表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

第二十四章

 ケルビンの射撃は的確だった。ロボットはほとんどの部位をキキの知らない硬い金属で覆われていて銃弾は貫通しなかったが、首や腕の関節などは細く、動きの止まってしまった一体の首をケルビンが撃ち抜くと、ロボットはだらりと頭を垂れた。そもそもロボットの軍隊は散々弾を打った後だったので、そのロボットは幸いにも弾切れを起こしていたらしい。ケルビンは道路を渡ってこちらに向かってくると、断りもなくドアを開けて「大丈夫か」と皆を見回した。皆が恐る恐るといった様子で立ち上がる中、アンジーは「先生!」と小さく声を上げた。「どうしてここに?」と聞いたのはキャシーで、ケルビンは「ロボットの軍隊の話自体はアンジーから聞いていたんだ」と返した。


「それで家の外から変な音がしたから見てみたら、訳のわからんロボットが道を通っていってな」


 それでケルビンは怪しく思い、ロボットの後をつけてきたという。アンジーとキャシーはそれぞれ丁寧に礼を言うと、アンジーは続けてキキに「この人がケルビンよ。わたしのライフルの先生なの」と紹介した。キキは様々なことに戸惑ったまま少しだけ頭を下げた。「何であんなものに狙われてるんだ?」というケルビンの言葉に真っ先に答えたのはアンジーだった。


「キキはランバートという小さなロボットを持っていたの。なにか特別複雑なロボットのようで、彼らはそれを狙っているのよ」

「でもランバートはもうここにはいないんだ。それに、あのロボットたちは今度はわたしのことを狙っていた」


 ケルビンに言う、というよりは自身の頭を整理するようにキキは言う。「まだキキがランバートを持っていると思っているのではないの?」とアンジーは言ったが、キャシーは険しい顔つきだった。


「あのロボットのセンサーはもっと精密なものだと思います」


 キキはその言葉に頷いて同意した。アンダーソンやビートルは話についていけないといった様子で沈黙を決め込んでいる。「いずれにせよ、ランバートを取り返さなくては」とキキは真剣な顔で言った。「でも、ドクトルとそのロボットがどこにいるのかはわからないんだろう?」とようやく口を開いたのはアンダーソンだった。キキの修繕のおかげで、アンダーソンの口はちゃんと動くようになっていた。


「都市は広いよ。虱潰しに探しているんじゃ、何週間もかかってしまう」

「一つだけ手がある」


 キキは即座にそう返す。視線はケルビンが開いたままだったドアの向こうに注がれていて、道路で首を項垂れて動けなくなっているロボットを見ていた。その視線を追ったキャシーが、合点がいったとばかりにキキを見る。


「あのロボットを解析するんですか」

「どこから発進したロボットなのか、データは残っているはずだと思う」

「そんなこと出来るのかい?」


 アンダーソンはただただ驚いて言ったが、キキの顔はすぐに自信なさげに曇った。キキはプログラミングが苦手だったのだ。ましてや、恐らく相当複雑な構造であるロボットから必要なデータを取り出すなど、ドクトルがいなくては出来ない相談であるような気がした。その代わりに考え込んでいたのはキャシーで、放置されたドクトルのトランクを見ると、「あの端子はまだ残っていますか」とキキに聞いた。『あの端子』とは、ドクトルがキキをデイビッドから解放したときにキャシーに差し込んだ端子のことだった。「あると思うけれど、それをどうするの?」とキキはキャシーの言葉の真意を測りかねて聞いた。


