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異世界人との相互接触を終えて

スライムに関しての謎明かしです。

人によっては蛇足かもしれません。脳内で楽しみたい方などはブラウザバック推奨です。

***

20/5/25 続編に沿うように一部改変しました。

 俺を保護してくれたミハルがハルカという男と仲良くなり、公園に行くことになったらしい……その台座があるという場所は、『ここから呼んでね』と俺をとばした人間から指定された台座がある、転移座標ではないか?

いつ帰れるのかと機会を窺っていた俺に、最大の好機が訪れた訳だ。




 俺をダンボールと呼ぶ箱に入れ、隣に置いていたミハルはハルカを待っていた。その隙を狙って箱から抜け出し、俺は地を這う。じりじりと進みながら、魔術で声を通す為に路を想像する。そして目当ての魔力を見つけて問答無用で繋いだ。魔獣は魔法陣無しに魔術が発動できるから便利だな。

「キュルキュー! キュルキュー!」

《助けろ! 帰してくれ!》

 と声を上げたつもりだったが、実際はスライムの鳴き声になった。異世界人には鳴き声では通じないだろうが、あのクソ男なら解析できるだろうと踏んでいる。というか出来ずに『わかんない』とか抜かしやがったら殺す。

『その声はティタスかい?』

 路ごしでも分かる寝惚けた声に殺意が一層燃え上がるのを感じたが抑える。あいつは気分屋だから、機嫌を損ねると異世界生活が長引きかねない。さすがにこれ以上優しい飼い主(ミハル)の手を煩わせる訳にはいかないだろう。声が聞こえると同時に光りだした台座を見上げる。

《そうだ!》

『生きてたのか、よかった! 異世界旅行は楽しかったかな?』

 ふざけるなと怒鳴りたい。キューキューとしか鳴けないスライムの姿であったことが初めて幸いした。

《おかげさまでな! おい、この魔術バカ! 俺を運んでくれるよな?》

 腹が立つことに性格はともかく魔術の腕は一級品だ。世界有数の魔術師であるこいつにしか異世界間での召喚なんぞ出来ない。


 さっさと移動したいが、足が無いこの身体は動きづらい。しかし台座に触れさえすればむしろ登りやすい柔らかさだ。少しずつ進んで行く。

 やっと天辺にたどり着いた時にふとあいつの性格を思い出す。疲れたから旅行に行きたいと言った俺の部屋の入り口に、罠のように異世界への転移陣を設置していたというひねくれ加減を。

 一応注意しておく。

《俺の肉体の側にだぞ》

 苦笑する気配と共に

『念を押さなくてもさすがに二度目の旅行はさせないよ……それじゃ喚ぶよ? 待っててね』

 という声があり、路が切られる。


 ……だいぶ疲れてしまった。いや、彼女との生活は中々に楽しかったが。しかし、それとこれとは話が別だ。あいつにはきっちりと文句と説教をつけておこう。


 ……おっと。世話を見てくれた彼女らへの礼を忘れる所だった。人として感謝の気持ちは忘れずにしておきたい。ミハルの、どう見ても奇妙な生き物である(スライム)に食事を与えてくれる優しさは、類を見ないのではないだろうか。

《感謝する。それではな》

 一声鳴いた後、肉体がこねられるような慣れない感覚に身を任せた。




「お帰りーティタス」

「……ただいま」

 むっつりとした表情である自覚をしながら俺は返事をした。にこやかに返事など出来ない。俺は疲れているんだ。

「ああ、肉体の管理はしてくれていたんだな」

 身体はどうなったかと自身を見下ろし確認するとローブの男――ロードがへらりと笑う。今回の()()の犯人だ。

「まーね。魔術でキレイにしてただけだけど」

「それで十分だ……鏡はあるか? 髪伸びてる気がする」

「そんな高価で洒落たものボクの部屋にある訳ないでしょ」

 白いシャツに黒いズボンといったシンプルな格好の俺はソファから慎重に起き上がる。なにせスライムという手足のない生き物として生活していたから、感覚が上手く掴めないのだ。

「なら液体でもいい。俺の姿が映るものを」

「んー……あ、そこの机に器があるでしょ? 入ってるのは薬だから触らないでね」

 立ち上がることが出来たのでごちゃごちゃとした机を覗きこむ。


 器に入った液体は幸いなことに無色透明だった。埃が積もっている様子も無く顔がよく見える。

 金色の短髪に緑の瞳。頬が少し痩けている気がする。

 俺は眉間に皺を寄せた。

「おい、ロード。痩せてるんだが。あっちに行ってどれくらいの時間が経った?」

 うーん、とロードが目線を宙にやる。

「十日くらい?」

 時間の差は気になるから要研究かな、とつぶやくロードに苛立ちを覚える。が、罵詈雑言を並べたてようと耳に入れさえしないことはこの数年の付き合いで分かっている……そして、この慣れと理解が周りに対として扱われる原因だとも。

