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第二十五章

「武装が必要だと思われます」


 今にもドアから出ていきそうなアンダーソンを見て、キャシーは慌てて言った。ケルビンとアンジーはそれぞれライフルを所持していたが、その他の全員は丸腰だった。「何が起きるかわかりません」と続けたキャシーは、同意と助言を求めてケルビンを見た。ケルビンは「懸命な策だな」とドアにもたれかかったまま頷いた。


「武装するって言ったって、誰も武器を扱った経験なんてないんだよ」


 二人の会話を聞いていたビートルは久しぶりにそう発言する。そしてそれは事実で、キキもキャシーの案を聞きながらどうしたものか考えていた。「今からトレーニングする時間もないし」とアンダーソンが付け加えるが、「何もないよりはマシではないですか」とキャシーは再びケルビンを見た。ケルビンは顎に手を当てて髭を撫でていた。


「何もないよりはマシ、というのは確かだからな。簡単な拳銃を手に入れよう。店は知っている」

「あなたもついてきてくれるの?」


 ケルビンを見て、キキは目を丸くする。ケルビンが一番この事態に関係がない人間だったからだ。ケルビンは顎の髭を撫でる手を止めて、ふとアンジーのほうに顔を動かさずに視線だけをやると、キキを見て「あのお嬢さんが心配でな」とぶっきらぼうだが感情を隠したような声で言った。キキは一度アンジーを見てから、今度はビートルを見た。ビートルはキキが何かを聞く前に、「どうせ手持ち無沙汰なんだ」と両手を開いてみせた。結局、その場にいる全員がドクトルとランバートの捜索に出ることになった。

 ケルビンから武器屋の場所を聞いたアンダーソンは、了解したとばかりに一団を先導した。その後ろにキャシーとアンジーが続き、ビートルが続き、キキとケルビンは最後尾にいた。キキは純粋に疑問を抱いていたから、一団から少し離れたところで「どうしてそんなにアンジーに肩入れするの?」と控えめな声で聞く。自分だったら、よく知りもしない人間のためにそこまで無理をしようとは思えなかったからだ。ケルビンは前を向いたまま、キキの方を見ることもなく「娘の面影を見てしまったもんでね」とあえて無感情に言う。キキはそれ以上何も追求しないことにした。不躾になりがちなキキにも、それが込み入った事情であることはよく理解できていた。

 『アミュニション・セントラル』という武器屋ではケルビンだけが店に入った。子供もアンドロイドも入り混じったとんでもない一団が入店してしまっては、説明が面倒になるだけだった。銃のためのディスクはキキとアンダーソンの持っていた分をかき集め、そこにケルビンが足してくれることになっていた。店から出てきたケルビンは大きな箱を持っていて、一同は人気のない路地に移動すると、一人一人ケルビンから銃と弾薬を受け取った。アンジーのライフルのように金属で出来たもので、キキにもすぐに構造が理解できるほど簡単なものだ。「粗末だが、素人が扱うならその程度がいい」とケルビンは箱を路地の隅に捨てながら、「弾薬は有限だ。一人六発。慎重に使え」と険しい顔で付け加える。その言葉にはキキだけが大きく頷いた。

 それからすぐに再びアンダーソンの先導で一同はロボットの発進地を目指した。『アミュニション・セントラル』は都市の真ん中にあったが、アンダーソン曰く「ここからそう遠くない」とのことで、実際一時間も歩かずに目的の場所に着いた。着いたのは真っ白で荘厳な石造りの大きな建物だった。横幅が広く、一部吹き飛んでいる屋根は三角で、大きな円柱がそれを支えるようにそびえ立っている。建物の周りはぐるりと黒い柵が囲んでおり、そこには半分しか残っていない看板がついていた。『ミュージアム』という言葉だけ読めたが、キキにはそれがなんのことかよく分からなかった。


