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女子小学生とのファーストコンタクト

「うーん……!」

 手にしていた本を棚に戻したとき、呻き声をあげる子どもの姿が目に入った。どう見ても身長に見合ってない高さの本を取ろうとしている、たぶん女の子。髪がまあまあ長いし。身近に子どもがいないから性別に確証が持てない。

 暗い色のティーシャツに膝丈ズボンを着てるけど女の子だろう、なんとなく!


 呻き声をあげているからだけでなく、あの子が気になったのにはもう一つ理由がある。

 ここは住宅街の中にある図書館なのに、こどもウケの悪そうなちょっとマニアックな本も置いてあるからだ。俺はそんなところがお気に入りだけど。

 そういう特色があるため、小学生ぽい子が好んで借りるような本は少ないのだが……まあいいや。

 普段の放課時間では小学生とは会わないので新鮮に思い、親切心を発揮してみた。

「俺が取るよ」

 何気なく近づいて本を取ってやると、

「あ、ありがとうございます」

 びくっと震えたのち、不信感まる出しで感謝を述べられた……どうして俺は見ず知らずの小学生らしき女の子に睨まれているのだろう……

 優しさのつもりだったので軽く落ち込む。理由のある冷たさだといいな。俺が報われないじゃん。


 悲しみながらなんとなく彼女を見ると、『動物の飼い方』『生き物図鑑』に紛れ、先ほど俺が取った『モンスターの召喚方法~黒魔術での召喚~』を両手に抱えていた。

 ……いや何その本!?

 いつの間にか去ろうとしていた小学生を呼び止め、

「なんでそんな本借りてるの? モンスターは動物とは違ういきものだよ」

 と言ってみると、小学生はこちらをじっと伺うように見てきたあと

「……話、きいてくれる?」

 とささやいた。

「う、うん!」

 何が聞けるのかと俺は思わずうわずった声を上げたが、幸い気にされなかったようで

「なら、こっちに来てください」

 手招きしながら人のいない専門書のあたりに進んで行く。

 本棚の中身が何の本なのかわからなくなってきたころ、ようやく小学生はこちらを向いた……そういえば本は重たくないのか……?

「ナイショバナシだよ? お兄さんひみつにできる?」

 疑いの目を向けられた。しかし、話してくれそうな雰囲気があるので、なんだかんだ秘密を共有できるのが嬉しいのかもしれない。

「もちろん」

「ホントかなぁ。オトナはうそを言うから……そうだ、問題を出します!」

 ひらめいた、というように顔を輝かせる。ほほえましい気持ちになった俺は首を縦に振った。

「えっと、スライムはどんな姿をしている?」

 ……えーっと。スライムってあれだよな? 国民的ゲームのドラなんちゃらクエなんちゃらに出てくる水色プニプニのあいつだよな? そんなの誰でも知ってると思うんだけど。それとも最近の子どもはあのゲームを知らないのか? それとも何か深い意図があるのか? 引っかけ問題か?

 ぐるぐると考えるがとりあえず素直に答えてみる。

「青くて透明でプニプニ?」

 間違ってたらどうしようなんて考えながら恐る恐る出した答えは、どうやら正解だったらしい。彼女はたれ目と小さな口をまんまるにした。

「あたりだ……! お兄さんすごい!! スライム見たことあるんだ!!」

「え? いや、見たことはない……」

「もっとよって! 耳近づけて!」

 慌てて否定したが小学生の耳には届かなかったみたいだ。とりあえず彼女の言うとおりに腰を屈めて耳を近づける。

「あのね、わたし、スライム飼ってるの」

 ……は?

 俺は彼女にスライムは現実にはいない、と教えようとしたが、本当だったらすごく面白いし、真偽はともかく気になるので話を聞くことにした。ぶっちゃけると好奇心に負けた。

「あ、名前教えてなかったね! わたしの名前はみはるだよ!」

「俺は遥」

 ……それにしても。

「はるがいっしょだね!」

「はるはるだなあ」

 俺と彼女は顔を見合わせてちょっと黙ったあと、クスクスと笑い合った。

「えーっと、みはるちゃん。スライムを見せてもらってもいいか?」

「はるかさんならいいよ! でもひみつにしてね? 約束!」

「りょーかい」

 さんづけで呼ぶなんて育ちがいいのなあ。それとも小学三年生くらいに見えるけどもうちょっと上なんだろうか。


 そういえば、と彼女が今のいままで厚い本を何冊も抱えていることを思いだし、代わりに持ってあげる。

「あっ、はるかさんありがとう!」

「どういたしまして。むしろ今まで持たなくて悪かったよ」

 専門書の棚や料理本の棚を通って図書館のカウンターへ向かう。そこで本を借りる手続きをして、俺たちは外へ出た。


***


 俺は本が入った袋を持ち直し、シャツのボタンを一つあける。

「もう夏だなあ。あっちいー」

「わたしも暑い! あのね、スライムがとけたらどうしようと思って本かりたの! 暑いのがニガテかなって思って」

 うーん、本当に存在しているのかはともかく。

「みはるちゃんは優しいなあー」

「わたしはスライムの飼い主だから」

 照れたように彼女は笑う。ひらりと風が吹き、みはるちゃんの肩くらいまである黒髪が揺れた。


 ……今気づいたが、小学生女子と一緒に歩く高校生男子っておかしくないか? 誘拐とか思われてないよな?

 そう思いついた瞬間、周りにいる人びとがじろじろとこちらを見ているという妄想が俺の頭を駆け巡った。道行く人なんていないから視線なんて存在しないけどな。

 突然挙動不審になった俺にどう思ったか、みはるちゃんが

「手つないでー」

 と言ってきた。

「は!? いやさすがにそれは不審者ギワクが発生するというかなんというか」

「お兄ちゃんってこんな感じかなぁ?」

 ぴたりと黙る。

 ああ、はい。兄、ね。そうだよな、普通に考えて兄妹に見えるよな……

 多大な疲労感を覚えながらも彼女に手を差し出す。みはるちゃんは俺の胸くらいの身長なので手を繋ぐのは難しくない。

「はいどうぞ」

 と手を差し出すと彼女はにへら、と笑って手をつかむ。

「はるかさん背ひくいねー」

「いやいや俺はまだ成長途中だから。みはるちゃんが背高いだけだから!」


 そのまま歩きながら、手ぇつなぐのなんてめちゃくちゃ久しぶりだなあとぼんやり考えた。

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