表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/40

第十九章

 キャシーとアンダーソンがケルビンの家まで歩いて戻ったときには、夜も明け始めていた。ケルビンのアンダーソンに対する反応が分からなかったので、キャシーはアンダーソンに階下で待っているように指示をし、アンダーソンは素直にそれに従った。キャシーは建物の外に備え付けられた、錆で今にもステップが抜けてしまいそうな階段を慎重に上ると、灰色のドアを叩いた。たっぷり五分ほど間があって、ケルビンの「誰だ」という警戒した声が聞こえた。


「キャシーです」


 キャシーがはきはきとそう言うと、ケルビンはドアについていた細長い窓についた金属板をスライドさせ、そこから目だけを出して声の主が実際にキャシーであることを確認すると、ドアを開けた、というよりキャシーが滑り込めるだけの隙間を作る。キャシーはそこから身体を横にして中に入ると、「キャシー!」という聞き慣れた高い声が聞こえた。ケルビンの家に入るなり、アンジーはキャシーに向かって小走りで近づくと、その腰にぎゅっと抱きついた。


「キャシー、ごめんなさい。もう会えないかと思ったわ」

「いえ、謝るのはわたしのほうです。わたしは確かにあなたの気持ちを蔑ろにしていました。ごめんなさい」


 キャシーはアンジーを抱きとめ、頭を撫でながらようやく優しい表情で言う。アンジーは「いいの。わたしもわがままだったわ」とキャシーのお腹の部分に顔を埋めたまま言い、「でもね」と顔を上げた。


「先生が言ってくれたわ。わたし、結構才能があるのよ」


 アンジーは自慢げに言い、キャシーはケルビンを見た。ケルビンはその場で仁王立ちしたまま腕を組んでいて、「確かに教え甲斐のある子だったよ」とつっけんどんながら感心した声で言った。


「もちろん、本気でやりたいならまだまだ練習は必要だ」

「先生、わたし、ここに通ってもいいかしら」


 アンジーはケルビンを見、それから少し様子を伺うような目でキャシーを見た。ケルビンは「先生はいい加減やめてくれ」とため息をつきながら言ったが、ケルビンもまた許可を求めるようにキャシーを見ている。キャシーは二人を交互に見てから、「わたしは構いません。ただ、通うときにはわたしが必ずついていきます。それでいいでしょうか」とアンジーに聞いた。アンジーは満面の笑顔で頷くと、「そろそろキキのところに帰らなくちゃ」とキャシーを離れた。それから、部屋の奥から細長い銃を持ってくる。ケルビンのそれはところどころが木製だったが、アンジーが持ってきたものは錆び付いた金属製だった。


「先生に頂いたの。『ライフル』と言うそうよ」


 アンジーが自慢げに説明すると、ケルビンが「それを背負ってれば周りの人間も少しは日和るだろうさ」と付け足した。キャシーは「ありがとうございます」と少しお辞儀をして丁寧に礼を言うと、「それでは、また明日にアンジーを連れてきます」と言ってドアを出た。ケルビンは二人が出ていきやすいようにドアを手で抑えると、二人が階段を下りきるまでずっと二人の背中を見送っていた。

 階下ではアンダーソンが大人しく待っていて、アンジーはキャシーの予想通りぎょっとすると、すぐにキャシーの背後に隠れた。キャシーは「アンジー、彼は味方ですよ」とアンダーソンを紹介しようとする。アンダーソンはギィギィ音を立てながら「ああ、キミがアンジーちゃんか!」と嬉しそうな声を上げた。アンジーは顔の半分だけをキャシーの背後から出すと、「アンドロイドなの?」と小さな声で聞いた。