「わたしにデータをロードしてみてください。これでも旧世紀のアンドロイドです。なにか分かるかもしれません」


 キャシーの申し出に、キキは答える代わりにドクトルのトランクへとすぐに向かった。トランクの中身は雑然としていて、キキは一つずつ中に入っているものを出していったが、この際ドクトルに気を使う必要がなかったので、キキはほとんど中身を周りに放り出していた。そのうちにキャシーに使われた端末が見つかり、キキは端末から必要な端子をケーブルごと取り外すと、「ロボットを運び込むのを手伝ってほしい」とアンダーソンとケルビンを見た。見るからに重量のありそうなロボットだったからだ。ケルビンは肩をすくめたが、それは承諾の合図だったらしい。ポーチを下りていくケルビンに動きの早くなったアンダーソンが続き、キャシーが「わたしも手伝います」と後に続くと、「おれも手伝うよ」とビートルまでもが続いた。キキはその最後尾についたが、アンジーは自分が荷物にしかならないことを分かっていたので、その状況をドアから静かに見守っていた。

 そして、ロボットはとにかく重かった。五人の力をもってしても引きずるようにしか運ぶことが出来ず、それをポーチに上げるのは至難の業だった。持ち上げるのは無理だと判断した五人はポーチを押し上げるようにロボットを運び込み、室内に入れた時点でキャシーとアンダーソン以外の三人は息切れしていた。「年寄りには響くな」とケルビンは誰に言うでもなく呟いた。

 ロボットを室内に運び込むと、キキはロボットの分解にかかった。どこをどう見てもキキの見たことのない構造で、ランバートのようにネジがついているわけでもなく、しばらくキキは試行錯誤を繰り返した。結局、見かねたケルビンが「首を折ってしまえばいいだろう」と言い出し、元々射撃されて穴の開いていた首の部分をなんとかこじ開け、そこを起点にロボットを分解することになった。一時間ほど格闘した末にどうにかロボットのメモリーを取り出すことに成功したキキは、今度はそれをキャシーに繋ぐケーブルに接続する。接続の準備が整ったところで、キキはキャシーを見上げて「本当にいいの?」と心配そうな顔で聞いた。データをロードしたところで、キャシーに不具合が起きる可能性もあるからだ。心配そうなのはアンジーも一緒だった。


「恐らく問題はないでしょう。ロードするのはメモリーだけですから」

「それ、ボクには繋がらないのかい?」


 キャシーを心配するキキとアンジーを見て、アンダーソンは思い立ったように言った。キキが驚いてアンダーソンを見ると、表情を取り戻していたアンダーソンは継ぎ接ぎの顔で胸を叩く。「キキちゃんにはお世話になったからね。アンジーちゃんの大切なキャシーを危険に晒すくらいなら、ボクが一肌脱ごう」とアンダーソンはさっさとドクトルの椅子に座り、「まあ、その端子が繋がればの話だけど」と茶目っ気のある仕草で言った。キキはアンダーソンを見て、「本当にいいの?」と先程とまったく同じ質問を繰り返した。アンダーソンは頷き、キキがキャシーを見ると、キャシーはアンダーソンに頭を下げていた。

 アンダーソンの首には、たしかにキャシーと同じプラグがついていた。キキは緊張しながらアンダーソンの首に端子を差し込もうとしてから、「最後のチャンスだけど」とアンダーソンの顔を覗き込んだ。それでもアンダーソンがただ笑って「ボクならきっと大丈夫さ。ソフトウェアの手術は一度受けているんだから」と請け合う。「じゃあ」とキキは意を決して端子を差し込む。差し込んだ瞬間にアンダーソンは大きく目を見開き、五分ほどまったく動かなかった。一同が緊張する中、アンダーソンは再びぱちぱちとキキの作った瞼を動かすと、「これはすごい。様々な知識が搭載されているね」と陽気な声を出したので、そこにいた全員が胸を撫で下ろした。


「ロボットが発進した位置も正確に記録されていた。ここを目指そう。ボクが先導するよ」


 元気に立ち上がったアンダーソンに、キキはなんとも言えない気持ちになりながら精一杯「ありがとう」と伝える。アンダーソンは腰に手を当てると、「キキちゃんに対するお礼はこれでも足りないくらいだ」と快活に言った。アンダーソンはそれから一同を見回し、「それでは、ランバートくんとやらを助けに行こう!」と大きく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