二十七話『風の吹く方に』
「――Fix」
ペルフェは暗闇に紛れた。
再び彼女が走る音が聞こえ始める。
(ペルフェは間違いなく俺の姿が見えている。なら、まだ攻撃を仕掛けてくるはず)
頭部の出血。
肩でしているような呼吸。
足の震え。
最早、満身創痍な南陽。
それでも彼は落ち着いて目を瞑り、音に集中する。
(元から見えないんだ。目に頼る必要はない。大体の方向さえ分かればいい)
遠ざかるペルフェが走る音。
(コルウスのほうに向かった?)
その音からおおよそのペルフェの行動を予測する。
だが、具体的な彼女の位置は把握できない。
(俺が必殺技を使った時、コルウスは少し離れた位置にいた。だから、ペルフェの隙をつけなかった。なら、ペルフェに気づかれずにコルウスに近づければ――――)
勝つためには、コルウスがペルフェに襲われる時の位置を把握しなければならない。
この暗闇ではそれが難しい。
(――――ッ! 何だ、この風!?)
突如感じる、しっかりと立たなければ吹き飛ばされてしまうほどの暴風。
原因不明の風に一瞬、動揺する。
けれど、南陽はその風に思い当たる節があった。
思い出すのは、コンテナヤードのこと。
コルウスが戦っていた時、コルウスは突っ走ってコンテナを宙に浮かすほどの風を起こしていた。
(――――この風はコルウスが起こしているのか? 何故?)
ペルフェに抵抗するためではない。
この風は間違いなくコンテナヤードの時の風より弱い。
南陽も力を入れれば耐えられる程度。
ペルフェにも効かないだろう。
(…………風が消えた)
風の感覚がなくなる。
(…………また、風)
再び体を押すような風の感覚。
そして、理解した。
(消えたんじゃない。風の方向が変わったのか)
この暗闇の中、コルウスもペルフェがどこにいるかわからないはず。
何か目的があるのだとしても一定の方向だけに風を送るようなことはしないだろう。
だから、風の方向を変えている。
そして、風上にはコルウスがいる。
加えて、あらゆる方向に風が届くようにコルウスは進む方向を変えながら走っている。
そうだとすれば、南陽が風上に向けて必殺技を打ってもコルウスの隣を通り過ぎる。
(コルウスが意図したことなのかわからない。けど、これは使える)
コルウスが近くにいる時、風は強くなる。
南陽たちが偶然近くに行こうとした時、合流を阻止しようと、ペルフェは攻撃を仕掛けるだろう。
その時がチャンス。
感覚を研ぎ澄ます。
近すぎてもいけない。コルウスが南陽の必殺技に当たってしまう。
風が強すぎず、弱すぎない時を待つ。
周囲に気を配りつつ、風をしっかり感じる。
風の感覚が一つ。
(…………弱い)
また、一つ。
(…………少し強いが、最初のより弱い。)
そして、さらに一つ。
(…………!)
体が押される。
最初のより断然強い風。
すぐ近くにコルウスがいるほど強くもない。
(…………今だ!)
必殺技を繰り出す準備。
腕を風上に向ける。
変形する腕。
そこに蓄積するエネルギー。
そして、それらを解放する。
「『隠然たる光輝』!!!」
「!?」
辺りが再び照らされる。
南陽の目には想定通りの光景。
明るくなったことに気づく走っていたコルウス。
そのコルウスを殴りつけようとしているペルフェ。
ペルフェの攻撃をコルウスは受け止める。
だけど、暗闇の中で攻撃を喰らい続けたのか、コルウスは全身がボロボロ。
「大丈夫か、コルウス!?」
「…………大丈夫。早く、やれ!!」
「…………ああ」
南陽は少しずれていた照準をペルフェに合わせようと、光線を放つ右腕を思いっきり回す。
ペルフェは躱そうとするも、その手をコルウスが離さない。
「これ、で! 終わりだあああああ!!!」
「ッ!?」
南陽の必殺技はペルフェに直撃する。
地面はえぐれ、コルウスのコンテナヤードでの暴風にも劣らないほどの風を起こす。
ペルフェは光線に吹き飛ばされ、その勢いのまま壁に風穴を開ける。
辺りの暗闇もゆっくりと消えていった。
「…………ハア、ハア。これで」
必殺技の連発。
さすがの南陽も体にガタが来ている。
「……………………私も」
コルウスも、散々食らったペルフェの攻撃によって動けそうもない。
壁の向こうの彼女が立ち上がらないように祈るばかり。
「…………」
「!?」
ガララ、と体にかかった壁の破片を退ける音。
現実はそう甘くなかった。
二人の勝利という希望を裏切るかのように、彼女はまだ立ち上がる。
「嘘だろ…………」
「…………」
ペルフェは壁の向こうからやってきて、南陽とコルウスに向き合う。
しかし、三人とも意識を保つのがやっと。
その中でペルフェは真っ先に構えだす。
「私は…………まだ、終わるわけにはいかないの…………!」
負けられない。
そう、自らの意志を露わにして。