「『博物館』という建物があったのです。古代から近代にかけた芸術作品などを陳列する場です」


 キャシーは建物を見上げながら言う。「でも、まさかこんなところに」とアンダーソンを見たが、アンダーソンは「間違いなくここだよ」と早速門を潜ろうとしていた。『博物館』の前庭は枯れ果てていて、門から建物へと続く石畳の道は不思議と無事で、整備されたままだった。『博物館』の玄関は二つあり、片方に『入口』、もう片方に『出口』の表札がついており、『出口』の表札はネジが一つ外れて傾いていた。どちらも割れたり欠けたりしてしまってはいたが木で出来た大きな二枚扉で、一同は表札に倣って『入口』と書かれたドアから博物館に入った。博物館の玄関は大きく開けていて、吹き飛んだ屋根のところから日の光が差し込んでいたが、一同がその精巧な作りの建物に感動する前に、玄関には男が立っていた。そしてそれは、ドクトルだった。


「やあ! 皆さんお揃いだね」


 ドクトルはいつもの調子で右手を上げると、キキの嫌いな明朗快活な声で挨拶をした。左手にはランバートを抱えており、キキは思わず一団の前に走り出ると、「ランバートをどうしたの」と叫ぶ。ケルビンとアンジーは背負っていたライフルを手に持ち替えていて、キャシーも腰に挟んだ拳銃に手をかけていた。「いやいや、どうしたってんだい。物騒だな」とドクトルは笑いながらランバートを持ったまま降参するように両手を上げた。


「ちょっと解析にかけさせてもらっただけだよ。気になることがあったものでね」


 ドクトルはにっかりと笑ったが、誰も銃を引っ込めようとはしなかった。「ランバートをを返して」と詰め寄ろうとするキキを、ドクトルは空いている方の右手の人差し指を立てて横に振る。「面白い話はここからなんだ」とドクトルは勿体ぶって言い、ランバートの首根っこを掴んでそれを一同に向けた。ランバートは四肢をだらりと垂れ下げていて、キキにとってそれは見るに耐えないものだった。


「私には長年追い求めていたものがあってね。それが辺鄙な街の機械工の元にあると知って、いそいそと出かけたわけだ。君のお祖父さんだね。でも君のお祖父さんは私の求めているものについて口を割ろうとしなかった。それがどんなもので、どこにあるのか、ということについてね」


 ドクトルは朗々と話し出す。キキは一瞬混乱したが、マーチンの言っていた『集団による犯行』という言葉が電流のように頭をよぎった。「あなたがおじいちゃんを殺したのね」と言ったキキの声はか細かった。キキは祖父の敵を目の前にして、爆発するような怒りも、号泣できるような喪失感も抱けなかった。すべてはなにかの膜を通して行われている寸劇かなにかのようで、ドクトルの口調や動作もそれに拍車をかけていた。「重要なのはそこではないんだ」とドクトルは言う。


「そこで私はランバートというこのロボットの存在を知った。見るからにどうにも怪しいロボットだ。旧世紀の技術に長けていた君のお祖父さんが作ったロボットにしてはあまりにも粗末だ。私はこのロボットにこそ秘密が隠されていると考えた。そして実際、このロボットの作りは複雑だったし、パーツはすべて旧世紀のレア物だった」


 一同の誰もドクトルの演説を止めようとはしなかったが、ケルビンとキャシーは険しい顔をしていた。アンジーは話に聞き入って思わずライフルの銃口を下ろしてしまっていて、ビートルとアンダーソンはそもそも事態を理解できていなかった。


「だが、これは私の追い求めていたものではないんだよ。これはデコイだったんだ。一見複雑そうだが、なんの秘密もない。お祖父さんが隠し立てしようとしていたのは、これではなかった」


 そしてドクトルはポケットから銃のようなものを取り出した。その動きにケルビンとキャシーが素早く反応したが、ドクトルは「これは銃じゃないんだよ」とあくまでも陽気に続ける。その機械からはレーザーが射出されていて、ドクトルがそれをアンダーソンに向けると、機械は『アンドロイドを認証』と言った。続けてそれがビートルに向けられると、『生体を認証』と言う。ドクトルはキャシーにも向け、『アンドロイドを認証』という言葉を聞くと、それを真っ直ぐキキに向けた。


 機械が、『アンドロイドを認証』と感情のない声を出した。

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