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女子小学生と異世界との今後の付き合い

 後日。三日経って頭がスッキリした俺は“やはりあのオブジェは異世界のもの。スライムはうっかりこの世界に落ちてしまって、かたちを保てなくなって石に変形し、なんらかのきっかけで元の姿に戻ったところをみはるちゃんに捕まった。台座は魔法を使うための媒体。そしてあの日のあれは異世界へ帰る儀式的なものだった”という説を調査するために公園へ向かった。すると

「あ! はるかさん! こんにちは!」

「こんにちはみはるちゃん。あっついのに元気だね」

 半袖短パンの彼女がいた。髪はポニーテール。暑いもんな。俺? 学校帰りなので白シャツに黒スラックスです。暑い。裾を捲りたいけど、母さんが皺になるから止めろって怒るんだよなー……じゃなくて。

「なんで公園に? ブランコくらいしかないじゃん」

「はるかさんが来るかなーって」

「……もしかして昨日と一昨日も待ってた?」

 それならばなんという申し訳なさ!

「ううん今日だけ!」

 よかった!

「俺になんか用あった? 忘れ物とか?」

「ううんースライムからの贈り物を渡したかったの」

 はい?

「スライムからのって……異世界から届いたの?」

「わからないけど今日朝起きたら机の上にあったの! 見てないから一緒に見よう!」

 おおう……なんといい子だろうか。俺のために見らずにおいてくれて、しかもこの暑い中待っててくれたなんて。俺なら好奇心に負けて見ちゃうよ。


 彼女はすたすたとベンチの方に歩いて行く。今気付いたけどベンチの上に赤いランドセルが置いてあった。みはるちゃんはカチャリをそれを開け、上靴袋っぽいものを取り出した。話の流れから贈り物だろうけど、普通の赤い布に見えるし特別感はないな。

「これだよ」

 と彼女は袋を揺らす。

「カチャカチャって音がするからプラスチックの何かが入ってるのかな?」

 確かに金属の音ではないが異世界にプラスチックってあるのか? それにプラスチックほど音が軽くないような……

「危ないといけないから俺が開けるよ」

 別に中身が気になるからだけじゃないから! 危険物入ってるかもだから!

 心の中で言い訳しつつもしゅるりと開ける……んー、紙と二個の腕輪、かな?

 とりあえず、A4くらいの紙を丸めて紐で留めてあるものを取り出す。

「こんなの入ってたよ。もう一種類あるけど先にこっち見ていい?」

「いいよーいっしょに見よう!」

 うーん、紙って言ったけど触った感じざらざらしてるし普通の紙より硬い。もしかしてこれって羊皮紙だろうか。

「……書いてあるのって『せわになった』『ありがとう』かな」

「たぶんな」

 紐をほどいて広げてみると、それにはミミズののたくったような日本語が書かれていた。暫定羊皮紙の端には何語か判別できない文字列。もしかしたら文字でもないのかもしれないが、なんとなくスライムの名前だと思えた。

「このはしっこの文字さ、スライムの本当の名前かな?」

「みはるちゃんもそう思った? 俺も名前かなって気がする」

 同じことを考えてたのに驚きつつ返すと彼女は目を細めて笑った。そして

「まだ入ってるよね?」

 と袋を探り二つの腕輪を取り出す。

「なぁに、この青い透明なブレスレット。すごくきれい!」

 向こうが透けて見えるほど透明で、スライムの水色を濃くしたような、ちょっとポエミーに言うなら今俺の上にある空のような深い青色だ。

 継ぎ目はなくつるりとしている。両方とも幅は二センチくらいだが輪の太さが違う。俺の勘違いや自意識過剰でなければみはるちゃんと俺の手首に嵌まりそう。

「あれこれキズが……んー、キズじゃない? さっきの紙にあった文字かな? はるかさん、わかる?」

「見せてくれる?」

 手に乗せてじっくり見ると確かに刻印が彫られてある。小さい方の腕輪にあるのも大きい方のもそっくりな模様だ。

「みはるちゃん、紙もちょうだい」

「はいどうぞ!」

 端にあるスライムの名前にカタチが似てる、ような……?

