二十四話『俺と示杞の問題』
「……………………ああ、来たんだね」
俺が示杞の元に少し寄ると、示杞は徐に立ち上がる。
「――――ごめんっ!!」
一瞬の沈黙を経て、俺たちは同時に同じ言葉を放った。
俺も示杞も最初に言いたいことは同じだったのだ。
俺たちはちょっと戸惑ったけど、なんだか少し笑ってしまった。
こんな大事にまでなって、まず言いたかったことが何の変哲もない、単純な謝罪で。
だけど、これでよかったのかもしれない。
俺たちにはわかり合える機会があまりにも少なすぎた。
「わかっているさ。君が悪意をもってしたことではないと」
「示杞…………」
「だから僕も謝りたかったんだ。こんな大事にしてしまったこと」
「俺も知らなかった、なんかじゃ済まされない。示杞の人生をむちゃくちゃにして」
「まあ、気にしてないって言うと嘘にはなるけど―――――」
「――――」
「君のような人で良かったとも思う」
「?」
「僕と向き合ってくれたこと。そして、敵対してたのに、助けるためにここに来てくれたこと」
示杞が柔らかい笑みを浮かべていて。
俺も苦しかった心が解放されていって。
そんな時間が必要だった。
「――――ほら。君と僕はすることがある。僕一人では無理だけれど、君が来てくれたおかげで希望が見えた」
「どういうことだ?」
けれど、そういう時間は長くは続かない。
俺たちにはすることがある。
「――――さあ、外に出ようか」
「できるのか? けど、どうやって?」
「ああ、体は一つしかないんだ。だったら奪い取るしかない」
「憑依の力で、か…………」
「とはいっても、君。無意識の時にしか憑依を使えないだろう。アレに任せすぎだ」
「?」
示杞の言う通り、俺が憑依を使えるのは無意識の時のみ。
そんな俺に示杞は若干呆れている様子。
だが、示杞の後半の言葉は理解できなかった。
「まあ、いい。対象が自分自身だと思え。今だったら君は示杞だ」
「え、でも――――」
それを察したのか、俺のすべきことが俺にもわかるように示杞は言い換えてくれた。
でも、示杞の指示には若干抵抗があった。
俺が示杞だと思うことは、昔だったら普通のこと。
だけど、今は俺が示杞でないことを知ってしまったのだから。
「つべこべ言うな。それしか方法はないんだ。僕も手伝うから」
「ああ」
けれど、本人直々の許可だ。やってやる。
「行くぞっ!」
俺たちは、精一杯力を捻出するように表にいるやつに抵抗する。
「っ!?」
その刹那、空間の上部から靄が雪崩れ込む。
それは廃校で示杞を覆っていたような靄。
一瞬にして、靄は俺たちを覆う。
押し潰されそうな感覚。
何が起きているかは、わからない。
「う、おお」
だけど、俺たちは示杞の体を取り返さないといけない。
これは、俺たちの問題で得体の知れない何かに任せていいものではないのだから。
だから、辺りが見えなくても、思いっきり体に力を入れる。
既に全身が限界に近い。
「辺りが明るく――――もう少しだ捻り出せ!」
示杞の言葉。
それが俺の背中を押す。
振り絞る最後の力。
「表に出るのは、俺たちだあああ!!」
その瞬間、靄の中から光が漏れだす。
そして、俺たちは光に包まれて、気を失った。




