十七話『サイレント・ホスティリティー』
「よし、急ぐぞっ!」
「…………」
俺は彼女を連れて、以前憑依した場所――――南陽のいる敵の拠点へと向かっていた。
だが、俺の言葉に彼女の反応はない。
――――よく連れてこれたな、俺。
その様子を見て、彼女がここにいることが奇跡に思えてきたのだった。
※ ※ ※
数十分前。
俺は、ある高層ビルに立ち寄った。
そこは以前『PICM』の情報を得るために侵入した場所であり、彼女がいるであろう場所。
危険かもしれないので、綿さんにはビルの前で待っていてもらった。
そして、『奪回者』の協力と侵入した時の経験から、軽々と最上階にある目標の部屋のドア前に辿り着いた。
“コンコンコン”
ドアを三回ノックする。
『…………誰』
『やっぱりいたか』
ドアの向こう側から聞こえてくる予想通りの声。
『とりあえず開けてくれないか?』
『…………何故?』
『お前に関係することかもしれないんだ』
『…………』
‟ガチャ”
『お――――』
『――――っ!』
“バタン、ガチャン!!”
『あ』
開けてくれたかと思いきや、俺の顔を見るなり速攻で閉められた。
――――まあ、そうなるよね。前、敵だったもんね。今もそうかもしれないし。
『今日は戦いに来たわけでも危害を加えに来たわけでもないんだ。少しでもいい、話を聞いてくれないか?』
でも、頼りは彼女しかいない。
俺は粘り強く彼女に声をかける。
‟ガチャ”
『…………何用?』
彼女は、ドアの隙間からひょっこりと顔を見せ、聞いてくる。
――――こうしてみると、あのえげつない身体能力とか持っているようには見えないな。つぐももだし、今更か。
そう、俺の目の前にいるのは、以前コンテナヤードで激戦を繰り広げた女性。
癖のある長く黒い髪に、全く感情を読み取れない瞳。
それに、少しボロボロな黒い服装。
『用は?』
『ああ、すまん。南陽って知ってるか?』
『…………前にここに来た』
『それだけ?』
『…………』
彼女は静かに、わずかに頷く。
『じゃあ、01は?』
『…………! 彼が?』
『知ってるようだな』
拠点に憑依したときに見た、バツ印のなかった被検体の番号のうちの一つ、01。
その性能は隣のページに書いてあった。
並外れた身体能力。
数回限りの必殺技となる光線。
そして、身体的な特徴。
それらが南陽のものと一致していた。
つまり、01とは南陽のこと。
光線については、桃李から聞いたものだし、桃李も建物が破壊された跡から推測したものらしいけど。
そして、残りの二つの被検体の一人は、おそらくこの子。
この子も、あの名簿帳のようなものに書いてあった性能に一致している。
なら01という名称には心当たりがあるはず。
『……………それで?』
『お前は仲間を見捨てられないだろ?』
『…………! …………そんなのわからない』
『じゃあ、俺と戦ったとき、何故、襲ってきた生物を攻撃しなかった?』
『…………』
『お前ならできたはずだ』
そう、彼女の体に憑依した俺は理解してしまった。
彼女は不意打ちだからとか、対象が小さかったり、すばしこかったりしたからとか。
そんな些細な要因を弾き飛ばしてしまうほどの身体能力があるということを。
『でも、しなかった。関係のない命を失わせたくなかった』
『…………』
『お前は救える命は救いたい。そんなやつじゃないのか?』
『……………………条件がある』
『?』
『あの子も救え』
『あの子ってもしかしてもう一つの?』
『…………』
彼女はしっかりと頷く。
名簿帳にあったバツ印のない被検体の番号が三つ。
南陽と彼女。
そして、あと一人。その子を救いたいようだ。
『ああ、一緒に助けよう』
『…………!』
俺だって助けられる人を見殺しになんてしたくない。
ウツキちゃんのように見てるだけなんてごめんだ。
『よかったら、南陽――01について知ってることを教えてくれ』
『…………わかった』
※ ※ ※
『――――なるほど。ごめん。辛いこと思い出させて』
俺は南陽と彼女の関係を知った。
でも、これが本当なら彼女にとって思い出したくない記憶だったのかもしれない。
『…………別に。今はすべきことがある』
『そうだな。じゃあ、行こう――――えっと』
『……………………コルウスとでも』
『わ、わかった。行こう、コルウス』
少し申し訳なく思いつつも、それは目の前の彼女――コルウスの目標を達成することで贖うとしよう。
※ ※ ※
そして、現在に至る。
戦闘になることを考慮して、綿さんには『奪回者』の拠点で待ってもらうことにした。
俺とコルウスは、自分たちが救いたい人を助けるために拠点へと向かっている。
「――――ついた」
無言が続きながらも、無事、目標の拠点に辿り着いた。
そこにあったのは、研究所のような建物。
早速、中に侵入する。
「でも、案外あっさり入れ――――っ!」
扉も開いており、楽に侵入できた。
そう思った時、あちらこちらに殺戮ロボットが故障して倒れていることに気づいた。
「…………これを01が?」
こいつらを倒したのは、南陽なのかもしれない。
でも、このロボット一つでさえ、俺は対処できなかった。
それが本当だとしたら、南陽の実力はかなりのものだ。
正直、南陽の本気を見たことがないからその真偽は判断しかねる。
「わからない。南陽の実力はまだ俺も知らないから」
「…………そう」
「じゃあ、進もうか」
倒れたロボットを目印に、俺たちは先へと進んでいく。
「ここか?」
「…………」
ロボットの残骸が途切れた。
そこはとある扉の前。
鍵は開いている。
この先に、南陽がいるはずだ。
「…………開けるぞ」
息を整えて、扉を開ける。
――――この時、俺は嫌な予感がしていた。
俺は南陽の全力を見たことはないけれど、実力は信じていた。
俺は彼女の言うあの子について聞いていた。
それに、名簿帳でもその子の性能を見た。
それらが本当なら、南陽は――――




