二十六話『無意識の狭間』
彼を蹴りで吹き飛ばした女は、彼が飛んでいった先へと向かう。
「?」
彼が衝突した跡があるところまで辿り着いた時。
上空に何か上がっていく物体を見つけた。
「何を?」
彼が投げたものだということは察せた。
それでも疑問が残る。
「何故?」
意図が全くわからない。
白旗を揚げたつもりなのか。
もしくは罠なのか。
けれど、彼女は進む。
だって、戦力差は明白。
しかも、彼は致命傷を負っているはずだから。
「――――」
進んだ先で彼女が見つけたのは、散らばるコンテナに囲まれて、うつ伏せになって血を流している彼の体。
その姿を見ても、彼女は油断しない。
ゆっくりと近づき、慎重に彼の体を観察する。
「気絶して、いる」
意識はない。
明らかに彼女が有利な状態。
確かにそうなのだけれども、彼女はどこか安心しきれなかった。
「!? …………蝶?」
背後に感じ取った気配。
敵だと思って振り向いた先にいたのは、一頭の蝶だった。
※ ※ ※
コンテナヤードから少し離れた場所。
「なあ、ピチリ~。ゴビは大丈夫かな?」
彼を見送った南陽と桃李は少しして彼の心配をする。
「信じるしかないだろう。私は戦闘向きではないし、君は満身創痍だ」
「…………そうだな」
だが、今、戦える者は彼しかいない。
「何、心配するな。アイツはやるときはやる男だ」
だから、二人は彼を信じて、彼の帰りをここで待つだけだ。
※ ※ ※
少し閑散としたコンテナヤード。
女の前に一頭の蝶。
別に不思議な光景ではない。
「この、違和感」
けれど、女はその蝶に不自然さを感じていた。
蝶とはいえど、油断はできない。
蝶を警戒しながら、距離を取る。
「?」
だが、突如、感じていた違和感が消えた。
「ッ!」
その刹那、女の背後に新たな気配が現れる。
即座に振り返り、接近していた拳を受け止める。
攻撃を繰り出してきたのは、コンテナヤードの警備員と思しき人間。
何故か、女に襲い掛かる。
「――――」
そして、襲いかかってきたと思えば、警備員は脱力して意識を失う。
「これは……」
次は蜂の大群に襲われる。
時間が経つ、また動かなくなる。
異なる人間に襲われる。
そして、その人間の意識は途絶える。
「一体、何が起こっ、て――――」
――――女が数多の生物に気を取られている最中。
女の敵である彼の体がピクリと動く。
(上手くいっている…………っ、少しキツいが、あともう少し耐えれば)
彼は激痛が走る傷口を抑えて、少し体を動かしまた眠りにつく。
※ ※ ※
数分前。
拳銃をある方向に投げ捨てた俺は、ある装置を自らに身につけた。
ししおどし。
日本には竹に水を流し、その重さで竹を上下させる物がある。
それを応用した装置。
そこらに散らばっている材料をかき集め、竹の代用として、コンテナの水によりそれを上下させる。
それが向かうは俺の傷痕。
俺の能力には、一度憑依するといつ戻るかわからないという弱点がある。
ならば、自動的に憑依のトリガーとなるものを消してしまえば良い。
傷口を刺激し、無意識の状態を解除させる。
そして、元の体に戻る。
これは、捨て身の攻撃であり、最後の手段であった。
※ ※ ※
俺は十回、二十回と憑依し続け、ある場所に女を追い詰めていく。
――――コイツは一般人を攻撃するのも、不必要な殺生をするのも躊躇っている。
女が一般人や虫に憑依した俺に対してとる態度は、敵対よりも困惑が強かった。
俺たちに先ほどまで披露していた、俊敏性、攻撃力がなかったのだ。
思っているより悪者というわけではないように見える。
――――けど。
止めることはできない。
今、女を自由にすれば名織や桃李に被害が及ぶ。
――――悪いが今はここを切り抜けるときだ!
再びししおどし装置が作動するまでの時間を数える。
次が最後の憑依。
――――3、2、1――――0!
「今だ!」
元の体に戻った俺がいるのは、捨てた拳銃が落ちている場所。
拳銃を這いつくばりながら手に持ち、追い詰められた女に構える。
女は俺が最初にいた方向の警戒はしていても、移動した俺の攻撃を防ぐことはできまい。
引き金をかけた手は迷うことはない。
今は仲間たちを守るために。
決意を込めて。
その引き金を、引く。
繰り出された弾丸は、女の前で拡散し、網を放つ。
その名も電撃拘束弾。
放たれた網は対象を捕獲し、一時動きを止める。
そして――――
「う、あァ!」
その網には千花の能力のような作用――――全身に走る激痛、吐き気、目眩が女を襲う。
女は静止し、隙が生まれる。
そう。
「今だ!」
俺が女の体に取り憑く隙が。




