十話『能天気な彼の苦しみ』
「ゴ、ビ?」
「っ! どうしたんだ!? 名織。こいつらに何かされたのか!?」
ショッピングの最中に見かけた名織。
彼は普段からは想像もつかない表情をしていた。
――――名織が、こんな負の感情に塗れた顔をするなんて。
「おや、ワシのことを呼んだかね?」
「っ、誰がお前のことをっ」
呼んでいない隣の男が俺の呼びかけに答える。
既にこの男の印象は最悪。
それに名織にここまでつらそうな表情をさせた。
「……………………いや、違うんだ。ゴビ」
「?」
でも、俺の言葉を静かに名織が訂正する。
「そいつは俺の祖父だ」
「!?」
隣のこの男もまた、名織なのだと。
――――この人が、名織…………いや、南陽の祖父!?
でも、だとしたら疑問が生まれる。
何故、南陽はこの人に敵意を向けているのか。
ただの反抗期の目じゃない。
まるで醜悪なものでも見るかのような目。
「…………若くないか?」
それに、年齢もおかしい。
南陽の祖父であれば70は越えているだろう。
なのに、見た目は30代だ。
「ホッホッホ。若さの秘訣があるんじゃよ」
「……………………」
自らの祖父の言葉に南陽は不機嫌そうに黙り込む。
南陽の祖父の言う若さの秘訣にも裏がありそうだ。
「ふむ。邪魔したな。また会おうな。南陽よ」
「……………………さよなら」
南陽の祖父と俺たちが探していた少女は、この場を去っていく。
追おうともしたけれど、つぐもたちをこれ以上待たせるわけにはいかない。
それに、南陽が心配だ。
そうして、俺は去っていく彼らを目で追うことしかできなかった。
※ ※ ※
「大丈夫か、南陽?」
「……………………ああ、問題ないぞ」
「……………………大丈夫そうな顔には見えないけど?」
「気にしないでくれ。あったのは、ただの家族のすれ違いだ」
「……………………」
南陽の表情は少し落ち着いたけど、まだあの表情が残っていた。
調子が悪いのも丸見えだった。
でも、俺は何も言えなかった。
何も相談に乗ってあげられなかった。
何かつらいことを背負っているとわかっていたのに。
『気にしないで』の言葉もただの虚勢に過ぎないとわかっていたのに。
南陽が何に苦しんでいるのかわからなくて。
何があったのかも知らなくて。
言うべき言葉が見当たらなかった。
ただ、「またな」と別れの挨拶をする南陽に、「…………ああ、また」と言葉を返すだけで。
つぐもと莱夏と一緒にいるのに帰り道は落ち着かなかった。
南陽のことが心配で、頭から離れなかった。
――――数日たって、森ノさんから、ターゲットを見つけたと召集がかかった。
アイツだって呼ばれているはずだった。
けれど、南陽が俺たちの目の前に姿を現すことはなかった。




