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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
一章「サーフェイス」

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十二話『予定通りのホテルにて』

 広々とした空間。

 冷たい風に、それをかき消すかのような熱気。

 そこにいる人々が皆、感情を抑えきれないかのように昂っている。

 彼らの前に立とうとする人影。


「我らは彼らを赦さない。我らは彼らと相容れない」


 人影は自らに語り掛けるように呟く。

 

「譲れないものがある。守りたいものがある」


 信念を(あらわ)にして。


「此度は必ず」


 目の前の壇上に一歩、また一歩と上る。


「――――皆よ。聞け」



 ※ ※ ※



 名織、綿さん、しいらと会った日から俺は夜な夜な作業しながらも、他には特に何も起こらないまま一週間がたった。


「さて、と」


 学校で疲れ果てた後の土曜日。いつもなら、家で休憩しながら作業をこなしているところ。だけど、今日だけは違う。

 眩しい日の光に照らされながらも、ある建物の前に立つ。


「よし、15時半。時間は問題ない」


 何の変哲もないホテル。

 そのホテル自体は然程重要ではない。

 大切なのは、そのホテルが建てられている場所だ。


「――――久しぶりだな」

「? お前は……」


 ホテルを前にして、肩をトントンと叩かれる。

 俺が振り向くとそこには一人の男がいた。 

 中学時代の俺のたった二人の友人の一人にして、無類の植物好き、植木桃李(うえきとうり)


「ここに入るのか?」

「……ああ、そうだ」


 ホテルに入る事情は憑依が絡んでくるけれど、桃李には話しても問題ない。

 既に桃李には憑依のことを伝えている。

 俺と桃李の境遇がどこか似ているような気がしていたからだ。

 とはいえ、つぐものこととなると話は変わってくる。

 いたずらに話して心配させることは避けるべきだろう。

 出来るだけ嘘はつかないように、なおかつ、つぐものことは触れないように。


「示杞、金がないとか言ってなかったか?」

「え、あ、いや」


…………。


 中学生時代の友人ということもあり、桃李は俺の金銭的な事情を把握済み。

 余程な理由がなければ、俺がホテルに行くわけもない。


「ば、ばバイトだよ! 高校生になったから、経験としてな! それでお金が手に入ったんだ」


 俺の苦し紛れの返答に少し考え込む桃李。


「――――そうか。バイト中に寝て憑依しないようにな」

「あ、ああ」


 なんとか誤魔化せたようだ。

 実際はお金はギリギリだけど、気を取り直してホテルに入るとしよう。



 ※ ※ ※


 

 ホテルでチェックインを済ませ、部屋に荷物を置く。

  

「ふぅ。ようやく一息……」


 早速ベッドに腰を掛けて一休み。


「ふむ。中々の部屋だな」

「!? 何でお前が!?」


…………しようと思ったんだけど、どういうわけか、俺だけのはずの部屋に桃李がいた。


「何、『声』が聞こえてな」


 桃李が話す、ここに来た理由。

 それは中学生のころと変わらないようだ。

 本人曰く、生物の声が聞けるらしい。


「…………?」


 だが、辺りを見渡してもパッと見、生物が見つからない。

 ここにいる生き物がいるとすれば、微生物サイズだ。

 微生物サイズの生物の声を聞いているなら桃李自身の生活に支障が出るはず。

 だから、桃李が生物の声を聞いているというのは少し妙。


「ここには桃李が聞いたという声の持ち主らしいやつはいないぞ」

「なるほど。勘違いか? いや、だが示杞。まさかな?」

「どうした?」

「その、なんだ。お前から声がするんだ」


――――俺から声が? それって……。


「だから、もしかして――――」 

「示杞だにゃん♥」

「すまん帰宅する」

「せめて何か言って!!」



 ※ ※ ※



 そんなこんなで、誤解が解けたのかわからないまま、桃李は去っていった。

 ここに居るのは、俺一人。

 桃李が来たのは想定外だし、何であんなこと言ったのか自分でも不思議だけど。

 場所、時間――――必要な条件は全て揃った。

 他に邪魔する者もいない。


「さあ、『計画』を実行しよう」


 俺は全身の力を抜いて、ふかふかなベッドに倒れ込む。

 そう、『計画』とは『寝る』こと。


 俺は枕に頭を乗せて目を瞑る。

 つぐもの記憶を必ず取り戻すというやる気。

 今はその興奮を抑えながら、万全の準備を整える。

 あの山に研究所があると信じて。

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