第二話 勇者戦
ぶじゅじゅじゅ……
この音、幼稚園の頃、嫌いでした。
本編読んだら……ね、わかりますよ。
「――お前は今、此処で倒すべき存在だッ!!」
「え? なになに? 私を? 冗談よしてよ〜♪」
「冗談、だと……巫山戯るなァァァア!!!!」
「えぇ〜本気なの〜! もう謝ったじゃん!」
「入らないッ! あんなの謝ったに入らないッ!!」
「んもぉー! どうなっても知らないよ!」
「ふっ。かかってこい。殺ってやる」
――俺はこの時、一体何を考えていただろうか。
――俺はこの時、一体どのような顔をしていただろうか。
きっと、しょうもない怒りのせいで頭はいっぱいいっぱいだっただろう。しょうもない怒りのせいで顔は生来の死んだ魚の目をくっと吊り上げ、ちょっとでも険しさを出して威嚇しようとしていたことだろう。
――嗚呼、なんて見苦しいのだろう。
何故一瞬でも勝てる、倒せると思ってしまったのだろう。やはり、どこをどう考えても分からない。
それより何故、この勇者に反応してしまったのだろう。
反応しないでいられたならば……
あんなキレ方しないでいられたならば……
「こーーーーんなことにならずに済んだのォにィィィィィィィィィィィィィイイイイ!!」
「だからさっき言っといてあげたのになぁ。“どうなっても知らないよ”ってね~!」
「……ず、ずびィばぜんでじだぁぁあああああああああ!? あの、チョー痛いんですけどぉ、こぉぉおおおおお! れぇぇええええええ!!」
先程から所々声が強ばっているのはアレのせいである。アレとは必殺『傷口消毒液&ガーゼ』のことである。
やんちゃボーイズ&ガールズ、あとは運動部の人、よくこれ食らってません?
痛いですよね。“超”が付くほど痛いですよねぇ!
僕、今食らってる最中なんです。
何故って?
喧嘩ふっかけてぼろ負けしたんです。勇者と喧嘩したんです。バカの。加減わかんない奴なんです。
一瞬、時をとべたんだから倒せるって思っちゃったんですよね。で、最初は称号なしと“伝説の勇者”との差を僕のvocabularyで、圧倒的根本的な“言の波”で埋めてたんです。
でも、奴は称号の強化があるんですよ。根本的でない、末端的な“言の波”が尋常じゃなくあるんです。どんな言葉放っても強いんです。軽く僕の数十倍程度。総量、出力共にエグいんです。今までの僕の頑張りは称号の前に散りました。
そして僕は思いました。勉強ってなんでしょうね、と。
その結果、医務室です。ここ、医務室です。
で、勇者の言うことを聞くはめになりました。やはり、教師をやらされるようです。僕、これからどうしましょう。
と、気色悪い口調はこの辺で止めにして普段の口調に戻そう。そんなこんなでバカ勇者の教師をすることになり、意図していない形で初称号を獲得できたので、装着しようと思う。
俺は教師という職業柄か身の回りのことを行う、ゲームでいうメニュータブが教師簿となっている。俺の脳と連動していて、メニューが自動展開するシステムらしい。
それでは、
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鈴木良正
職業:仮“伝説の勇者”→“伝説の勇者”教師
称号:なし→新米教師or“伝説の勇者”側近
どちらを選択しますか? 《左◀▶右》
※称号獲得時、同時に装備を獲得。装着すると自動で服装変化
装備:初期(赤チェックシャツ&黒ジーンズ)
→|
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おぉ、称号を獲得するとそれにあった装備も獲得できるのか!