「……そうか。ならばこの俺の情報はぜひ、勇者を召喚する為の研究に役立ててくれ」

 せめてと皮肉を言ってみるが

「そうするね。どうやら勇者にふさわしい魔力とか性質とかを持つ人間、チキュウに多いみたいだし。たぶん今回のボクと君の体験は国を揺るがすよ」

 と平然と述べた。国に貢献出来て嬉しいかぎりだとも、ああ。


 面倒ごとの予感をひしひしと感じつつも、ロードの発言で返したい恩を思い出した。

「世話になったあっちの世界の人間二人に魔晶石を送りたいんだが、手伝ってくれるか?」

「そんな高価なものあげるの? 律儀だねー……うんいいよ。後でお金返してくれるなら今すぐ渡せるよー。魔力込める前のやつ」

「助かる。ところで一方通行だったが彼女らの言っていたことは理解できたし、お前の魔術の構成は中々よく出来ていたと思うぞ」

 異世界に行くまでの過程は置いておいて、彼女らの名前を聞き取ることが出来た為、魔晶石に名を彫ることが可能なのは運がいい。

 とある鉱石と魔術を掛け合わせて作る魔晶石は苦労に見合った美しさと耐久性を誇る。その為贈り物としてよく渡されるが、魔晶石を作るには器用さも魔術の扱いも俺には足りない。おだてておこうとロードを褒める。

「当たり前でしょ僕なんだから。でも、乗せられておいてあげる。本とか喚び寄せてニホンゴ少しは書けるようになったから、手紙書くのも手伝えるよ。ただし今は魔力がまんまり無いから込めるのは自分でやってね」

「ありがとう」

 本なんかを喚んでいたのかお前、とは今更な気がして言わなかった。


***


 徹夜で作り続ければ、魔晶石で出来た二つの腕輪と直筆の手紙は完成した。腕輪は少ない魔力を絞って両方とも自分の魔力だけを注いだし、手紙は知らない言語を書いた。術を組んだのも文字を教えてくれたのもロードだが、俺は立つのもやっとだ。

 今すぐにでも倒れ込みたい衝動と闘い、部屋にあった上等な布から作られた巾着に腕輪二つと手紙を放り込む。そして紐で縛ってロードに手渡す。

「がんばったね……というか君、ボクの部屋に素の魔晶石と研磨する道具と羊皮紙があってよかったね。すごい幸運だと思うよ?」

「そうだな……おまけに彼女らの言語を書けるお前がいたし。運がいい」

 大きなため息をつき、ロードに目をやった。

「あっちに送ってくれるか?」

「ちょっと待って」

 彼は先程から書いていた魔法陣を手にし、何事かを口中でつぶやく。一瞬輝いたと思った時には袋が消えていた。

「はい、これで届いたよ。座標は君の面倒を見てた女の子の部屋にしちゃったけど、よかった?」

「問題ない。彼女なら気味悪がることも無くあの男児と開封してくれるだろう」

「なら、それも運がいいね。君があの部屋にいたから座標を打つのが楽だった」

「魔術のことはよく分からんが……今回のことが多大な幸運で起こり、解決したことだけは分かる」

「ま、そうだね。こんなにすんなり一件落着したのは運だね。魔晶石があっさり作れたことも、手紙が書けたことも、仲良くなれる人材に拾われたところも」

 一仕事終わった安堵からか、強い眠気が襲う。

「すまんロード、ここで仮眠を取らせてくれ」

「どうぞ、ボクも寝る」

「もう彼女らには、会えないだろうか……」

「そりゃあね……たくさんいるからね……」

 寝言のようにいくつか言葉を交わし、眠りにつく。

 

 まさか数年後に成長したミハルが勇者として召喚され、ハルカが魔王にさらわれるとは思いもよらずに。そしてその時にただの一介の騎士である俺がハルカとともにさらわれるなんて夢にも思わずに。

 俺は泥のように眠った。


***


 ところで後日。俺は自分が本当に運が良かっただけであることを知った。

「そう言えば聞きたいことがある。公園のオブジェが無くなっていると彼女らが言っていたが、それは俺が転移したせいか?」

「うーん、まあそうかな。あのね、魔術ってのは基本的には等価交換なんだよ。知ってるよね?」

「それくらいはな。ということは俺がスライムとしてあっちに行くときに代償として消えたってことか」

「そういうこと。あんまりにもちょうどいい大きさだったからね。あの場所には人間も少なかったし、都合がよかったんだ」

 うん? ならば帰ってきたときにオブジェは元に戻ったのか? そうじゃないと辻褄が合わないだろう。

 口に出してなかったはずだがロードは察したらしい。

「元に戻ってないと思うよ」

「……どういうことだ」

「魔力をむりやり等価交換したから。えっとね、君が異世界に行ったときって、魔法陣を使ったから僕の手を離れてたんだよね。だから魔力が足りずに向こう(チキュウ)からものが無くなったわけ。ま、君を喚ぶいい目印になったから問題ないんじゃない?」

 問題は大ありだと思うぞ。

「でもさ、魔法陣って事前準備がすっごく大変なんだ。んで、今君が帰って来る時は簡単な陣と呪文を使ったから魔力が大量に必要だった代わりに何も無くならなかった。という訳で、行きは異世界からとって、帰りは僕の魔力からとったってこと」

 つまり、こいつの魔力で補えたものを、行きはイタズラの為だけに異世界の物体を消した訳か……

「ふざけるな! このバカが!」

「あはは、ごめんねー。人間を運べるのか試しておいって国王さまに言われてたしー。実際当初の予定では魔力は足りるはずだったからオブジェが消えると思ってなかったしー」

 つまり初実験が俺だった訳か……?!

 もはや俺は怒りなど無く、ただひたすらに今生きて帰って来られた強運を噛みしめた。

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