「ごめん、わかんないや。言語学者とかならわかるのかも。俺はどこの国の言葉かもわかんないや。異世界の言葉かも」

「ふーん?」

 赤い袋に羊皮紙と腕輪を入れてみはるちゃんに返す。

「はいどうぞ」

 大きい方の腕輪は俺のかなと思うけどさすがに“俺のな気がするからー”なんて言って小学生から奪うわけにはいかない。欲しいけど。

 葛藤しながらずいと袋を差し出すと、彼女は

「ありがとう」

 と受け取った後

「あれ? なんでブレスレット二つとも入ってるの? かたっぽはるかさんのだよね?」

 と首をかしげた。

 ……譲ってもらって嬉しいような情けないような。

 たぶん俺はぶさいくな表情を浮かべたと思う。それでもやっぱり好奇心には逆らえずに

「イタダキマス」

 と両手を広げる。羞恥に目を閉じて待っているとくすりという笑い声と共に手にひんやりとした重みが乗った。

「大きい方どうぞ」

「ごめんな……ありがとう」

 手首に嵌めてみると少々大きく、肘の方にちょっと寄ってしまった。体温がじんわりと奪われる感覚が心地いい。

「冷たくて夏にちょうどいいな」

 俺の言葉を聞いたみはるちゃんも腕輪を嵌める。

「確かに気持ちいいね!」


 ニコニコと笑い合っていると、ふとみはるちゃんがベンチに駆け寄って赤いランドセルを背負った。

「そういえば今日は宿題があるから帰るね! またね、はるかさん!」

 ぶんぶんと手を振る彼女に

「じゃあなー」

 と挨拶をする……おお、走って帰ってる。この暑い中よく走れるなぁ。

「俺も帰るかな……じゃねえ!! 本来の目的を忘れてた!!」

 そうだったそうだった。この公園には俺の妄想を検証しに来たんだった。


「オブジェは……あるけど、水色の球はないな! やっぱりあれは元々スライムだったのか!?」

 ぶつぶつ呟く俺は手首に異世界アイテムを装備し、妄想を垂れ流す。スライムが存在したのだから魔法とかがあるハズ! とりあえずオブジェをじっくり調べよう!


 すごく短い間の不思議な体験。水色ぷるぷにのスライムと、その飼い主である小学生の女の子。

 またみはるちゃんと遊べるだろうか。

「超常的な体験を共にした仲としてはこれからも交友を深めたいなーなんて」




 笑っている俺は知らなかった。

 みはるちゃんがあんな本を借りるに至ったのは今までに何度か異世界からの動物を拾っていたからだということ。

 スライムの存在を隠そうとしていた相手である彼女の母親は、娘が人や人外に世界を越えてもやたら好かれるのを知っていたということ。

 そんな娘の特性を心配している母親が、娘といられるほどの好奇心と体力と常識を持ったお目付役を探していたこと。

 俺はうっかりお眼鏡にかなってしまい余りある好奇心を満たせる愉快な生活を送れること。


 そして十年近く経った頃、外見があんまり変化しなかった俺はアクティブなかわいい系女子高生となったみはるちゃんの異世界召喚に巻き込まれること。

 彼女が特性を遺憾なく発揮し、元スライムな男騎士と友人になったり逆ハーレムを築いたり百合百合していたりする間になぜか俺が魔王にさらわれること。

 四捨五入したら三十路な俺をチートな彼女が助けに来てくれること。


 すったもんだあった後、お姫様抱っこされたものの二人とも五体満足に地球に帰って来れること。

 更にみはるちゃんの家族の前で彼女に告白されること……俺は本当は彼女を助け出す側になりかっこよく告白したかったこと。


 知りたがりな俺は今はまだ、何も知らない。

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