それはありがたい。ずっとこの赤チェックと黒ジーンズという服装でいるのは、さすがに辛いと思っていたところだ。今後の生活にとって実にありがたい。
いや、何より称号とかこういう類は実用性が肝心。そう思った俺はこれらの称号について詳細な情報を得るため、『HELP』と思念する。
すると、すぐさま俺の目の前に今知りたい情報が直接脳に流れ込んでくる。
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称号…つけると自分の身分や地位を相手に示すことが可能。当然、自慢も可。主に何かを達成したときに獲得可能。例として、何か能力を得た場合、強さが一定を超えた場合等が挙げられる。上記の例外として、役職に就くことで称号を獲得し、能力や強さを得ることがある。このようなものの大概は抽選や一方的な意志の働きといった性質を 持つものである。※勇者とその側近、何もせず何か役職に任命・指名された場合等
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なるほど。今回俺の獲得した二つのうち、“勇者側近”の方は例外的に能力や強さ、つまりアイツみたいな強化とかが得られるということだろう。
なら今俺が選ぶのは、選ぶべきは、
『右! “伝説の勇者”側近を選択する! さあ、強化よ我が手に!!』
当然、右一択だ。これで強くなれるんだ。さっきだって強化を除けばこの俺の方が強かったんだ。
俺の方が…俺の方が……俺の方が………
「――ウォーン、ウォーン、ウォーン、、、」
意識の奥底に嵌りかけていた俺は、余りにも騒々しい異音によって現実へと引き戻された。その音は、どこか聞き覚えがあるような。まるで……そう、サイレンのような音だった。
が、その“騒々しい音”が響いているにもかかわらず、俺以外の人間は全く反応を見せない。終いには、音に苛まれている俺に何か汚いものでも見るような冷酷な眼差しを向けてきた。
でも、俺は至って冷静だった。何故ならこの現象の解決を最優先に考え、話が大きくなるのを防ごうとしたからだ。これはあくまで俺に起きている事象で他の奴には無関係、あいつに関して言えば迷惑を掛けてしまう云々以前の話。あいつは途方もないバカ。言ってしまえば、“どバカ”だ。邪魔なだけ鬱陶しいだけなので、ここはなんとしてでも自力で解決せねばならない。
初め、辺りに不審なものや不審者がないか確認したが見当たらなかった。
次に、部屋中を走り回って音の発生源をより丁寧に探したが、どこであってもこの音は同じ大きさ、質でまた見当たらず。
しかし、この二つの確認で情報を得たことで大方の見当がついた。
確証は無いが……あ、やはりな。
先からの異音の正体は、俺の教師簿だった。
それなら、もっと早くに気づいてもいいんじゃないか?
そう思うかもしれない。だが、この教師簿は俺の脳と連動しており、俺が意志を示さない限りただの教師簿なのだ。
確かに俺は音の発生源を探すときに最初に開いて見てみたが、そのときは俺がただ中を確認するだけと考えていたため、当然メニューは出てこない。
今回の音の発生源はこのメニュー、の中のシステム。称号の装着を任せていたので、その完了を告げるための音だったらしい。まだ、設定だなんだと弄っていなかったがために起きた小さな事件だ。確認を怠ってしまった自分の不始末に、穴があったら入りたいとひとり思った。
その後、落ち着いてからメニューを再度確認すると、ステータスアイコンに赤いマークがあった。
これが何かを知らせるものだと直感した俺は、ステータスアイコンを今出せる目一杯の力を込めて押した。メニューに指がめり込み、その後ろの実体を持った紙製の教師簿が破けそうになっているのに目もくれず、押し続けた。立ち上がるのに必然的にかかるほんの少しの時間すらも許せず、無意味な連打を続ける。
そして、やっと
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鈴木良正
職業:仮“伝説の勇者”→“伝説の勇者”教師
称号:なし→“伝説の勇者”側近
装備:初期(赤チェックシャツ&黒ジーンズ)
→純黒のローブ(古龍毛製)
濃紺のワイシャツ(古龍毛製)
濃紺のスラックス(古龍毛製)
魔力 なし
言の波 25000+0+0→25000+0+5000
・通常出力 1500/分 → 3000/分
・最大出力 15000/分 → 22500/分
能力
魔法耐性 なし→Lv.1
属性耐性
・火 なし→Lv.1
・水 なし→Lv.1
・木 なし→Lv.1
・天 なし→Lv.5
・地 なし→Lv.5
・光 なし
・闇 なし→Lv.5
※あらゆる魔法は、基本三属性(火水木)
と上位属性(天地光闇)に分類される。
これ以外の属性の場合、どれかの派生で
ある。二つ持つものもある。
特殊能力
自己愛
いつでも自らを鼓舞し、強化をかける
強固な決意
自らの決定、決意は絶対。それに仇なす者に弱化、自身には絶大な強化をかける。自らの決定を遂行出来ないとなると、神にも並ぶ強さを得、死まで絶えず抗い続ける
天才
言の波の並行使用が三つまで可能
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自分のステータスを見られた。見られたのはいい、が……
これ、“俺TUEEEE”じゃね!?
わかりました?なら、OKです!