十八話『親友の目的』
俺と桃李は共通の何かをもっていた。
憑依する能力をもち、周囲の目を気にしていた俺と、生物の声が聞こえるらしい桃李。
桃李は周りのことは気にしていないかもしれないが、能力の異質さが俺たちを引き合わせたのだろう。
だけど――――
――――その桃李が今、俺の目の前にいる。
俺が問いただすべき研究者たちの住処に。
「嘘、だろ」
数少ない親友であった彼との敵対は、俺に大きな打撃を与えた。
「ゴビ、大丈夫か?」
「…………! あ、ああ。大丈夫だ」
けれど、立ち止まれない。
ここに来た理由は別にある。
――――俺にはやることがあるんだ。
親友との敵対など関係ない。
あの少女を助けられなかったあの日。
目の前で起きていることに何もできなかったあの日。
確かに彼は誓った。
――――俺は何としてでも、つぐもを元通りにしてやる。
※ ※ ※
桃李が小屋の中に戻ると、俺たちは忍び足で小屋に近寄る。
小屋のドアが開いているうちに、中へと忍び込み潜伏する。
(ゴビ、ここからは慎重にな)
(ああ)
小屋に入った目の前には、地下へと続く階段があった。
(なるほど。地上には、最低限の入り口だけ残し、重要なものは地下にあるってことか)
(そうだな。ゴビ、アイツにバレないように少し間を空けてから行くぞ)
周囲を入念に警戒しながら進んでいく。
足音を鳴らさないように。
ゆっくり、ゆっくりと。
そして、何事もなく階段を下りきる。
階段を下った先にあったのは、見覚えのある廊下。
――――ここは、確か。
俺がここに憑依したときに見た廊下だった。
覚えている。
ここの内部の情報は収集済み。
記憶を頼りに名織とともに廊下を進んでいく。
――――そして、この先に大きな扉があるはず。
俺の記憶であれば、桃李はあの怪しい扉の方へと向かっている。
ついていけば、何か手がかりが得られるはずだ。
廊下を見渡す限り、桃李以外に人は見当たらない。
桃李にさえ気をつけていればバレる心配はない。
(行くぞ、ゴビ。今がチャンスだ)
(ああ)
音を立てずに桃李の跡をつける。
そして、無事に大きな扉にたどり着いた。
桃李がカードのようなものを、扉の前の機械に当てる。
その刹那。
俺たちの体を震わすような地響き。
何かがずっしりと動いているような音。
(…………!)
動きそうもない巨大な扉が少しずつ開いていく。
ただ事ではない光景。
だが、桃李はそれを見ても何事もない様子で先に進んでいった。
俺たちも続いて忍びながら、ついていく。
扉の先は円状で開けた場所。
上はガラス張りになっていて、大空が見える。
下は広場のようになっていて、ここはそこへと向かう階段があるだけだった。
桃李は階段を下り、黒髪の風格のある女性に話しかける。
その様子を俺たちは階段の陰から覗く。
「桃李、戻ったか」
「ああ。外に異常はない」
「フッ。異常はない?」
「?」
「――――――では、階段にいるあやつらは何だ?」
「!?」
彼女がその言葉を発した途端、俺たちに激痛が走る。
「う、あ…………こ、れはッ!」
「ぐっ…………」
感じたことのある痛み。
忘れるはずのない、目の前が歪むような連綿と続く苦痛。
――――何も、されてない。触れられても、ない。視界にすら映っていないはずなのに……!
俺が推測していた弱点は彼女にはなく。
動くことさえ許されない。
――――気絶す、るな……! そうしたら戻ってこれない!
耐える。ただそれだけしかできなかった。
「奴らを捕らえよ」
彼女の仲間らしき人影が近づいてくる。
抗わなければならないのに、視界がぼやけて拳は当たらない。
――――ま、だ、全然……を救えて、ないのに。
腕を掴まれてどこかに運ばれる。
足の感覚はなく。
近くに名織がいることさえ確認できない。
ただなされるがまま時を過ごすことしかできなかった。
――――あるところに体を放り投げられて、鍵を閉める音がした。
痛みがようやく引き、視界もはっきりしてきた。
目の前は頑丈な鉄格子。
「ッ! ……くそっ」
「…………示杞」
「っお前!」
俺に話しかけてくる声。
鉄格子を通して、俺を見る桃李。
「桃李! どうしてこんなことを!?」
俺は鉄格子を掴んで訴える。
「どうして? それはこっちの台詞だ、示杞。まさか、奴らに加担してたとはな」
「加担? 俺はただ、つぐもを救いたいだけだ! お前らを止めないといけないんだよ!」
「つぐも?」
つぐも。
その名前を聞いた瞬間、桃李は呆然として、少し距離をとり、頭を整理するような素振りを見せる。
「少し、誤解しているようだ」
「……どういうことだ」
「示杞、私達は――――」
そして、再び口を開いた彼は、彼らの本当の目的を告げた。
「――――つぐもを救いたかったのだ」




