今、彼女に俺から話しかけることはできない。完全に遮断された世界に、孤独に彼女はいるのだ。
「…もっとぎゅって…握って欲しいな…。私…手の感覚も…無くなってきてるみたいでさ…。」
痛みすら、彼女はもう感じないようになっているのだろうか? 試しに彼女の手のひらに指で文字を書くようになぞってみる。
「…? どうしたの? 」
いや、どうやら感覚は残っているようだ。
俺はこれでコミュニケーションをとることにした。
「“ゆ、か、り”」
「…あ…りょーま頭いいね…!」
彼女も気付いてくれたようだ。
「“お、は、よ、う”」
「…うん、おはよう…!」
彼女はニコッと笑った。いつもの、あの可愛い顔だ。
「“い、た、く、な、い、?”」
「…痛い…。辛い…。」
「“ま、す、い、つ、か、う、?”」
「…ううん、そんなことしたら…あなたがいるの、分からなくなっちゃうもの…。」
……。
俺はまた、彼女のその調子に胸を締め付けられ、そして涙が溢れ、やがてこぼれ落ちた。
9月10日。
「りょーま、来てくれたの?」
俺は裕香李の目の前にいる。
以前よりもひどく荒れ、いや、もはや“声”ではないそれで、彼女は言った。
「りょーま…りょーま、だよね?」
「…俺だよ、裕香李。」
「…りょーま…いるなら手を……握って欲しいの…。」
「…あぁ……。握っているよ…裕香李…。」
しかし、彼女の手はもう存在せず、俺は裕香李の手がある“はず”の場所の空気を掴んだ。
頭を撫でても、彼女に以前のような反応はない。
「ちゃんと、握ってて…。あなたを…感じたいの…。」
彼女は安らいだ表情を浮かべ、また眠りについた。
_そして彼女はそれを最期に、もう目を開けることはなかった。
俺はこの日、最愛の人を亡くした。
不可解な現象が彼女を襲い、俺たちの幸せに一気に崩れてしまった。
同棲していた部屋から、彼女の遺品を片付けていた時だ。彼女が入院前に大事そうに身に付けていたアクセサリーが見つかった。俺はそれを持って、果たされることの無かった“公園デート”をした。
裕香李は居ない。その現実に涙が止まらなくなった。
ごめんな、裕香李…。愛しているよ。今でも。
俺は皮肉のように晴れ渡っている空を見上げ、そこに裕香李がいるかは定かたではないが、手を差し伸ばした。
「待っていてくれ、裕香李。」
俺はそう呟くと、“ある場所”へ向かった。
あれから俺は、裕香李を襲った現象について調べた。裏社会、裏勢力、秘密結社…俺自身が汚れていったことで得たのは、あれはとある組織の生物兵器だったことだ。
そうだ、彼女が“隠れて育てていた花”がまさにそれだったのだ。俺はあの病室に充満する異臭に覚えがあったが、それはいつもその花の世話をしてから帰ってきた彼女からほのかにかおるものだった。俺はそのにおいが苦手だったが、彼女はいい香りだと言っていた。
もしかして感染する経路は第一にそれなのか……なんて考察を交えながら、俺はその組織について更に深く調べあげた。
そして結果は出た。ヤツらがロクなやつらじゃないことは端から知っていたが、予想を遥かに上回るクソっぷりだった。
これ以上、裕香李のような被害者を出すわけにはいかない。
俺は連中に復讐するため、その組織に近付いた。
復讐は儚いという。しかしこれは単なる復讐ではない。
大犯罪の予防でもある。
俺は銃を握り、強大な悪党と、それを黙認するこの国に挑む覚悟を決めた。
上等だ。“賭け”てやるよ。俺の“運命”を…!
To be continued
to 英雄之仮面 運命の賭
運命の賭 エピソード 亮馬
~朽ちていく愛、
それは美しいと言えるのか。~