「今はね。そのうち、人間になるのが夢なんだ。キミの話は聞いてるよ、ボクはアンダーソン」


 ドクトルとはまた違った陽気さでアンダーソンが握手を求めると、アンジーは恐る恐るキャシーの背後から右手を出してアンダーソンの指の動作機構が完全に露出した手を握った。「それじゃあ、早速その機械工を紹介してくれるんだね」とアンダーソンはその場で足踏みでも始めそうな勢いで聞く。キャシーは頷くと、それでも信用ならないといった様子のアンジーとアンダーソンを連れて、ドクトルの家を目指した。ケルビンの家からドクトルの家までは、大体徒歩で三十分くらいかかった。

 ドクトルの家の前では、キキがランバートと一緒にポーチに座っていた。キキはアンジーたちを認めると、がばりと立ち上がって「あなたたち、何をしてたの!」と叫ぶ。キキはキャシーを説明を求めるように見たが、すぐにアンジーが背負っている謎の銃に気が付き、さらにアンダーソンを見ると、「本当に何をしてたの」と呆れ返った声で言った。


「いろいろあったのです」


 キャシーは何から説明するべきか分からず、精一杯の気持ちでそう言った。アンジーは背中の銃を指差して、「ライフルのお勉強をしていたのよ」と嬉々として言う。アンダーソンは少しもじもじしていた(ように見えた)が、「キミが機械工かい?」とところどころイントネーションのおかしい合成音声で聞いた。キキはアンダーソンを上から下まで見つめると、「大手術になりそうだ」と言った。


「それじゃあ、直してくれるんだね?」

「見たところ構造はシンプルだね。わたしにも直せる」


 キキはそう言うとポーチを駆け上がり、ドアを開こうとする。心底舞い上がっているアンダーソンを先頭に、キャシーとアンジーがポーチを上ろうとしたときだった。

 ブーンという低い羽音のような声が聞こえ、遠くから何かの団体が近づいてくるのが見える。アンジーにははじめそれがなんだか分からなかったが、キキとキャシーにははっきり見えていた。それは、ロボットの軍団だった。


「パレードか何かかしら」


 ロボットの軍団がかなり近づいてきたところで、アンジーが悠長にそんなことを言う。キキとキャシーは身構えていて、そしてそれは正しい反応だった。ロボットの軍団は、キキたちの前で静止する。皆この世界に不釣り合いなほどピカピカに磨かれた銀色の金属をまとっていて、足の代わりに大きな車輪が二つついていて、両手は銃口になっていた。本来目があるべきところには横に細長く赤いセンサーがついている。ざっと十体ほどのその軍団は、キキたちをしばらくじろじろと観察した後、ランバートに視線をロックして『目標を補足』と感情のない合成音声で言った。キキはその瞬間、ドアを大きく開いて中に転がり込み、動きの遅いアンダーソンをキャシーが押しながら、アンジーも続けて中に入る。その瞬間、ダダダダダッという間髪のない音がして、ドクトルの家の正面に一文字に銃弾が打ち込まれた。奥で作業をしていたドクトルが「何事だ!」と叫びながら出てきたが、すぐにまた始まった銃撃にアンダーソン以外の全員が床に伏せた。アンダーソンは一発だけ弾に当たったが、揺らめいただけで終わった。


「わからない。ロボットの大群が」


 キキが言いかけると、三回目の銃撃が行われる。ドクトルの家の正面玄関は見るも無残になりはじめていたが、どうやらロボットの軍隊はポーチを上ることができないようだった。アンジーは震えながら床に伏せていたが、ふと背中に背負っていた銃のことを思い出し、意を決したように窓まで這っていく。「アンジー!」と叫ぶキャシーの言葉にも耳を貸さず、アンジーは窓から顔を出さないようにライフルを割れたガラスの間から出すと、ダン! と大きな音を立てて一発目を射撃した。アンジーは反動でその場に尻もちをついたし、銃弾はロボットには当たらなかったが、『武装を確認。データ更新。一時退却』という抑揚のない音声が聞こえる。アンジーが再び窓に近づくと、ロボットの大群は来た道を戻っていくところだった。銃撃が止み、各々がゆっくりと立ち上がると、キキはドクトルに言った。


「狙いは、ランバートだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